産婦人科の進歩
Online ISSN : 1347-6742
Print ISSN : 0370-8446
ISSN-L : 0370-8446
72 巻, 3 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
研究
原著
  • 宇田 元, 増原 完治, 本多 秀峰, 山本 幸代, 北井 俊大, 磯部 晶, 信永 敏克
    2020 年 72 巻 3 号 p. 193-198
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease;PID)は重症化により卵管卵巣膿瘍(tubo-ovarian abscess;TOA)を形成し,しばしば外科的治療が必要となる.本研究は,PID 症例において,どのような症例で外科的治療が必要になり,また,どの程度再発が生じるのかについて検討することを目的とした.当院において2015年5月から2017年6月までに経験したPID 症例計47例中,入院治療を要した31例の臨床経過を後方視的に解析した.さらにPID再燃の有無につきアンケート調査を実施した.入院を要した31例(TOAなし7例,TOAあり24例)のうち8例で手術を要し,うち2例は腹腔鏡下手術,6例は開腹下手術を行った.外科的治療群は保存的治療群に比して,年齢が高く(p=0.034),入院時にCRPが高く(p=0.009),膿瘍径が大きかった(p=0.009).手術は全例膿瘍ドレナージ術のみとし,付属器や子宮の摘出は行わなかった.31例のうち退院後PID再燃のために再診した症例はなかった.また,アンケート調査により10例から回答を得られ,それら全例でPIDの再燃は認められなかった.手術が必要なPID症例は年齢が高く,入院時の炎症所見が高く膿瘍のサイズが大きい.手術を行う場合,膿瘍ドレナージ術だけでも再燃率は高くないと考えられる.〔産婦の進歩72(3):193-198,2020(令和2年8月)〕

  • 大坪 昌弘, 山出 一郎, 須藤 慎介, 濱田 啓義, 井上 卓也, 眞田 佐知子, 中山 貴弘, 畑山 博
    2020 年 72 巻 3 号 p. 199-204
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    最近の調査で,妊産婦死亡に占める産後うつ病の割合が高いことが指摘され,産婦のメンタルヘルスケアの重要性が再確認されている.一方,日本では晩婚化を背景に生殖補助医療による妊娠の比率が増加している.今回われわれは,産後のうつ様症状発症と生殖補助医療による妊娠との関連性について後方視的検討を行った.産後2週間および4週間健診時のエジンバラ産後うつ病自己評価票:Edinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS)の結果を用いて,平成29年4月から平成30年3月の1年間に当院で分娩し,当院で産後健診時を受けた単胎出生例1615人のうち,自然妊娠(control)群1066人と生殖補助医療による妊娠(ART)群294人の計1360人を対象とし,2群間の産後健診時のEPDSの結果を比較し,傾向スコアを用いて検討した.産後2週間健診時EPDSが9点以上の症例頻度はcontrol群で10.0%,ART群で9.9%と有意差はなく,産後4週間健診時EPDSが9点以上の症例頻度は前者6.9%,後者8.2%でも有意差を認めなかった.また,保健センターへの連絡を要した症例頻度はおのおの12.6%,14.3%で有意差は認められなかった.傾向スコアによるマッチングを用いた2群間の比較では,産後2週間・産後4週間健診時EPDSが9点以上の症例頻度はcontrol群とART群間で有意差を認めたが,保健センターへの連絡を要した症例頻度は有意差を認めなかった.今回の検討では,妊娠方法と産後のうつ様症状発症とは関連性は示されなかったという結果が得られた.〔産婦の進歩72(3):199-204,2020(令和2年8月)〕

