脳静脈や静脈洞はかなりのバリエーションがあり,ときに developmental venous anomaly と称される異形を呈する場合がある.多くの異型脳静脈自体は病的なものではないが,ときに頭蓋内疾患の近傍に存在することがある.そのような場合では,異形静脈は手術アプローチや対象病変の治療の邪魔になる場合がある.そのような異形静脈の術前情報なしに手術を行った場合には,硬膜切開時に大出血をきたしたり,静脈性浮腫のため予期せぬ術後の障害をきたす可能性がある.それゆえ,脳血管内外科医を含む脳神経外科医は,そのような静脈性合併症を避けるために治療方法(血管内治療か開頭術か)や手術アプローチに関与するような異形静脈の存在を知っておく必要がある.今回われわれは,術前に施行された3次元CT静脈画像(3DCTV)画像にて発見された8つの脳静脈あるいは静脈洞の異形を報告し,予期せぬ静脈性合併症をきたさぬよう注意を喚起する.
急性脳主幹動脈閉塞症に対するステントを用いた血栓回収術は標準的な治療となったが,頭蓋内脳血管に高度狭窄を伴う場合の治療方針は確立されていない.
2012年4月から2019年7月までに,頭蓋内動脈狭窄症の急性閉塞に対する治療を8例で行った.臨床的経過を後方視的に検討した.機能予後は退院時あるいはリハビリテーション後のmRSを用いた.予後良好はmRS 2以下あるいは病前スコアと変化なしとした.
年齢の中央値は73.5歳(57-93歳)で,男性5例,女性3例であった.閉塞血管は脳底動脈が4例,中大脳動脈が4例であった.初期治療として5例で経皮的脳血栓回収術を行い,うち2例でtPA静注療法を併用した.2例ではtPA静注療法単独で再開通が得られた.1例では経皮的血管拡張術を行った.再開通が得られた7例中4例で再閉塞を認め,経皮的血管拡張術+ステント留置術を行った.再開通を得た7例中1例では亜急性期に経皮的血管拡張術を追加した.8例中5例(62.5%)で良好な転帰が得られたが,脳底動脈閉塞の2例(25%)は,死亡の転帰となった.
頭蓋内動脈狭窄症の急性閉塞ではいったん再開通が得られても,再閉塞のため再治療を要することが多い.再治療のタイミングを逸しないことが重要であり,症例によっては一期的に頭蓋内狭窄部位の拡張術やステント留置術を追加することも考慮すべきである.
出血歴のある脳動静脈奇形(ruptured arteriovenous malformation:rAVM)では,再出血を予防することが必要である.定位放射線治療(SRS)のrAVMにおける役割につき,当院の長期成績を踏まえ検討した.1990-2016年に施行したrAVM 517例に対する初回SRSのうち,多段階照射例,観察期間2年未満を除外した394例を対象とした.SRSに先行する摘出術,塞栓術の有無を軸に,長期成績を解析した.その結果,平均観察期間は138カ月,SRS単独74%,摘出術(+塞栓術)先行15%,塞栓術先行が11%であった.5年累積閉塞率は,SRS単独群では79%,摘出術群では97%,塞栓術群では73%と,摘出術群ではSRS単独群と比べ良好であり(p<0.001),塞栓術群ではSRS単独群に比し有意差を認めなかった(p=0.570).閉塞待機期間の年間再出血率は2.0%であった.significant neurological event(SNE)-free rateは10年95%であった.再出血率とSNE-free rateに関しては,併用治療間で有意差を認めなかった.SRSは破裂AVMに対する単一治療として安全かつ効果的であるばかりでなく,摘出術後残存AVMの補助治療としても有用である.
中大脳動脈瘤クリッピング術によるdistal sylvian approachにおけるM1の確保方法の違いとその安全性および妥当性をM1の解剖学的形態と実際の手術手技の関係から検討した.
約9年間に経験した手術症例を対象とし,M1形態を術前DSAもしくはCTAから解析し,M1確保手技のM1形態による違いを手術VTRから検討した.M1水平部,末梢性,大型ないし巨大(最大径12mm以上),血栓化,多発動脈瘤を除外した結果,対象は119例となった.M1形態は上凸の弓状または直線状で,内頚動脈分岐部と動脈瘤頚部の角度が水平に対して下に10°以上のものを上凸,直線状で角度が水平に対して上下10°未満のものを水平,下凸の弓状または直線状で角度が水平に対して上に10°以上のものを下凸と分類した.
上凸は84例(71%),水平は26例(22%),下凸は9例(8%)であった.上凸の多くの症例では背側からのM1確保が安全に確実に行われており,short M1の動脈瘤でも同様であった.水平および下凸ではM1を腹側から確保する症例も多かったが,動脈瘤を越えてM1を確保することに問題はなかった.
