脳卒中の外科
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49 巻, 6 号
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特集 中大脳動脈瘤の外科的治療
特集 中大脳動脈瘤の外科的治療―原 著
  • 河本 俊介, 深谷 春介, 安部 欣博, 奥貫 かなえ, 角 拓真, 菊地 慈, 金 彪
    2021 年 49 巻 6 号 p. 419-425
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    中大脳動脈(MCA)のM1部に発生した動脈瘤の臨床的特徴と直達術における注意点,および手術成績について検討した.対象は2011年から 2019年に直達術を行った連続38患者で,男性12,女性26,平均年齢60.7歳,動脈瘤径は平均5.3 mm,発生部位はearly frontal branch(EFB)17,lenticulostriate artery(LSA)10,anterior temporal artery(ATA)11で,EFBの全17例およびLSAのうち7例が上向き,LSAの3例が後方向き,ATAは11例すべて下向きであった.多発例は17例(44.7%)にみられ,同側MCAの動脈瘤の合併が10例と最多であった.手術はtrans-sylvian approachで行い,シルビウス裂を末梢からcarotid cisternまで広く開放して行った.瘤の脳葉への埋没は上向きの瘤の70%でみられ,動脈瘤の全周性確認のためにsubpial dissectionを行った.近接するLSAはEFB瘤の9例およびLSA瘤の10例(全例)でみられ,うち4例で剝離できず,このうち1例はwrappingに変更した.MEP変化は3例にみられたが,2例ではクリップ修正により,1例ではクリップ除去により回復した.術後のMR拡散強調像にて4例に穿通枝領域の高信号域を認めたが,すべて無症候性であった.M1部の動脈瘤は,適切なモニタリング下に,十分な術野展開のもと全周性に周囲を確認しつつクリッピングを行うことで,症候性の合併症なく治療を行うことが可能である.

  • 時村 洋, 西牟田 洋介, 森 正如, 川原 団, 駒柵 宗一郎, 田上 なつ子, 山田 正彦
    2021 年 49 巻 6 号 p. 426-432
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    比較的頻度の低いM1部に発生した中大脳動脈瘤に対してクリッピング術を行った12例について,後方視的に検討した.中大脳動脈瘤全体中,M1動脈瘤はやや年齢が高く,女性に多く,左側に多く,動脈瘤のサイズが小さく,破裂例では脳内血腫を伴いやすく,多発例の少ない傾向を認めた.破裂瘤は未破裂瘤より大きい傾向がみられ,5mm以上の80%は破裂し,5mm未満では14.3%しか破裂していなかった.動脈瘤の向きは,上向き5例,下向き5例,前後向き各1例ずつであり,上向きの5例中3例はearly frontal branch,1例ずつのearly temporal branchとlenticulo-striate artery,下向きは全例early temporal branchとの分岐部であった.破裂例中上向きの2例,下向きの1例に脳内血腫を伴っていたが,上向きの2例では前頭葉あるいは前頭葉と側頭葉,下向きの1例では側頭葉に血腫が存在した.未破裂M1動脈瘤の予後は,M1-M2分岐部動脈瘤と同等の結果であった.破裂例については,前者に脳内血腫を伴う例が多かったことから術前gradeの不良なものが多かったが,予後に大きな差を認めなかった.M1動脈瘤は症例に応じて,クリッピング術,血管内手術両方を用いて十分に戦略を立てて治療を行うべき疾患であると考えら