  • 西田 秀隆, 中村 光佐子, 古板 規子, 山西 歩
    2020 年 72 巻 3 号 p. 205-210
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    CIN2症例の転帰を評価するため,われわれは当院で過去15年間に管理したCIN2症例58例について病変の自然消退率,進展率,円錐切除術の結果を後方視的に検討した.調査の過程で,当院ではCIN2とCIN1,またはCIN3との境界的診断症例(CIN1-2;36例,CIN2-3;47例)が存在し,合わせて検討した.CIN1-2,CIN2-3とは,生検の段階で確定が難しい場合に暫定的に定義した当院独自の診断用語である.通院中断症例を除く症例数と年齢分布は,それぞれCIN1-2(32例:20~60歳;中央値36.5歳),CIN2(50例:14~63歳;中央値35歳),CIN2-3(43例:20~61歳;中央値37歳)であった.消退率は,CIN1-2:63%(2~55カ月;中央値7.5カ月),CIN2:64%(2~30カ月;中央値6カ月)であった.30歳未満では,消退率はCIN1-2:89%(8/9),CIN2:75%(9/12)であった.進展率と進展までの期間は,それぞれCIN1-2:16%(3~43カ月;中央値7カ月),CIN2:16%(7~60カ月;中央値16カ月),CIN2-3:12%(3~74カ月:16カ月)であった.CIN2-3は84%(36/43)で円錐切除術が施行されていた.円錐切除術後の最終的な病理診断でCIN3は78%(28/36)であった.通院中断患者からそれぞれ1名ずつ計3名の浸潤癌症例を認めた.CIN2は,約60%の症例で自然に消退していた.2014年にWHO分類でCIN2とCIN3を同じHSILに分類する,SIL分類が採用されたことで,将来本邦でもCIN2症例の円錐切除術の機会が増える可能性があるが,従来どおりCIN2とCIN3を区別することは過剰治療を避けるために意義があると思われる.〔産婦の進歩72(3):205-210,2020(令和2年8月)〕

  • 高橋 良輔, 清水 真帆, 長又 哲史, 松本 培世, 村田 友香, 鈴木 嘉穂, 出口 雅士, 寺井 義人
    2020 年 72 巻 3 号 p. 211-215
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    進行卵巣癌,原発性腹膜癌の治療において,術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)とその後の減量手術(interval debulking surgery;IDS)の有用性について報告されている.NACを行う際の診断方法として,手術による生検と体腔液の穿刺細胞診があるが,細胞診では組織診断が困難な欠点がある.そこで,われわれは組織型の再現がしやすいcell block法(CB法)を取り入れている.今回,NAC時の診断における腹腔鏡下生検術とCB法について,診断精度,診断までに要した日数,合併症の有無について比較検討を行った.2009年1月から2018年12月までに当院で治療した卵巣癌・原発性腹膜癌が疑われ,NAC目的で腹腔鏡下生検術(以下 LB群)もしくはCB法(以下 CB群)を行い,根治手術時に病理診断が可能であった53例(LB群18例,CB群35例)を後方視的に検討した.LB群は18例全例で生検結果と最終診断が一致した.CB群は漿液性癌においては28例中22例で腺癌の診断であり,さらに22例中17例でCB法の時点で漿液性癌までの診断が可能であった.また,胃癌と膵臓癌の症例もCB法で診断が可能であった.しかし,一方で粘液性癌の全症例と癌肉腫の2例のうちの1例はCB法では悪性所見なしの結果であった.診断までに要した日数は有意にLB群が長かった(8.9日 vs 7.0日 p<0.05).2群間で合併症の頻度に有意差はなかった(p=0.08).進行卵巣癌や腹膜癌に対してNAC+IDSを行う際の診断において,漿液性癌ではCB法でも正診率は高いが,粘液性癌などでは診断困難な場合も多く,組織型によっては腹腔鏡下生検が必要になる可能性がある.〔産婦の進歩72(3):211-215,2020(令和2年8月)〕

