以上述べた考察および実験の結果を要約すれば,生体構成物質の主要な物理化学的性質を決めているものは,イオン,極性,非極性という靜電的構成であると考えることができるが,このような生体構成物質およびその聚合系の超遠心力場の取扱いには,便宜上単独高分子物質と,聚合系を区別して取扱った方が便利である.蛋白質,核酸,多糖類等の生体構成物質についてイオン・極性基/非極性基比が分子形態,比容に関係していると考える事ができ,極性溶媒である水中では主として分子表面に分布するイオン・極性基と溶媒相との相互作用(溶媒和)がこの物質の沈降に対する抵抗として働らくだろう.しかし分子表面のイオン基の解離は溶媒条件によって左右されるから,直接沈降速度の測定値に変化を与えるであろう.従って沈降定数の測定には適当な溶媒条件で行うことが重要であり,イオン荷電をある程度抑えた溶媒条件で比較的一定な固有の沈降定数が得られる.
これに対し成分物質の靜電的性質に応じてクーロムカ,双極子間力,分散力によってとった核蛋白,糖蛋白lipo-protein等の聚合系,或いはその複合系においては,成分物質に比べてはるかに大きな次元を有するから,粒子表面と溶媒相との相互作用は無視することができ,この際の沈降速度は粒子の大きさ,密度,および溶媒相の粘度によって決まるであろう.粒子形態も勿論関係するが沈澱形態以外は表面張力の為限定される.而しここで重要な問題は
1.聚合系の成合物質の靜電的荷電は溶媒条件によって規正されるから,聚合系の大きさ,密度等が溶媒条件が変わることによって異なってくる.
2.このような顆粒は一般に水和量が多い為,遠心沈澱によって集められた時一つの水和界面内に包含されることが考えられる.従って再懸濁によって最初の顆粒形態と異なってくるということが起る.
3.大型顆粒の沈降は濃度依存性が非常に大きいため,沈降速度から粒子径を計算すれば非常に小さい値となる.
4.ここでは討論しなかったが外部要因として溶媒相のコロイド条件が粒子の大きさ,構成を規正していると考えなくてはならない
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