肌の外観(アピアランス)は,われわれにとって最も身近な知覚・認知の対象である。数ある化粧品の機能の中で,肌の外観を改善,演出することは最も期待されるものの1つである。肌の外観を決定する重要因子の1つとして“質感”が現在大きな注目を浴びており,さまざまな産業・学術分野において研究が行われている。中でも化粧品分野においては,製品の開発や効果検証などを目的として,従来からさかんに肌を対象とした質感研究が行われてきた。このような化粧品の質感研究では,目的とする肌質感の特徴やその質感が発現する要因を把握するための評価研究と,評価で見出された結果をもとに質感の制御を具現化する素材・製剤開発研究が連携することがしばしば求められる。本報では,化粧品分野の質感研究の特徴理解を目的として,特に,光学・画像技術をベースにした質感の評価と制御に関して,先行研究などのレビューも通してその概要をまとめる。
化粧品の微生物限度試験における特定微生物試験は,培養法による試験が一般的であるが,遺伝子解析技術を応用したLoop-Mediated Isothermal Amplification法(LAMP法)を用いて,前培養液中に含まれる微生物の遺伝子を解析することで試験時間の短縮化が期待できる。一方これまでに,化粧品の一部の製剤によるLAMP反応阻害が確認されていること,また,酵母であるCandida albicans(以降,C. albicans)は増殖速度が細菌に比べて遅いため,化粧品中に夾雑菌が存在した場合には,前培養を行った場合においてもLAMP法で検出するために十分な菌濃度まで増殖できず,検出精度が低いという課題があった。われわれは,C. albicansがLAMP法の検出限界以上の菌濃度に増殖できるよう前培養方法を改良し,加えてLAMP法のプロトコルにおいて,前培養液の水希釈倍率を低減させることで,C. albicansを迅速かつ精度よく判別できることを見出した。また,LAMP反応阻害物質が,カチオン化高分子であること明らかにしたので報告する。
一般に健康な毛髪を育むには頭皮の健康が重要であると考えられているが,これまでに頭皮状態が毛髪物性に及ぼす影響を遺伝子レベルで検証した報告はない。本研究では,日本人女性101名の頭皮状態を観察し,頭皮トラブルの程度が高い被験者ほど皮脂量が多く,また毛髪のハリ・コシが弱いことを明らかにした。これらの結果から,皮脂由来の刺激物質が頭皮トラブルを引き起こし,それに伴い放出される炎症性因子を介して毛包細胞における毛形成を阻害するという仮説に基づき,培養実験モデルでの検証を試みた。外毛根鞘細胞に過酸化脂質を作用させると炎症性サイトカイン(IL-1,IL-8)の遺伝子発現が亢進し,器官培養毛においてこれらの炎症性サイトカインがキューティクル強度に寄与するKAP5.1の遺伝子発現を低下させた。さらに過酸化脂質等による炎症性サイトカインの遺伝子発現亢進を抑制する植物成分を見出した。以上より皮脂由来物質等に起因する頭皮トラブルに伴い炎症性因子が亢進し,毛髪形成が遺伝子レベルで阻害されて新たに作られる毛髪のハリ・コシなどが低下することが示唆され,また,それを防ぐ植物由来成分の可能性を提示した。
本研究では,肌質を問わず安全,簡便に使用できる無機紫外線散乱剤と,無機紫外線散乱剤を分散させる分散剤に着目してスクリーニングを行い,耐水性に優れ,かつ,一般的に入手可能な洗浄剤で容易に落とせるサンスクリーン製剤の開発を行った。無機紫外線散乱剤(IUVSAs)としてハイドロゲンジメチコン処理(IUVSAs-HD)品,およびステアロイルグルタミン酸2Na処理(IUVSAs-DSG)品と,それらの分散剤として種々の分散剤を組合せた単純処方分散体とW/Oサンスクリーン製剤を得た。得られた試料について,ブラックライト存在下,種々の洗浄剤とバイオプレートを用いて,洗浄性評価を行った。その結果,IUVSAs-HDはいずれの分散剤との組合せでも,洗浄剤の種類を問わず良好な洗浄性は得られなかった。一方,IUVSAs-DSGと特定の分散剤との組合せで,かつ,ラウリン酸カリウムを洗浄剤として用いた場合に,良好な洗浄性が得られた。