  • 高瀬 亜紀, 橘 大介, 札場 恵, 田原 三枝, 羽室 明洋, 中野 朱美, 三杦 卓也, 古山 将康
    2020 年 72 巻 3 号 p. 216-223
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    ITPの診断時期による治療法や周産期事象の違いを明らかにするため,当院で管理したITP合併妊娠症例において,ITPが周産期事象に与える影響を検討することを目的とした.2010年7月から2019年7月までに当院で管理したITP合併妊娠34例42分娩(2回分娩8例を含む)を対象とし,ITP診断時期,抗血小板抗体の有無,摘脾の有無,ピロリ菌の有無,治療法,血小板数,分娩方法,分娩時出血量,輸血の有無,児の出生体重,Apgar score,児の血小板数について検討した.妊娠前にITPと診断された群が26例,妊娠中にITPと診断された群が16例で,2群の患者背景に有意差は認めなかった.治療に関しては,両群とも約半数は無治療で血小板数を維持でき,治療法に有意差はなかった.周産期事象の比較では母体最低血小板数と分娩時血小板数で有意差を認め,妊娠前にITPと診断された群で9.1(1.6-21.1)万/μl,妊娠中にITPと診断された群で5.0(1.2-9.0)万/μlと有意に低い結果であった.5症例で新生児血小板減少症を認めた.ITP診断時期別の臍帯血血小板数,日齢2・日齢5の新生児血小板数は,母体分娩時血小板数・PAIgG値に相関を認めなかった.第1子と第2子の臍帯血血小板数,日齢2・日齢5の新生児血小板数の相関は有意ではなかったが,日齢2・日齢5の新生児血小板数においてSpearman相関係数は0.75と第1子と第2子の血小板数に強い正の相関傾向を認めた.本研究ではITPの診断時期によって治療法や周産期合併症に差はなく,診断時期に関係なくステロイド療法や免疫グロブリン大量療法で計画的に治療し,出産時期・分娩方法に合わせ,必要に応じて血小板輸血をすることで,母体・胎児の合併症なく管理可能であることが示された.〔産婦の進歩72(3):216-223,2020(令和2年8月)〕

  • 岡本 葉留子, 川崎 薫, 林 信孝, 小山 瑠梨子, 大竹 紀子, 上松 和彦, 青木 卓哉, 吉岡 信也
    2020 年 72 巻 3 号 p. 224-229
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization;UAE)は,分娩後異常出血(postpartum hemorrhage;PPH)に対する有効な治療法であるが,不安定な循環動態や凝固能は臨床的不成功の一因になりうる.本検討では,DICを併発したPPHに対するUAEの有用性と安全性を明らかにすることを目的とした.2013年~2018年間に当院でPPHに対しUAEを施行した26例を対象とし,患者背景,臨床経過,UAEの有効性や合併症について検討した.産科DICスコア8点以上であった症例(以下DIC発症群)は22例で,7点以下であった症例(以下非DIC発症群)は4例であった.止血成功例はDIC発症群20例(90.9%),非DIC発症群4例(100%)であり,有意差は認めなかった.重篤な合併症はDIC発症群に2例(腹部大動脈解離,子宮内感染),非DIC発症群に1例(子宮壊死)を認めたが,いずれも侵襲的な処置を必要としなかった.UAEはDICを併発した場合でも十分な止血効果を発揮する比較的安全な治療法である.〔産婦の進歩72(3):224-229,2020(令和2年8月)〕

