日本化粧品技術者会誌
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54 巻, 2 号
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総説
  • ─指・製剤・肌の相互作用に着目して─
    小島 晴予, 山岸 敦, 稲田 英里子, 引間 理恵
    2020 年 54 巻 2 号 p. 121-128
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    化粧品の触感は,製品の購入や嗜好に影響を与える重要な感性価値の1 つである。これまでの化粧品の触感の評価法は,官能評価とレオロジー特性をはじめとした物理特性との関連を検討する手法が一般的であった。しかしながら,化粧品を肌に塗布し始めてからなじむまでの触感の時間変化を評価する方法は,一般的ではなかった。触感は,「触れる」という能動的動作を介して認知されることから,人が触感を感じている際の指─製剤─肌の間で生ずる動的挙動(ダイナミクス)に踏み込んで検討する必要があると考える。そこでわれわれは,指の動きを計測し化粧品の触感との関連について検討を行った。本稿では,まず触感に関わる定義をはじめ,その知覚・認知メカニズムについて概説する。次に,われわれが開発した指上に違和感なく装着できる慣性センサについて説明した後,指の動きと化粧品の触感との関連を検討した知見および応用例を説明する。

原著
  • 岸本 憲人
    2020 年 54 巻 2 号 p. 129-137
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    近年,地表に到達する紫外線量が増加している中,社会的に高齢化も進み,皮膚がんや光老化などの皮膚への紫外線障害の増加が懸念されている。そのため紫外線防御の必要性が広く知られるようになり,紫外線防御効果を有する化粧品の需要が高まっている。本研究では,植物エキスのようなナチュラルサンスクリーン剤の開発を目指して,オリーブ素材(果実,葉,枝,樹皮)に着目した。各オリーブ素材由来のエキスからSPF値を指標としたスクリーニングを行った。オリーブ樹皮エキス(OBE)が最も高いSPF値を示し,UVA・UVBの全波長領域をカバーするブロードスペクトラムな紫外線吸収剤としての可能性が示唆された。OBEの紫外線防御活性は物理化学的に安定であった。さらに,OBEは,細胞外マトリックス分解酵素活性の阻害作用,正常ヒト表皮ケラチノサイトにおける紫外線保護作用,正常ヒト線維芽細胞の賦活作用,B16メラノーマ細胞におけるα─メラノサイト刺激ホルモン誘導メラニン産生抑制作用を示した。以上より,OBEは紫外線防御作用ならびにスキンケア作用を有していることから,化粧品素材としての可能性が示唆された。

  • 熊谷 仁志, 浅井 雛代, 河野 賢治, 浅野 浩志, 広瀬 統, 長谷川 靖司, 澤田 均, 北原 路郎, 中田 悟
    2020 年 54 巻 2 号 p. 138-143
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    セラミドは細胞間脂質の主成分であり,肌のバリア機能に重要な役割を果たしていることから,化粧品にセラミドを配合することにより高いバリア機能改善効果を付与できると考えられる。このようなセラミドの効果を十分に発揮するには,セラミドを化粧品に高配合することが求められるが,セラミドは結晶性が強く油水問わず難溶性であり,化粧品に高配合するのは困難である。水性製剤においてはセラミドにαゲルやラメラ液晶などのラメラ構造を形成させる技術等のセラミドを安定配合する技術が数多く報告されているが,油性製剤にセラミドを安定配合する技術に関する報告例はこれまでほとんどない。われわれは油中においてもセラミドに安定なラメラ構造を形成させることによって結晶析出を防ぐことができるのではないかと考え検討を行った。その結果,セラミドとともにメドウフォームエストリドを非極性油に溶解すると結晶は析出せず,ラメラ構造を持つ安定なオイルゲルが形成されることを見出した。また,このオイルゲルを油性製剤中に分散させることによって,油性製剤へのセラミドの安定配合が可能となり,油性製剤に優れたバリア機能改善効果を付与できることを見出した。

