著者は非妊ラット子宮および大腿部皮下, さらに妊娠ラット子宮および大腿部皮下に吉田肉腫細胞を移植して腫瘍環境の相異による腫瘍の性状と, その放射線効果を検討した. 実験方法としては移植後7日目の移植率, 腫瘤直径, 組織像, 3H-Thymidine標識細胞率について検討し, さらにテレコバルト全身照射による1回照射法で, 500Rあるいは2000R照射し, 照射24時間および48時間後の腫瘍細胞につき3H-Thymidine標識細胞とその減少率, 組織学的変性度と, それから求めた非変性率および腫瘤直径とその縮小率を各移植群について検討した.
非妊ラット子宮移植腫瘍の移植率は88%, 腫瘤平均直径は0.82cmであり, 腫瘤は定型的吉田肉腫の結節型を呈しており, その3H-Thymidine標識率は32.3%であった.
大腿部皮下移植腫瘍の移植率は87%, 腫瘤平均直径は1.30cmで, 標識率は40.8%であった. 照射後では標識細胞減少率および非変性率は両移植群ともに線量の増加と時間の推移とともに減少することが認められた.
妊娠ラット子宮移植腫瘍では移植率68%, 腫瘤平均直径は1.16cmで非妊ラット子宮移植腫瘍に比して移植率は低下するが, 腫瘤平均直径は妊娠ラットの方が有意に大であった. また両群の照射効果を比較すると非妊ラットに比し妊娠ラットでは500Rで著しく良好であるが, 2000R照射群では有意差を認めなかった.
妊娠ラット大腿部移植腫瘍では移植率95%, 腫瘤平均直径は1.31cmで, 非妊ラットとの間には移植率, 腫瘤平均直径ともに有意差を認めなかった. 照射効果についてみると50oR照射群, 2000R照射群のいずれにおいても, 両移植群の間に著名な差を認めなかった.
次に各移植群の腫瘍内間質血管数を比較すると, 子宮内移植腫瘍の血管数は大腿部移植腫瘍に比し豊富で, 妊娠子宮の血管数は非妊ラット子宮に比し有意に多かった. このことから血管数の増加がひとつの因子として照射効果に大きく関与していると推察された.
以上のことより同一腫瘍であっても腫瘍環境が異なることによって腫瘍の照射効果が異なることを認めた.
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