  • 山村 幸, 山口 建, 本田 明夏, 堀江 昭史, 山田 崇弘, 濱西 潤三, 小杉 眞司, 万代 昌紀
    2020 年 72 巻 3 号 p. 230-236
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)はBRCA1/2遺伝子変異による遺伝性腫瘍である.卵巣癌は有効なサーベイランスがなく,発症リスクがきわめて高いことからリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が勧められる.本研究は,当院でHBOCと診断されてRRSOの適応がある症例を検討し,その臨床的課題を明らかにすることを目的とした.京都大学医学部附属病院で2010年から2019年3月までにHBOC関連の遺伝カウンセリングを初診として行った304件のなかで,HBOCと診断された45名を対象に,後方視的に手術を選択される患者の背景,合併症,予後を検討した.2010年以降,HBOC関連の遺伝カウンセリングを初診として行った件数は,2014年に治験が開始されて以降増加した.結果を開示した194名の中でHBOCと診断されたのは45名いた.乳癌発症後に診断された症例は33名,卵巣癌発症後は8名,家族歴から遺伝子診療部を紹介された例が4名いた.BRCA1変異は16例,BRCA2変異は29例あった.卵管卵巣摘出の既往がある症例を除き,経過観察可能なRRSOの対象症例は32名,平均年齢は46.7歳であった.RRSOは2015年から開始して計13例行った.BRCA1変異でRRSOの対象となる11例中6例に,BRCA2変異は21例中7例にRRSOを行い,BRCA1変異の症例にRRSOを選択される傾向があった(p=0.2826).RRSOを行い女性ホルモン受容体状態が判明している11例に関しては,BRCA1変異乳癌5例全例陰性であったが,BRCA2変異乳癌6例全例陽性であった.RRSOを行った13例中12名は40歳以上で,1例は3経産の38歳であった.RRSOは全て腹腔鏡手術で行った.術中出血量は全例少量で合併症は認めなかった.摘出標本には全例卵巣癌,卵管癌は認めず,腹水細胞診は陰性であった.術後経過観察期間中央値は14カ月で,心血管系障害,骨粗鬆症,腹膜癌を発症した症例はなかった.腹腔鏡下RRSOは安全であるが,術後の健康障害は長期間の経過観察が必要である.BRCA2変異は女性ホルモン受容体陽性が多いため,RRSOを検討する際には卵巣癌のみならず,乳癌への影響についても情報提供をすることが必要である.〔産婦の進歩72(3):230-236,2020(令和2年8月)〕

  • 西端 修平, 吉田 彩, 副島 周子, 安原 由貴, 神谷 亮雄, 黒田 優美, 通 あゆみ, 岡田 英孝
    2020 年 72 巻 3 号 p. 237-242
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    可逆性後頭葉白質脳症 posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)は,一過性の脳浮腫に伴う症候群であり,迅速な治療介入により神経学的後遺症を残さず可逆性で予後良好とされている.一方で,脳出血のリスク,神経学的後遺症や死亡の報告もある.今回,MRI検査のT2強調画像およびFLAIRで高信号,DWIで同部位に信号変化を伴わないものを後方視的にPRESと診断し,それらの症例の臨床所見,発症時および後日のMRI所見も含めて検討し,MRI検査を行う意義および時期について報告する.2007~2017年の期間に当院で神経学的症状(頭痛,視覚障害,意識障害,痙攣,嘔吐等)を認めた妊産褥婦のうち,頭部MRI検査よりPRESと診断した症例を検討した.PRES症例は8例で,発症時期は妊娠中が3例,分娩時が2例,産褥期が3例であった.初発症状は子癇発作が最も多く,8例中5例であった.合併症はHELLP症候群が3例,脳出血が1例であった.全ての症例で発症時収縮期血圧は150 mmHgを超えていた.脳出血をきたした1例を除いては,降圧剤で速やかに降圧可能であった.PRES所見を8例中6例で後頭葉に5例で基底核に認めた.脳出血を合併した症例は軽度高次機能障害の後遺症が残ったが,その他の症例は後遺症なく経過した.後日のMRI検査を施行した6例については4-27日後に所見の消失を確認した.中枢神経症状をきたした症例は発症からより早期に,全身状態が許せば可及的速やかにMRI検査を施行し,PRESの早期診断,早期治療,予後の改善を目指すことが重要と考えられた.〔産婦の進歩72(3):237-242,2020(令和2年8月)〕

