胎盤血管腫は胎盤に発生する良性腫瘍の中で最も頻度の高い疾患である.通常,腫瘍径は5cm以下のものが多く,15cmを超えるものはまれである
1).とくに腫瘍径の大きなものほど周産期合併症が多く,母体では羊水過多,早産,胎児では非免疫性胎児水腫,心不全,貧血,胎児発育不全,DICなどの重篤な合併症を引き起こすことが報告されている
2,3).今回,われわれは著明な羊水過多を契機に胎盤血管腫が疑われ,妊娠29週2日に胎児心不全に至った直径18cmに達する巨大胎盤血管腫の1例を経験したので報告する.症例は17歳,初産婦.妊娠27週0日に羊水過多と切迫早産と診断され,当院に搬送された.超音波検査で胎盤辺縁に91×63mm大の血流豊富な腫瘍を認め,胎盤血管腫を疑った.妊娠29週2日に胎児水腫と心嚢液貯留を認め,CTAR(cardiothoracic area ratio) 43%,IVC-PLI(inferior vena cava preload index) 0.5と上昇したため,胎児心不全と判断し緊急帝王切開術を行った.腫瘍は治療期間を通じて徐々に増大し,分娩時の直径は18×13cmであった.胎児は集中治療により日齢96で退院した.今回,われわれは厳重な胎児観察を行い,胎児心不全の診断後,速やかに胎児娩出を行い,児の出生後経過も良好であった症例を経験した.巨大な胎盤血管腫を認めた際には,合併症に対する対症療法を行いながら,胎児心不全徴候を早期に発見し,その所見を認めた場合は迅速な分娩も含めた適切な対応を行う必要がある.〔産婦の進歩64(4):490-494,2012(平成24年11月)〕
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