原発性卵巣癌肉腫はその発生頻度が子宮内膜での発生に比べて著しく低い疾患である.今回われわれは,pseudo-Meigs syndromeを発症した稀有な1例を経験したので報告する. 症例は76歳の女性で,腹部膨満感を主訴に近医を受診した.大量の腹水貯留のため当院を紹介された.CTおよびMRIで大量腹水を伴った骨盤内悪性腫瘍を疑う巨大腫瘤を認めた.血中LDHが1582 IU/l,CA125が410 U/mlと上昇していた.全身状態を改善するために腹水穿刺を行い,採取した腹水の4000mlを濾過濃縮再静注した.残り500mlで細胞診を行ったが,悪性腫瘍細胞は確認されなかった.しかし,臨床所見およびMRI,CTの所見より癌性腹膜炎の可能性が高いと考えられたため,カルボプラチン腹腔内投与施行した.その後,腹水が再貯留し,12日後には胸水が出現した.18日後に胸水穿刺施行し,4日間で総量2200ml排液,細胞診を施行したが,やはり悪性腫瘍細胞は確認できなかった.翌日,腹式単純子宮全摘出術,両側子宮付属器摘出術,大網切除術,虫垂切除術,骨盤および傍大動脈リンパ節郭清術,カルボプラチン450mg腹腔内投与を施行した.摘出標本で,子宮と卵管の内膜に腫瘍はなく,引き延ばされた右卵管に接した部位から発生した,広範囲に中心壊死を伴う腫瘍が,子宮の底部から後壁のほぼ全面に,漿膜側から内腔方向に浸潤していることより,右卵巣原発腫瘍と考えられた.また組織型は上皮性悪性腫瘍成分と間葉系悪性腫瘍成分が混在しており,一部に軟骨肉腫の部分が認められたため異所性癌肉腫と診断した.左卵巣,大網,虫垂に転移性腫瘍はなく,胸腹水にも腫瘍細胞は認められなかった.いわゆるpseudo-Meigs syndromeを発症したII期の卵巣原発異所性癌肉腫であった(pT2cN0M0).術後補助化学療法としてTC(パクリタキセル,カルボプラチン)化学療法を6クール行い,10ヵ月経過した時点では完全寛解状態が持続している.本症例はきわめてまれで,初めての報告と思われる.〔産婦の進歩62(4):333-339,2010(平成22年11月)〕
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