  • 高折 彩, 村上 隆介, 河原 俊介, 堀川 直城, 千草 義継, 安彦 郁, 濱西 潤三, 万代 昌紀
    2020 年 72 巻 3 号 p. 243-250
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    AURELIA試験でプラチナ製剤抵抗性卵巣・卵管・腹膜癌(以下卵巣癌)に対するベバシズマブ(以下Bev)併用単剤化学療法の予後延長が示されたが,再発卵巣癌患者では,Bev投薬に伴う有害事象のリスク因子(腸管切除既往など)が多い傾向にある.今回,プラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌に対するBevに関連する有害事象について検討した.2015年7月から2019年1月の期間に当院でBev併用単剤化学療法を行ったプラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌13症例において,Bev併用単剤化学療法の治療件数は19件で,前治療レジメン数は中央値3(最小1,最大5)レジメンであった.Bevと併用した抗がん剤はイリノテカン6件,リポソーム化ドキソルビシン8件,ジェムシタビン3件,パクリタキセル2件であった.有害事象は腸穿孔1例(腸管切除既往例),深部静脈血栓症2例,高血圧1例,蛋白尿1例で,そのうちGrade3以上の有害事象は高血圧と蛋白尿と腸穿孔であった.有害事象のためにBev治療を中止した症例は,13例中4例(30.8%)であった.無増悪生存期間は中央値4.3カ月であった.プラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌に対する前治療レジメン数が多い症例におけるBev併用単剤化学療法は,腸管合併切除の既往や腸管再発の有無を考慮して,消化管穿孔や重篤な有害事象の発症には十分留意して行うべきである.〔産婦の進歩72(3):243-250,2020(令和2年8月)〕

  • 松坂 直, 森下 紀, 藤田 浩平, 廣瀬 雅哉
    2020 年 72 巻 3 号 p. 251-258
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    2011年1月から2017年12月の7年間に,子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia;CIN)や早期子宮頸癌,あるいはその疑いのためにLEEP(loop electrosurgical excision procedure)による子宮頸部円錐切除術(LEEP法)を実施した症例に関して後方視的検討を行った.2019年12月までをフォローアップ期間とした.LEEP法は299例,針状電極を用いた通常の子宮頸部円錐切除術は102例に実施した.LEEP法では年齢は36.7±7.2歳(平均±SD,19-71歳)で,114例(38.2%)が未産婦であった.術後病理診断では,術前診断がCIN3のもののなかから子宮頸癌IA1期が5例(1.7%)認められた.100 ml以上の術中出血量を32例(10.7%)で認めた.術後に出血を主訴に予約外受診した症例は49例(16.4%)であった.術後頸管狭窄・閉鎖を呈した症例は存在しなかった.CIN3以下であった290例のうち,術後に再治療を要したものは,切除断端陰性163例中2例,断端不明・判定困難60例中1例,断端陽性67例中9例であった.再手術を行った症例では浸潤癌は認めなかった.円錐切除術後の妊娠に関する検討では,フォローアップ期間内に40妊娠が確認され,その転帰は,正期産26妊娠,過期産1妊娠,早産3妊娠(分娩週数,妊娠31週;35週;36週),流産4妊娠(すべて妊娠初期),人工妊娠中絶3妊娠,妊娠中1妊娠,転帰不明2妊娠であった.妊娠中期以降妊娠が継続し妊娠転帰の判明している症例での早産率は10.0%であった.当院のLEEP法に関しては,術前評価はほぼ正しく行えており,病変の遺残・再発や浸潤癌が存在するリスクはわずかにあるものの治療完遂度は高く,かつ将来の妊娠・分娩への影響は比較的少ないと考えられる.〔産婦の進歩72(3):251-258,2020(令和2年8月)〕

症例報告
  • 長辻 真樹子, 上田 尚子, 岡田 麻美, 村上 誠, 徳山 治, 甲田 洋一, 川村 直樹
    2020 年 72 巻 3 号 p. 259-265
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    大型かつ血流豊富な子宮肉腫の手術では,しばしば多量出血をきたし、手術完遂に難渋することがある.今回,術前に子宮および卵巣動脈塞栓術を施行し,出血量を少なく抑え手術を完遂しえた大型かつ血流豊富な子宮平滑筋肉腫症例を経験した.症例は42歳,0妊,9年前より不妊治療中の患者であった.下腹部腫瘤の増大を主訴に前医を受診し,MRI検査,PET-CT検査にて肝転移,肺転移を伴う約20 cm大の大型腫瘤で,子宮肉腫が疑われ当院に紹介となる.経子宮頸管的針生検にて平滑筋肉腫と判明し,ドセタキセル・ゲムシタビン療法を行うもPDであった.パゾパニブに変更したところ,子宮腫瘍と肝転移巣は不変であるも肺転移巣の縮小を認めたため,子宮全摘出術と肝部分切除術を施行した.子宮腫瘍は,血流が著しく豊富で多量出血が予想されること,腫瘍が大型で子宮摘出を完遂しなければ閉腹困難が予想されることから,ハイブリッド手術室にて子宮動脈と卵巣動脈の塞栓術後に引き続き手術施行し,術中出血量を270gに抑えることができた.本症例と当院での他の2例およびこれまでの報告を含め,大型の子宮肉腫症例の術前動脈塞栓術の有用性について検討した.〔産婦の進歩72(3):259-265,2020(令和2年8月)〕

