紀元6世紀に中国から輸入された“漢方医学”は,日本国内で独自の発展を遂げ,現在は新しい形で医療界に受け入れられようとしている.西洋医学では説明がつかない,あるいは治療法が確立していない病態や疾患に対し,また近年増加しているストレス関連疾患の治療において,「もうひとつの道」としての漢方医学が今,世界的に注目されている.
漢方医学は,疾患の多様性と個々の患者の個別性に対応できる医学体系であり,「証」による治療を基本とする(随証療法).これにより全人的な医療が可能となり,とくに女性医療のなかでは,更年期不定愁訴に広く応用されている.
わが国の女性は,ストレス包囲環境に置かれる状況を生じやすく,気血水平衡の喪失,七情損傷からの五臓障害を引き起こしやすいとされる.これにより発現する多くの不定愁訴は,西洋医学的にとらえられる異常所見からは,いかなる診断基準も満たさないが,漢方医学的にはその独特の診断方法を駆使することにより,さまざまな病態が見いだされ,異常点を説明できる.その病態説明は治療に直結しており,そのため漢方医学は古くから治療学中心の医学体系であるといわれてきた.
西洋医学と漢方医学はけっして対極ではない.いずれも病気を駆逐し,患者の苦しみを和らげることが最終目標である.わが国においては,これら2つの医療体系が融合しながら新しい医療の流れを形成することが“患者中心医療”の実践には望ましいことであろう.
医学は科学の1分野であり,漢方医学もまた科学である.しかし,3000年以上の歴史をもつといわれる東洋医学の科学としての分析はようやく始まったばかりである.更年期女性の不定愁訴の改善に対する漢方薬の作用機序の研究も緒に着いたところと言わざるを得ないが,今後の多軸的なベクトルでの臨床研究や複雑系医学の分析手法を用いた研究により,漢方医療の有効性の解明が期待される.
〔産婦の進歩57(2):131-150,2005(平成17年5月)〕
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