特集 破裂脳動脈瘤の急性期治療
特集 破裂脳動脈瘤の急性期治療―原 著
  • 村岡 賢一郎, 家護谷 泰仁, 五月女 悠太, 松田 勇輝, 佐藤 悠, 田邉 智之, 廣常 信之, 西野 繁樹
    2021 年 49 巻 6 号 p. 433-438
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    動脈瘤破裂は,しばしば脳内血腫や軟膜を破壊するようなmassiveな脳槽血腫を伴う.術後の血腫増大による脳実質損傷の拡大は予後を悪化させる可能性があるため,急性期の治療は血腫による影響を考慮した戦略が必要となる.当院における血腫を伴う破裂脳動脈瘤治療例において,急性期手術後の血腫量の増大の有無に注目して,周術期治療戦略の影響と転帰に関して後方視的に検討した.2007年1月から2018年9月の間,来院時CT検査にて血腫を伴い,急性期に手術を行った破裂脳動脈瘤106例に対し,術後の血腫増大因子として,血腫の量・局在,動脈瘤に対する治療手段,術後の抗血管攣縮治療の開始時期などの関連を調べた.その結果,106例中23例(21.7%)に血腫増大が認められた.血腫増大の要因として治療手段の影響が大きく,開頭クリッピング術後の増大は9.1%であったのに対し,コイル塞栓術は42.5%で増大した(p=0.0001).血腫の局在に関しては,シルビウス裂の血腫に増大傾向が認められた(p<0.05).抗血管攣縮薬を開始した時期は血腫増大群で早かった.コイル塞栓術において血腫増大率が上昇した原因として発症から手術開始までの経過時間の関連が示唆された.血腫増大を低減するためには,手技の選択において発症からの経過時間を考慮すること,抗血管攣縮薬の投与開始は術後24時間以降に開始することが望ましいと考えられた.

  • 中條 敬人, 寺田 友昭, 西山 徹, 朴 憲秀, 梅嵜 有砂, 田中 優子, 山家 弘雄, 松本 浩明, 水谷 徹
    2021 年 49 巻 6 号 p. 439-446
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    【はじめに】急性期破裂脳動脈瘤に対するステント支援下コイル塞栓術(SAC)の有効性はまだ明らかではない.われわれは当院で施行した急性期破裂脳動脈瘤に対するSACの治療成績を検討した.

    【対象・方法】2014年9月から2019年2月に治療したくも膜下出血126例のうち,塞栓術を施行した破裂脳動脈瘤,連続101例を対象とした.stent(S)群と非stent(nS)群で比較・検討した.

    【結果】患者背景は男性30例,平均年齢63.9歳,重症(WFNS Gr.IV,V)59.4%,19例(18.8%)がSAC,82例がステント支援なく塞栓された.S群では2剤以上の抗血小板薬をステント留置前に投与した.ステント使用理由は,ワイドネック9例,重要血管の温存6例,紡錘状瘤1例,FD効果1例,救済目的2例であった.瘤の形状は,囊状10例,解離性7例,紡錘状2例であった.瘤の部位は,内頚動脈3例,前交通動脈7例,中大脳動脈2例,後大脳動脈1例,椎骨脳底動脈6例であった.動脈瘤頚部のサイズは平均5.0mmで,nS群と比べて有意に差を認めた(nS群:平均3.3mm,p=0.0124).周術期合併症はS群10/19例,nS群11/82例に生じた(p=0.0005).S群では血栓塞栓症5例,ステント閉塞2例,再出血2例,脳出血1例であり,morbidity & mortalityは4/19例,21.1%であった(nS群:4/82例,4.9%,p=0.0391).

    【結語】急性期破裂脳動脈瘤の治療において,S群ではnS群と比較し高率に合併症が生じた.しかし,他の治療方法がきわめて困難な場合,重症例や高齢者,外科治療が困難であるという観点からは有効な治療方法になり得ると考える.

原  著
  • 河本 俊介, 深谷 春介, 安部 欣博, 奥貫 かなえ, 角 拓真, 菊地 慈, 金 彪
    2021 年 49 巻 6 号 p. 447-452
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    当施設で未破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術を行ったのちに直接経過観察を継続している748名の患者に6-12カ月ごとの定期的MRを行い,新生動脈瘤の発生および未治療動脈瘤がある場合にその増大に関する中長期的予後について検討した.MRAは702患者に行い,最終施行時期は5.3±3.3年であった.新生動脈瘤は3,716.3 patient-years中10名に認められ,その発生率は0.27%/patient-year,Kaplan-Meier法による発生率は5/10/15.4年でそれぞれ0.5/3.3/6.4%であった.未治療動脈瘤は107名の患者に114個であり,その増大は621.8 patient-years中17名に認められ,その発生率は2.7%/patient-year,Kaplan-Meier法による増大率は5/10/15年でそれぞれ12.5/28.6/59.5%であった.性別,年齢,高血圧の合併,喫煙歴,くも膜下出血の家族歴,多発,動脈瘤のサイズは,log-rank法にて新生動脈瘤の発生と未治療動脈瘤の増大に影響する因子として有意ではなかった.クリッピング術ないしコイル塞栓術による治療介入の率は0.73%/patient-yearであった.未破裂脳動脈瘤治療後の新生動脈瘤発生および未治療動脈瘤増大は中長期的には無視できない率でみられ,長期にわたる継続的な画像フォローが必要である.