  • 江本 郁子, 安彦 郁, 池田 愛紗美, 鈴木 直宏, 渡部 光一, 宇治田 麻里, 天野 泰彰, 高尾 由美
    2020 年 72 巻 3 号 p. 266-271
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    子宮体部原発の小細胞神経内分泌癌は,非常にまれで予後不良な疾患である.診断時にすでに進行している症例が多く,また早期に転移や再発をきたす.今回われわれは,類内膜癌G1, I B期の術前診断で腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術を施行し,術後に小細胞神経内分泌癌の診断に至った1例を経験したので報告する.症例は61歳,2妊2産.閉経後性器出血を主訴に来院.子宮内膜の肥厚を認め,子宮内膜吸引組織診では類内膜癌G1の結果であった.骨盤部MRI検査の結果,腫瘍は子宮筋層1/2以上の浸潤を認め, I B期相当と診断し,腹腔鏡下単純子宮全摘出術,両側付属器切除術,骨盤内および傍大動脈リンパ節郭清を施行した.術後の病理組織では腫瘍は濃染するクロマチンをもつN/C比の高い細胞の充実性増殖からなりロゼット構造が目立ち,免疫染色では神経内分泌マーカーであるCD56陽性,chromograninA一部陽性,synaptophysin一部陽性であり,小細胞神経内分泌癌の診断に至った.一部に子宮内膜異型増殖症の成分を認めた.再発高リスク群であり術後補助化学療法としてイリノテカン,シスプラチン併用療法を施行.今回,腹腔鏡下手術であったため,術後の回復も良好で,比較的早期に術後補助化学療法を開始することができた.〔産婦の進歩72(3):266-271,2020(令和2年8月)〕

  • 高 一弘, 藤井 剛, 前田 万里紗, 水津 愛, 村上 寛子
    2020 年 72 巻 3 号 p. 272-279
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    血管筋線維芽細胞腫(angiomyofibroblastoma;AMFB)は,主に中年女性の外陰部に発生する良性間葉系腫瘍であるが,ごくまれに骨盤内に発生することがある.今回われわれは,骨盤の靱帯に沿って発生するAMFBの1例を経験したので報告する.症例は76歳,2妊2産,8年前に他院で左鼠径ヘルニアの術前診断で手術を施行し,病理検査結果はAMFBであった.今回,下肢静脈瘤悪化のため当院循環器科を受診し,画像上骨盤内腫瘤を指摘され,婦人科疾患を疑われ当科へ紹介受診となった.magnetic resonance imaging(MRI)検査では,子宮体部左側間質内に索状で捻曲した腫瘤を認め,同腫瘤は子宮から左骨盤漏斗靱帯あるいは円靭帯に向けて進展しているようにみえた.子宮腫瘍の診断で腹式単純子宮全摘,両側子宮付属器摘出術を施行した.摘出標本は,前医で摘出した標本と同様の組織学的所見を呈しており,AMFBの診断となった.前医では,術前に画像評価がされておらず,今回のAMFBは再発したものか,それとも前回の手術後に残存した病変であるかは不明であった.術後経過は良好であり,術後より1年3カ月経過しているが,現在に至るまで再発を認めていない.骨盤内において奇異な進展を示す間葉系腫瘤を認めた場合はAMFBが鑑別候補となる.〔産婦の進歩72(3):272-279,2020(令和2年8月)〕

