生物物理化学
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56 巻, 1 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
教育講演II
  • 中村 和行
    2012 年 56 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/30
    ジャーナル フリー
    「電気泳動法のトリロジー」と題して電気泳動法の歴史の一端を述べる.1915年『化学本論』に「粒子が動電力に従い動く.この種の現象を電気泳動と云う.」と記されているが,1807年ロシアのReussが電気泳動と電気浸透の現象を報告したとされている.その後,スウェーデンのTiseliusが,移動境界電気泳動法を開発してヒト血清蛋白質の分離に成功し,抗体の研究等の功績によって1937年ノーベル化学賞を受賞した.本邦では平井と島尾がチゼリウス型電気泳動装置の組み立てに成功して電気泳動法を用いた血清蛋白質の分析と医学への応用が始まった.1950年電気泳動研究会が創設され,翌年に機関誌『生物物理化学』が創刊された.1959年中村らが世界に先駆けて交叉泳動法を開発し,電気泳動法による酵素‐基質,抗原‐抗体,核酸‐蛋白質などの複合体の分析を報告した.この方法は後に親和電気泳動法として生物特異結合反応の解析に広く応用され,生命科学研究の有力な技術となっている.
シンポジウムI:消化器癌とエピジェネティック~最近の進歩
  • 渡邊 嘉行, 吉田 良仁, 及川 律子, 原 雅樹, 清川 博史, 佐藤 義典, 平井 祥子, 鈴木 英雄, 津田 享志, 稲葉 博之, 前 ...
    2012 年 56 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/30
    ジャーナル フリー
    「消化管がん」は,世界においても部位別がん死亡率の上位を占めている.その予後は診断時の病期に大きく左右されることから内視鏡をはじめとした多くの早期診断法が考案,実施されてきた.しかしながら,現状は死亡率にあまり大きな変化がなく,依然として新たな低侵襲がん診断法の開発が望まれている.分子マーカーは肉眼的に,画像的に診断の困難な極早期の段階で診断できる可能性をもつ.我々は,がんの早期から認めるエピジェネティックな異常が消化器癌においてジェネティックな異常よりも比較的多く認めることから,マイクロアレイを利用した遺伝子網羅的なメチル化解析を行ったので紹介する.
  • 前田 修, 安藤 貴文, 石黒 和博, 渡辺 修, 日比 陽子, 永井 拓, 山田 清文, 舩坂 好平, 宮原 良二, 大宮 直木, 後藤 ...
    2012 年 56 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/30
    ジャーナル フリー
    Field cancerizationまたはfiled defectは腫瘍周囲の非癌部の組織における生物学的な変化を指し重要な発癌メカニズムと考えられている.我々は大腸癌患者の正常粘膜においてDNAメチル化異常がみられるかどうかについてゲノムワイドに解析した.Methylated CpG island amplification microarray(MCAM)を用いて健常人の正常大腸粘膜と大腸癌患者の非癌部のメチル化状態を比較した.健常人の大腸粘膜と大腸癌患者の正常外観の非腫瘍部の4対のペアについてMCAMにおいてメチル化レベルが異なると判定された15遺伝子を抽出した.候補遺伝子についてバイサルファイトパイロシークセンス法を用いて定量的メチル化解析を行った.また大腸内視鏡生検50検体を用いてメチル化レベルを定量的に評価した.その結果,有意にメチル化レベルの異なる遺伝子を見出すことはできなかった.大腸癌の周囲粘膜におけるプロモーター領域の高メチル化を示す遺伝子は多くないと考えられた.
  • 山本 英一郎, 鈴木 拓, 今井 浩三, 篠村 恭久
    2012 年 56 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/30
    ジャーナル フリー
    近年,鋸歯状病変の一部sessile serrated adenoma(SSA)でBRAF変異,CpG island methylator phenotype(CIMP)が高頻度で認めることが示され,SSAがCIMP大腸癌の前癌病変として注目されている.しかしSSAの臨床病理学的特徴は不明瞭であり,内視鏡,病理学的所見で良性疾患とされる過形成ポリープとの鑑別が困難である.我々は内視鏡,病理所見だけでなく分子生物学的アプローチを加えた橋渡し研究により,BRAF変異,CIMPを認めるSSAに特徴的な新規内視鏡所見(TypeⅡ-Open)を同定した.TypeⅡ-OpenによりCIMP大腸癌の前癌病変の同定が可能となり,大腸癌予防に有用な所見であると考えられた.
シンポジウムII:電気泳動を基礎にした臨床プロテオミクス最近の話題
  • 初谷 守朗, 加藤 智啓
    2012 年 56 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/30
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は炎症性腸疾患の二大疾患であるが,一部に鑑別困難例が存在する.我々はプロテオミクスにより両疾患の鑑別診断を試みた.
    UC 17例,CD 13例,健常人17例の末梢血単核球(PBMC)から蛋白質を抽出し,2D-DIGEを行い,全547個の蛋白質スポットを検出した.3群間で有意差を示した276個のスポット強度を用いた多変量解析でUCとCDの判別モデルを作製したところ,両疾患を2群に分けることができた.判別への関与が高かったスポット58個にて新たな判別モデルを作製したところ,未知の症例での診断能が向上した.これらには炎症や酸化・還元等に関与する7種の蛋白質が含まれていた.
    我々以外にも血清等のプロテオミクスにより両疾患の鑑別診断が試みられているが,有用性の評価はなされていない.今後モデルを新規症例にて評価し,UCとCDを鑑別するバイオマーカーを確立していきたい.
  • 窪田 大介, 末原 義之, 菊田 一貴, 金子 和夫, 川井 章, 近藤 格
    2012 年 56 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/30
    ジャーナル フリー
    骨軟部肉腫は,骨や筋肉などの間質より発生する悪性腫瘍である.小児や若年成人に発生し予後不良な転機をたどることが多く,予後改善のための研究は臨床的に重要である.また骨軟部肉腫は病理学的に50種類以上の組織型に複雑に分類されている.組織型によって予後や治療感受性が異なるため,骨軟部肉腫の治療成績改善のためには鑑別診断や予後予測,治療奏効性予測などのバイオマーカーの開発が必要である.我々は,主に蛍光二次元電気泳動法を用いて,骨軟部肉腫のタンパク質発現を網羅的に解析し,臨床応用を目指したバイオマーカーの開発を行っている.本稿では,消化管間質腫瘍の予後予測マーカーの開発とその発現検証試験の成果,および骨肉腫の化学療法奏効性予測マーカーの開発について紹介する.これらのバイオマーカーにより新たな治療戦略の策定および個別化医療の推進が可能となり,患者のQOL・治療成績改善に大きく寄与する事が期待される.
  • 吉田 亙, 鳥山 道則, 稲垣 直之
    2012 年 56 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/30
    ジャーナル フリー
    二次元電気泳動法は質量分析法と組み合わせることにより組織や細胞に発現する多くのタンパク質を分離・同定することが可能であり,タンパク質の定量的解析ならびにその翻訳後修飾の解析にも威力を発揮する.最近,著者らは二次元電気泳動法をベースとしたプロテオミクスにより神経極性形成分子Shootin1を同定した.本稿では神経細胞の極性形成に関与するタンパク質の探索の際に行った二次元電気泳動法をベースとしたプロテオーム解析の高感度化の試みと,それにより同定されたShootin1の機能解析について概説する.
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