施設園芸の大規模化・法人化に伴い,営農企業が消費側企業と信頼関係を構築することは,個人営農が主体だった頃と比べて一層重要になってきている。信頼関係の構築のためには「作物品質の安定」と「正確な生産見込情報の提供」が重要である。これらを実現するための先行研究は複数存在するが,その研究成果を栽培施設に導入するには大規模なシステムや作業者が専門的知識を持っていることが必要となる傾向にあり,既存の栽培施設に導入するのは困難な場合がある。そこで本稿では,既存の栽培施設に容易に導入することが可能な,施設園芸の農場経営者および現場作業者を支援するシステム『営農スマートガイド』を提案する。開発した『営農スマートガイド』は画像取得用のスマートグラスと演算用のデバイスから成るシステムで,「推論システム」,「果実計数プログラム」,「収量予測プログラム」の機能を備えている。推論システムでは収集した画像情報と深層学習に基づき,果実ごとの熟度や収穫適否を使用者に提示する。果実計数プログラムではテンプレートマッチングに基づき同一の果実を重複して計数することを防ぎ,圃場内の作物の個数を正確に計数することが可能である。収量予測プログラムは説明変数を「熟度別の果実数」,「熟度別の果実数の割合」,「圃場に設置された温度センサ情報に基づき算出した積算日平均気温」および「圃場に設置された照度センサ情報に基づき算出した積算日平均日射量」とし,Elastic Netに基づき,1 週間後の果実収穫数を予測することができる。このように『営農スマートガイド』は,推論システムの利用による作業者間の作業ばらつき低減によって,作物品質の安定を実現する。また,果実計数プログラムと収量予測プログラムを使用することで正確な生産見込情報を提供する。『営農スマートガイド』の評価に当たり本研究では,演算用のデバイスとして高性能エッジコンピュータ,クラウド,モバイルデバイスに着目し,それぞれのデバイスからなるシステム構成の応答速度を測定し,現場での実用可能性を考察した。高性能エッジコンピュータ推論では5.9 s,クラウド推論では1.6 s,モバイルデバイス推論では1.1 s の応答速度が得られ,特にクラウド推論およびモバイルデバイス推論が実用に耐えうるものであると結論付けた。また,果実計数については平均絶対誤差率が13.5%の精度で計数でき,収量予測については1週間後の収量を誤差20% 以内で予測できる可能性があることを示した。
抄録全体を表示