  • 藤井 優, 加藤 徹, 表 摩耶, 上東 真理子, 森本 篤, 脇本 裕, 原田 佳世子, 柴原 浩章
    2020 年 72 巻 3 号 p. 280-286
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    近年,救命医学の進歩に伴い,脊髄損傷女性の妊娠は増加傾向にあるが,わが国での分娩症例の報告はまだ少ない.今回われわれは,硬膜外麻酔を併用し経腟分娩に成功した高位脊髄損傷症例を経験した.症例は38歳,未経妊.21歳時に交通事故で第3胸椎を損傷し,第4,5胸椎後方固定術を施行された.受傷後は月経再開し性交渉も可能であった.結婚後,挙児希望のため他院を受診し,タイミング療法では妊娠に至らず,当院の体外受精で妊娠が成立した.妊娠成立後は切迫早産,尿路感染や自律神経過反射(AH)の発症に留意しながら妊婦健診を行い,自覚症状の乏しい患者に子宮収縮や前期破水などを見落とさないための細やかな教育を行った.妊娠31週から切迫早産のため入院管理し,安定後は妊娠37週以降での計画分娩とした.経腟分娩に際して,AH予防のために硬膜外麻酔を施行し,あらかじめ取り決め事項を作成し,他科との連携を密に行った.妊娠37週3日から2日間かけて頸管拡張を行い,陣痛誘発を計画していた妊娠37週5日に自然陣痛が発来し,取り決め事項に沿い分娩管理を開始した.起こりうる合併症をあらかじめ想定し,他科と横断的な連携をはかり,母児共に良好な転帰を迎えることができた.陣痛発来後の早期に硬膜外麻酔を開始したにもかかわらずAHの合併を認め,降圧剤投与を行う必要はあったが,取り決め事項に沿った迅速な対応で脳卒中などの重症AHを発症することなく経腟分娩に成功した.〔産婦の進歩72(3):280-286,2020(令和2年8月)〕

  • 松岡 秀樹, 村上 寛子, 前田 万里紗, 水津 愛, 岩見 州一郎, 藤井 剛
    2020 年 72 巻 3 号 p. 287-293
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/17
    ジャーナル 認証あり

    妊娠や巨大な子宮筋腫は静脈血栓塞栓症(以下VTE)のリスク因子である.今回われわれは,巨大な子宮筋腫を有する妊娠初期の女性にVTEが生じ,管理に苦慮した症例を経験したので報告する.症例は38歳,1妊0産,既往歴として7年前に多発子宮筋腫に対して筋腫核出術を施行されていた.今回,自然妊娠が成立し,前医で妊娠6週から切迫流産のため自宅安静の指示を受けていた.妊娠9週に深部静脈血栓症(以下DVT)を認めたため,当院に救急搬送となった.子宮は筋腫によって臍高まで腫大を認めていた.抗凝固療法として未分画ヘパリンを開始した.翌日に完全流産となり,その際に大量出血をきたしショック状態になったため,赤血球濃厚液8単位の輸血を要した.その後,造影CT検査を行ったところ,肺動脈血栓症(以下PE)を認め,さらに左外腸骨静脈以下の大部分の下肢静脈が血栓で閉塞していたことが判明した.PEの増悪が懸念され,腫大した子宮による静脈圧迫の解除が必要と判断した.抗凝固療法を行いながら筋腫核出術を行った場合の出血リスクや,筋腫およびVTEの再発リスクを患者・家族に説明したところ,子宮全摘出術を希望された.下大静脈フィルターを留置し,開腹下に同手術を施行した.術後は抗凝固薬を投与継続し,現在,VTEはほぼ消失した.妊娠中はVTEが生じやすく,とくに切迫流産における安静の指示や巨大な多発子宮筋腫による子宮腫大は,そのリスクを高めることを念頭に置くべきである.〔産婦の進歩72(3):287-293,2020(令和2年8月)〕

臨床
臨床の広場
今日の問題
会員質問コーナー
feedback
Top