肌の状態を客観的に計測し評価することは, 効果的な化粧品開発を行ううえできわめて重要な課題の一つである。とくに肌の評価を行ううえで, しわやきめに代表される肌表面の3次元形状を知ることは重要である。近年になって, 肌表面形状の計測を行うための, 画像処理による計測手法が数多く提案されている。しかし, これら従来の手法には, 肌表面のレプリカしか計測することができない, 被験者を長時間拘束する必要があるなど多くの問題点があり, 肌表面特性を高速かつ正確に計測することはできなかった。この論文では, 肌表面形状を直接かつ高速に計測するための, 従来にない新しい手法を提案する。この手法では, 肌の直接計測を実現する。光源方向を変化させて撮像した複数の単眼視濃淡画像から, 対象物体全面の法線ベクトルを決定し, 積分することによって形状の復元を行う。従来の類似の手法では, 肌のように複雑な形状と色彩変化をもつ物体の3次元形状を復元することは困難であった。しかし, 提案した手法では, 空間ベクトルを用いて解析解を導くことで, 複雑な形状の復元を可能とする。さらに, 対象物体が色彩変化をもつ場合においても, 表面自由エネルギーに基づく新しい拘束条件を導入することによって, 表面反射係数の推定を行い, 復元を可能とする。また, 計測の高速化を実現するために, 対象物体をカラーで撮像し, 波長範囲での分割を行うことで, 複数画像の同時計測を可能とするとともに, 対象物体の色によって発生する問題を回避するための理論式を提示する。これら提案した手法に基づき計測装置を作製するとともに, 実際にさまざまな対象の形状を計測した。この装置は, 撮像時間0.03秒, 平均自乗復元誤差0.0026という高速かつ良好な結果を示し, 提案した手法は従来手法に比べ明らかに有効であることが示された。
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