卵巣癌の術前に肺動脈血栓症と診断され,周術期にヘパリンによる抗凝固療法を行い,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と診断された2例を経験した.[症例1]49歳,女性.受診の1カ月前から腹部膨満感と数日前からの呼吸困難感を主訴に前医を受診した.そこで,卵巣腫瘍を指摘され当科紹介された.術前検査でDダイマー高値のため肺動脈・下肢静脈造影CT検査を施行し,肺動脈血栓症と診断され,術前よりヘパリンナトリウムによる治療を開始した.[症例2]65歳,女性.CA19-9高値のため近医から当院内科に紹介となり,腹部CTにて骨盤内腫瘤を指摘され当科紹介となった.診察待ち時間中に突然胸痛が出現し,経皮的動脈血酸素飽和度の低下を認めた.造影CT検査で肺動脈血栓症と診断され,ヘパリンによる治療を開始した.2症例とも手術療法を行ったが,血栓予防を目的とした術後のヘパリンによる抗凝固療法中に血小板減少をきたし,臨床的にHITと診断された.このためヘパリンの中止と,既存の血栓とHITによる新規血栓予防のための抗凝固療法として抗トロンビン薬への変更を行った.婦人科悪性腫瘍,とくに卵巣癌は術前に血栓症を合併する頻度が高く,ヘパリンを使用する頻度は高くなっていると思われる.免疫学的機序を介して発症するHITII型は,早期診断,早期治療が行わなければ発症患者の38.0~55.5%に血栓症を合併し,死亡率は4.8~10.6%と報告されている.そのため,臨床的にHITが疑われる場合には,HITによる重篤な合併症の存在を認識し,発症早期より治療を開始することが重要である.〔産婦の進歩67(1):21-27,2015(平成27年2月)〕
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