最近の電気泳動法の進歩により,遺伝的に異型を示す血清蛋白が数多く発見されるようになった.Albについては,Knedel(1957)が遺伝性の血漿蛋白異常として報告したのが最初でDoppel-Albuminämieとして発表して以来,世界各地での報告がみられる.本邦では祖父江ら(1967)の1家系9名が最初で,現在まで20家系の報告がある.
私達はfast type 1家系,slow type 2家系を発見し,第24回電気泳動学会総会において発表した.本論文はfast typeの1家系について遺伝生化学的検討を行なったものである.
Fast typeとしては,河合ら(1967)の報告が最初で,本例は2例目であり,最近,瀬崎ら(1974)が3例目の報告をしている.
本家系は頑固な口内炎を主訴とする48歳の女性を発端者とし,3世代13名に陽性者を認め,出身地は熊本県であるが,発端者の現住所によりAlbumin Kyotoと命名した.遺伝形式は共優性で,いずれもヘテロ接合者であり,発端者を含め25名に各種臨床検査を施行したが,陽性者に特有の所見は認めなかった.
Gcとの遺伝的連関を調べるため,型判定を行なったが,すべて1-1型で有効な情報は得られなかった.発端者には骨髄穿刺,末梢血での染色体分析も施行したが異常所見は認めなかった.
電気泳動では,セルロースアセテート膜,寒天ゲル,殿粉ゲル,ディスク泳動,殿粉ブロックを試みたが,pH4.0~11.0にて,いずれも明瞭に異常バンドを分離しえた.本血清と私達が大津市で発見したslow typeのAlbumin Otsuの血清をDr. Weitkamp (Univ. of Rochester)とDr. Neel (Univ. of Michigan)に送り,reference samplesとの比較泳動を依頼したが,そのいずれとも異なることが判明した.
両alb分画のPonceau 3Rとの結合能が等しいと仮定すれば,Alb
fとAlb
nとの濃度比は0.61~1.00の間にあり,13名の平均値は0.89で,いずれもAlb
nの方が増量していた.
脂質代謝異常の報告例があるが,本家系にても数名の異常者が存在したが,本症に特有とはいえない.肝機能検査で発端者にBSPの遅延がみられたので,in vitroでalbとの結合を試みたが,うまく結合しなかった.DEAEセルロースカラムと殿粉ブロック泳動によりalb両分画を分離し,濃度を一定にし,Sephadex G-200によりBPB色素との結合能(色素過剰の状態で)を調べたが,両者に差を認めなかった.またセルロースアセテート泳動により,BPB色素,
131I-thyroxineとの結合能をみると,これらの量を少なくすると,fast分画により多く結合するという成績をえた.両分画でそれぞれ家兎を免疫して抗原性の差異をみたが,両者に差はなかった,超遠沈,アミノ酸分析でも差を認めず,最近Winteら(1972)が行なった様に,ペプタイド分析を行ない,異常分画のアミノ酸配列を調べ,どのアミノ酸が置換されて電気泳動上fast typeを示すのか解明してゆきたい.
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