日本化粧品技術者会誌
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57 巻, 4 号
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総説
  • ─香りと眠りと体内時計─
    合津 陽子
    2023 年 57 巻 4 号 p. 305-310
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル 認証あり

    世界的なコロナ禍の蔓延は,私たちの日常生活を激変させ,眠りの状態や体内時計にも影響を及ぼしていることが,国際的な調査によりわかってきた。たとえば,ストレスと関連した睡眠の質低下や,外出制限により生活が夜型化することで体内時計に不調をきたしていることなどが報告されている。眠りや体内時計は,私たちの健康維持とも大きく関わっており,その不調は,生活習慣病をはじめ,メンタル面での不調や疾病の一因となることから,眠りや体内時計を整えることは重要である。人類が眠りに香りを応用してきた歴史は古来エジプト時代にまで遡るが,近年の脳神経科学の発展は,その生理作用を良く説明するに至っており,新たな治療薬の開発も進められている。また,体内時計と嗅覚の関りについても調べられ,香りの新しい可能性もみえてきた。そこで本稿では,われわれが実証した香りによる体内時計不調改善効果を含め,香りが眠りや体内時計に果たす役割を概説する。

原著
  • 西田 由香里, 江連 美佳子, 長瀬 忍
    2023 年 57 巻 4 号 p. 311-317
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル 認証あり

    くせ毛に悩む人や,カールヘアの欧米人の多くはその髪形状を生かしてヘアスタイルを整える。しかし,ストレートヘアと異なり,カールヘアは一本一本形状が異なるため扱いにくく,スタイリングに多大な労力を要する。ツヤがあり浮き毛の少ない位相の揃ったカールに近づけるのはとくに難しく,これを容易にする提案が望まれている。われわれは毛束を構成する髪一本一本の曲率を調べ,位相の揃いやすい毛束は揃いにくい毛束と比べて曲率のばらつきが小さいことを見出した。さらに,2-ナフタレンスルホン酸ナトリウム(SNS)を処理すると,毛髪全体の曲率を均一化でき,ツヤがあり浮き毛の少ない位相の揃った毛束に改質できることがわかった。また,生来のくせ毛では生来の直毛と比べて2種類のコルテックス分布に偏りがあるのと同様に,新たに同一人物の髪においても,曲率の大きい部位は小さい部位と比べてその偏りが大きいことを確認した。SNSによって曲率が均一化される機構は,SNSがコルテックスの分布の偏りを反映してうねりを緩和するためと考えられた。本技術はくせ毛やカールヘアの扱いにくさを改善し,生まれもった髪形状をより魅力的に見せる画期的提案である。

  • 木内 愛海, 長谷川 妙, 塚本 大介, 三好 樹, 石神 彩夏, 太田 裕基, 一色 隆, 山下 美年雄
    2023 年 57 巻 4 号 p. 318-323
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル 認証あり

    ヘアカラーをしている人にとって「髪色が褪色し,長持ちしない」ことは大きな悩みの1つである。その要因はさまざまだが,中でもシャンプーによる洗髪時の色素流出の影響は大きい。これを解決するため,さまざまなヘアケア製品が開発されており,シャンプー製剤では髪色が褪色しにくい洗浄剤を使用したものなどがあるが,とくにダメージを受けた毛髪ではその効果が不十分な場合も多い。これは,繰り返しのヘアカラーやブリーチによりダメージを受けた毛髪はキューティクルがめくれ,洗髪時の色素流出の影響がより顕著であるためだと考えられる。そこでわれわれは,洗髪と同時に毛髪表面を補修することで,ダメージ毛髪においても十分に色素流出を抑制するシャンプーを開発した。カチオン性で毛髪への付着性が高く,ゴム様の柔軟性を有するシリコーン樹脂であるポリクオタニウム-104を用いることで,キューティクルの補修とそれによるヘアカラーの褪色抑制を実現した。また,このシャンプーを使用することにより,褪色抑制だけでなく,後に使用するコンディショナーの効率的な付着を示唆する結果を得た。

  • 濱田 昌子, 渡邊 愛, 五味 満裕
    2023 年 57 巻 4 号 p. 324-333
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル 認証あり

    化粧品のライフサイクルにおいて微生物汚染を防止することは製造販売業者の責務であり,処方に適切な防腐性を付与することが必要不可欠である。処方の防腐性は保存効力試験によって評価され,試験には通常約1カ月の長期間を要することから,保存効力試験が不合格の場合に製品の開発遅延につながる可能性がある。われわれは,保存効力試験が不合格となる処方を製品開発の初期段階で検出するため,人工知能を用いて処方の防腐性の予測分析を行った。説明変数として,化粧品,医薬部外品および医薬品の処方の配合成分ならびにその濃度,目的変数として,Staphylococcus aureusS. aureus)を用いた保存効力試験の結果を使用した。配合成分のうち,防腐剤,アルカンジオール類およびエタノールの防腐助剤については,配合濃度から理論的に算出した水相濃度を説明変数とした。機械学習ソフトウェアPrediction Oneを用いて二値分類モデルを作成し,予測精度および汎化性能の検証を実施した。検討の結果,人口知能により処方の配合成分の種類ならびにその濃度から,S. aureusに対する処方の防腐性を予測できる可能性を見出すことができた。

  • 山縣 義文, 新間 優子, 小倉 卓, 宮本 圭介
    2023 年 57 巻 4 号 p. 334-342
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル 認証あり

    市販のクレンジングクリームは使用中にO/W(Oil in water)型からW/O(Water in oil)型に転相し,粘度が低下して感触が著しく変化することがしられている。この転相に伴う感触変化をレオメータで評価する新たな測定方法の確立を試みた。その結果,試料に1分間のせん断を印加した後にレオメータの上部プレートを上昇させ,1分間乾燥空気に曝して再度元の位置に戻して測定する方法を10回繰り返す(転相モード)ことで,使用感に対応した粘度変化を観察することができた。さらに,レオロジー測定と同期して測定したインピーダンス特性と小角光散乱(SALS)像の結果から,転相モードでの測定中にO/W型からW/O型への転相が生じていることを確認した。

短報
  • 野々部 瑛, 前田 航佑, 村島 健司
    2023 年 57 巻 4 号 p. 343-349
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル 認証あり

    グリセリンは保湿剤として汎用されているが,他の保湿剤と組み合わせたときの作用機構や保湿効果に関しては,組み合わせの対象が多く,研究の余地が残されている。保湿剤は角層中の水分との結合により効果を発現することがしられている。組み合わせる化合物の分子構造が異なると水との結合性や化合物同士の影響が考えられるため,保湿効果にも違いが生じると予想される。本研究では保湿剤の分子構造に着目しin vivo試験にて,分子構造の異なる保湿剤をグリセリンと組み合わせた際の保湿効果を評価した。組み合わせる保湿剤には天然保湿因子(NMF)である尿素,乳酸ナトリウム,ピロリドンカルボン酸ナトリウムを用いた。保湿剤水溶液を皮膚に作用させた際の角層水分量の増加量(⊿角層水分量)を静電容量法にて測定することで保湿効果を評価した。その結果,NMFの1つである尿素にグリセリンを組み合わせることで相乗的に保湿効果が向上することを見出した。

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