  • 富山 愛, 中村 清香, 平 徳久, 正木 仁, 吉岡 正人
    2020 年 54 巻 2 号 p. 144-152
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    太陽光には,UV領域から近赤外線領域までの広範な波長領域の光が含まれている。近年,UVだけではなく低波長域可視光線であるブルーライト(BL)や近赤外線(NIR)が,真皮のコラーゲン線維や弾性線維の再生や分解に及ぼす影響が明らかにされつつある。本研究では,UVAやBL, NIRの照射が弾性線維関連タンパクや弾性線維形成に及ぼす影響の検証を行った。その結果,いずれの光源を照射した場合においても活性酸素種(ROS)の産生亢進や弾性線維関連タンパクの発現変動を伴う弾性線維形成能の低下が確認された。このため,ROSと弾性線維関連タンパクの発現との関連性が示唆されたことから,これまでに抗酸化活性を有することが確認されているアスコルビン酸誘導体3-グリセリルアスコルビン酸(VC-3G)の各光線による弾性線維形成不全に対する影響を検証した。VC-3Gは弾性線維関連タンパクの発現の回復を伴う弾性線維形成能低下の抑制効果を示したことから,VC-3Gは光老化による弾性線維の機能低下に対して有用な素材である可能性が示唆された。

  • 水野 義隆, 市橋 孝介, 筒井 拓也, 二宮 幸治
    2020 年 54 巻 2 号 p. 153-159
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    生活者がボディソープに求める機能として保湿効果があげられる。しかし,これまでは「洗浄」が基本機能であるため,保湿成分を配合してもほとんどが洗い流されてしまい,実感の高い保湿効果を付与することは困難であった。一方シャンプーは,すすぎ時にアニオン性界面活性剤とカチオン性高分子が複合体を形成し,毛髪へ高い滞留性を示すことでコンディショニング性能を発現している。そこで,この技術を活用し,ボディソープで保湿成分が洗い流されずに皮膚に残る「皮膚滞留技術」を確立した。脂肪酸塩と高カチオン化度のカチオン性高分子を配合したボディソープでは,希釈時に脂肪酸塩とカチオン性高分子により複合体が形成され,水への溶解性が変化することで析出し,洗浄後も洗い流されずに皮膚に滞留することで高い保湿効果と保湿実感が得られることを見出した。複合体は疎水性相互作用により皮膚表面に滞留し,皮膚内部から蒸散してくる水分を角層表面で保持する機能を高める作用により,優れた保湿効果を発現していると推定する。

短報
  • 宮部 卓, 米村 博貴, 竹田 博文, 鈴木 幸司
    2020 年 54 巻 2 号 p. 160-168
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    セルフタンニング化粧料の主成分となるジヒドロキシアセトン(DHA)は非常に反応性が高く,不安定な物質であるために高配合は困難であり,皮膚着色効果は低かった。そのため,今日までに皮膚着色強度を向上するためにセルフタンニング剤を含有する多種多様な化粧組成物が使用されている。中でもDHAと多価アルコールを併用することで皮膚着色強度が増大することがしられている。本研究では少量のDHA配合下で十分な着色効果が発揮される処方開発を目的とし,多価アルコールを含めた水溶性成分を用いて皮膚着色強度の向上を検討した。その中で,ポリエチレングリコール(PEG)骨格を有する成分において,高い着色効果が見られた。マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)や水素結合測定などからPEG鎖中の酸素がアミノ酸およびDHAと水素結合を介して,メディエーターの役割を果たしていることが示唆された。

  • Ippei Horibe, Shintaro Kitayama, Mizuki Nagai, Yuri Kokuwano, Ayaka Na ...
    2020 年 54 巻 2 号 p. 169-176
    発行日: 2020/06/20
    公開日: 2020/06/24
    ジャーナル フリー

    Hair can be exposed to oxidative environments such as hydrogen peroxide in hair dyes and bleaching agents, ultraviolet (UV) ray irradiation from sunlight, catalytic conditions with heavy metal compositions, and oxidative air pollutants. Therefore, unsaturated fatty acids present in the hair could be oxidized to form lipid peroxides and finally converted to aldehydes as their end products. Lipid peroxides and aldehydes will cause hair damage at the molecular level by denaturing hair proteins, and furthermore most of the short-chain aldehydes are sources of malodor. In the present study, we identified and quantified volatile aldehydes generated from hair by UV irradiation. Fatty acids in the hair samples were analyzed by GC-MS and 13 kinds of them detected, the ratio of saturated to unsaturated being 1:2. The hair was irradiated with UV light (total amount 706.8 kJ/m2) in a closed container, so that the generated gas was directly trapped in a solution of 1,3-cyclohexanedione (CHD). The resulting aldehyde-CHD derivatives were analyzed by LCMS. Short-chain aldehydes, formaldehyde, acetaldehyde and propanal were detected, and the amounts of them generated from 100 g of hair were 3.3, 0.3 and 0.1 mg, respectively. These low molecular weight aldehydes may have been formed by the consecutive degradation (called Norrish type II reaction) of the long-chain aldehydes which are produced by oxidative cleavage of double bonds in the unsaturated fatty acids in the hair.

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