現在胎児性別の出生前診断は, 胎児由来細胞を培養し, その染色体分析を行うことにより可能であるが, 羊水穿刺では流早産, 胎児損傷, 感染, 出血等の弊害が皆無ではない.
一方母児間に血球の移行がみられることから妊婦末梢血リンパ球の染色体分析による胎児性別判定も検討されているが, いずれにせよ培養などの煩雑な操作を要する.
しかるに1969年末Quinacrine mustard(以下Q. M. )でY染色体が蛍光を放つこと, 翌1970年に細胞休止核中に蛍光発色する蛍光小体Fluorescent body(以下F-body)はY染色体であることが証明された.
そこで本研究では, この事実を応用し妊婦末梢血より自然分離した白血球浮遊液の塗抹標本をQ. M. で染色し, リンパ球中に出現するF-bodyを指標として, 胎児の性判定の可能性を検討した.
F-body出現率は男性では52.73%±4.46%, 未妊健康女性では1.25±0.76%であったが, 未妊女性の最高出現頻度が2.44%であったことからこれを指標として胎児性別を検討したところ, 初妊婦および女児のみを分娩せる経産婦においては82%の適中率であったが, 過去に性別不明の流早産, あるいは男児, または男女両児を分娩した婦人での適中率は66%であった. 従ってこの両群を通じ胎性診断適中率は73%であった. 胎児リンパ球の検出は妊娠第19週頃から可能ではあるが, その結果は意外に低く, その原因はQ. M. 染色がY染色体に必ずしも特異的でないことにあり, これが本法の限界であろう.
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