症  例
  • 秋 達樹, 熊谷 信利, 松原 博文, 石黒 光紀, 加藤 貴之, 白紙 伸一, 今井 秀
    2021 年 49 巻 6 号 p. 453-457
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    今回,われわれは脳梗塞に感音性難聴を合併した椎骨動脈狭窄症の症例に対して経皮的血管形成術(PTA)を行った結果,同側の難聴の改善も認めたまれな1例を経験したので報告する.症例は69歳男性.今回,めまいと歩行障害の主訴で救急受診し,小脳および脳幹梗塞を認め入院となった.DSAでは右椎骨動脈は低形成で,両側の後交通動脈を介した後方循環への血流は不良であった.優位側の左椎骨動脈はWASID法で90%の狭窄を認めた.また,来院時より左耳の聴覚低下も伴っていた.入院後はただちに積極的内科的治療を開始したが,数日後さらに脳梗塞の増悪を認めたため,左椎骨動脈狭窄に対してPTAを施行した.PTA後は狭窄率50%に改善した.術後,画像上も脳梗塞の再発なく経過し,左側の難聴については速やかに改善傾向を認めた.椎骨脳底動脈系の脳梗塞において感音性難聴を合併する場合がある.原因として特に前下小脳動脈とその分岐である内耳動脈が関与するといわれており,その頻度は数%といわれている.一方で,聴覚障害に対しては保存的に加療される場合が多く,血管内治療後に感音性難聴が改善したという報告はほとんどない.本症例においては内科的治療に抵抗性の椎骨脳底動脈狭窄症に対して,脳梗塞の再発予防を第一目的としてPTAを行ったが,これにより早期に内耳の循環不全も改善し,聴力改善に寄与したと推測された.

  • 品田 伸一郎, 穂刈 正昭, 新保 大輔, 内田 和希, 浅岡 克行, 板本 孝治
    2021 年 49 巻 6 号 p. 458-462
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    総頚動脈(CCA)閉塞症に対する血行再建術は比較的まれである.今回われわれはCCA閉塞症に対し頚動脈内膜剝離術(CEA)を施行した症例を経験したので報告する.症例は68歳,女性.右不全麻痺と失語で発症,MRIで左大脳半球深部白質に急性期脳梗塞を認め入院した.左CCAは閉塞しており,下甲状腺動脈から上甲状腺動脈を介した内頚動脈への側副路を認めたが,左大脳半球の広範な血流低下を認めた.閉塞部位は比較的short segmentであったため,発症から約7週後にCEAを行った.CCA近位側までの十分な露出,CCAの閉塞部位直前の血栓の処理,上甲状腺動脈の血流が豊富なため遮断解除の順番の工夫などに留意して手技を行った.術後新たな脳梗塞や神経学的脱落症状の出現はなかった.ICAが開存しているshort segmentのCCA閉塞に対しCEAは有効であるが,CCA近位端の露出,血栓の処理,血流を考慮した遮断解除に留意する必要がある.

  • 秋山 智洋, 田根 葵, 小林 慎弥, 早崎 浩司
    2021 年 49 巻 6 号 p. 463-467
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    頚部を別にした2個の脳動脈瘤が体部で相接したものはkissing aneurysmsと称され,外科治療の困難さが報告されている.同一内頚動脈のkissing aneurysmsは内頚動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)と前脈絡叢動脈分岐部とに発生するものが多いが,今回右IC-PCと右C2とに発生したまれな手術症例を経験したので報告する.症例は60歳,女性.もともと右内頚動脈瘤を指摘されていたが,10日前から頭痛があり,入院当日に近医を受診し,頭部CTでくも膜下出血を認めたため当院紹介となった.来院時,意識清明で神経脱落症状は認めなかった(Hunt & Kosnik Grade I,WFNS Grade I).3D-CTAにて右IC-PCに長径9mmの動脈瘤と右C2後面に径3mmの動脈瘤を認め,両者の動脈瘤は体部で相接しておりkissing aneurysmsが示唆された.右IC-PC動脈瘤が出血源と考えられ,開頭クリッピング術を施行した.頚部で右内頚動脈を確保して右前頭側頭開頭を行い,まず破裂した右IC-PC動脈瘤の処理を行い,次に未破裂の右C2動脈瘤の処理を行った.その際,動脈瘤体部の接合部は強固に癒着しており,慎重に剝離を行った.術後経過は良好で,神経脱落症状なく独歩退院された.kissing aneurysmsは,接合部の強固な癒着のために外科治療が困難とされているが,安全に手術を行うためには,術前の綿密な検討と,母血管近位部での一時遮断を併用した術中の丁寧な剝離操作が重要である.

  • 佐藤 篤, 佐々木 哲郎, 一之瀬 峻輔, 神谷 圭祐, 本郷 一博
    2021 年 49 巻 6 号 p. 468-473
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    脳梗塞急性期における治療抵抗性の脳梗塞に対して,過灌流を予防しつつ灌流の不均等さを是正するための手術方式を紹介する.この手技は,1本の浅側頭動脈の途中を側側吻合とし先端部分を端側吻合とすることで,離れた領域に灌流を可能とするものである.提示する症例は79歳の進行性脳梗塞の患者で,浅側頭動脈近位部を側側吻合で側頭葉にバイパスし,次いで遠位部を端側吻合で前頭葉にバイパスした.この手術方法によって,症例は過灌流症状を呈することなく急速な症状改善を示した.この方法は,シングルバイパスでは灌流が不十分となる場合や,過灌流が予想されるような対象に対して有効な対処法かもしれない.

  • 桑島 琢允, 白川 学, 山田 清文, 阪本 大輔, 吉村 紳一
    2021 年 49 巻 6 号 p. 474-479
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は25歳,女性.突然の頭痛を自覚して前医を受診し,頭部computed tomography(CT)にて右脳室内出血を認めた.当院に搬送となり,脳血管撮影にて右片側もやもや病と診断した.また,右側脳室壁に接するレンズ核線条体動脈末梢の脳動脈瘤を認め,脳動脈瘤破裂による脳室内出血と診断した.慢性期のバイパス術を予定し降圧療法を開始したが,第5病日に軽度の意識障害を認めた.脳室内に再出血を認めたが,脳血管撮影では脳動脈瘤は描出されなかった.第9病日に脳血管撮影を再度施行したところ,脳動脈瘤がふたたび描出された.このため,脳動脈瘤に対する血行力学的負荷の軽減目的に緊急バイパス術を施行した.しかし,第14病日の頭部MRIではT1 weighted imageにて脳動脈瘤周囲に高信号域を認め,再々出血が疑われた.また,第16病日の脳血管撮影では脳動脈瘤は残存していたため,脳動脈瘤が出血源と考えられた.このため,脳動脈瘤の根治を目的に,同日に脳動脈瘤摘出術を施行した.術後に左片麻痺を認めたが,3カ月後にmodified Rankin Scale 1で自宅退院した.もやもや病に脳動脈瘤を合併し,頭蓋外内血管バイパス術後にも脳動脈瘤の再破裂を繰り返す場合には,脳動脈瘤自体の外科的処置が必要であり,脳動脈瘤摘出術は有効な治療オプションになり得ると考えられた.

手術手技
  • 林 健太郎, 杣川 知香, 林 之茂, 岩永 充人
    2021 年 49 巻 6 号 p. 480-483
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)における血管切開部の閉創は最も重要なステップの1つである.われわれは血管縫合の方法をなるべく単純化する工夫をしており,文献的考察を加えて報告する.動脈切開し,プラークを剝離後に,まず中央を縫合しstay sutureとする.内頚動脈側から中央に向かって連続縫合し,中央の結紮糸と縫合する.連続縫合は1針ごとに緊張を加えて血液の漏れをを避ける.総頚動脈側から中央に向かって連続縫合し,中央付近の3針は針を通した後に緊張は加えずに緩めておき,動脈切開をわずかに開けたままとしておく.同部から血管内腔を洗浄し,各血管より逆血後に糸を締め上げ,動脈切開を閉じて中央の結紮糸に結紮して縫合を完成する.逆血後の処置は結紮のみであり,速やかに遮断を解除でき,手技としても単純なのが利点である.連続縫合で縫合部に針を通しておいて後に引き締める方法は,心臓血管外科領域ではパラシュート法として一般的である.本法を頚動脈手術に応用し,有効であった.

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