多くの症例でM1を背側から確保することが妥当で安全である.また,一部の水平や下凸M1の症例でも同様の頭位と体位でM1を腹側から安全に確保することができる.
内頚動脈のblood blister-like aneurysm(BBA)は,小さく脆弱で破裂しやすい治療困難な転帰不良の動脈瘤である.母動脈の順行性血流を保つステント併用コイル塞栓術を施行したSAH 4例の長期成績を報告する.
2013年9月から2017年2月までのSAH発症の内頚動脈BBAに対し,ステント併用コイル塞栓術を施行した連続4例4病変を対象とした.内訳は男性1例,女性3例,平均年齢46歳(41-50歳)である.治療結果と長期的な画像所見および長期転帰について検討した.
全4例に初回治療でステント併用コイル塞栓術を施行.2例にステント単数併用のコイル塞栓術,他の2例に複数のステントをオーバーラップさせコイル塞栓術を施行.単数ステント併用の1例に再出血および瘤の再増大が生じ,2回の追加塞栓術を施行.他の1例および複数のステント併用例は,画像上完全閉塞であった.治療に関わる合併症は全例になかった.平均3.5年(2-5年)の観察期間で全例がmRS 0と転帰良好で,画像上,瘤の完全閉塞は維持され罹患した内頚動脈の壁不整は平滑となった.
BBAは瘤壁および母動脈が脆弱と考えられ,ステントは複数をオーバーラップさせたコイル塞栓術が瘤の再発予防と長期的な母動脈の順行性血流の温存に有用である.
高齢化の進む本邦において,皮質下出血の治療選択に苦慮する機会が増えている.高齢者における内視鏡的血腫除去術の治療成績について検討した.2013年から2019年までに当院で治療した70歳以上,血腫量20ml以上の高齢者28例を,後方視的に検討した.手術治療は,2013年4月から2018年3月までは開頭血腫除去術,2018年4月以降は内視鏡的血腫除去術を選択した.その結果,保存的加療12例,開頭血腫除去術6例,内視鏡的血腫除去術10例であった.おのおのの群間で年齢,血腫サイズ,入院時意識レベルに有意差はなかったが,開頭血腫除去術群に比較して,内視鏡的血腫除去術群は入院期間も有意に短く(平均72.88±36.16日対130.0±29.00日,p=0.014),1カ月後のFunctional Independence Measure(FIM)は同等で(平均22.40±2.30対25.50±4.70),退院時のmodified Rankin Scale(mRS)は内視鏡手術群のほうが低かった(平均3.90±0.50対5.17±0.31).内視鏡的血腫除去術を行った症例は,10例中9例で翌日からリハビリテーションも介入でき,神経症状,特に発語や食事摂取が術前と比べ速やかに改善した.内視鏡手術群は,1カ月後のGlasgow Coma Scale(GCS)の改善度が有意差をもって保存的加療と比べよかった(平均1.70±0.67対0.50±1.24,p=0.048).高齢者皮質下出血に対して亜急性期局所麻酔下内視鏡的血腫除去術は,低侵襲であり,短い入院期間で開頭手術と同等の治療成績と機能予後が期待できる.
心・大動脈疾患の術前精査で頚動脈狭窄症(CS)が指摘される場合が少なくない.当施設では2016年に重症大動脈弁狭窄症(severe AS)に対する治療法として経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)が導入されたが,今回,TAVI術前精査で発見されたCSに対する頚動脈内膜剝離術(CEA)施行例について後方視的に検討した.
2016年4月から2018年8月末までの期間中,当施設でCEAにより治療したCS 37例中,TAVI術前精査で発見されたCS(A群)とその他(B群)を比較した.
結果はA群 5名 5病変,B群 30名 32病変であり,A,B群で平均年齢(79対71歳)でA群がより高齢,性比(女性20対9%),症候性例(40対41%),NASCET中央値(79対66.5%)でA群はより狭窄率が高かった(p=0.033).術前mRS(0:40対44%,1:40対25%,2:20対19%,3:0対12%),退院(転科)時mRS(0:60対53%,1:20対25%,2:20対16%,3:0対0,4:0対6%)と,A群はより高齢で高度狭窄だったが,比較的良好な転帰だった.
severe AS併存のCS患者では急激な血圧低下で心筋虚血が誘発されるため,頚動脈ステント留置術が一般に禁忌とされる.一方,CS併存のsevere AS例では外科治療の際に脳梗塞発症が懸念され,症例選択や治療順序が問題となるが一定の見解はない.本検討から,severe ASを併存したCS患者でも患者ごとに慎重に検討しTAVIを組み合わせ,安全にCEAで治療可能と示唆された.
多発脳動脈瘤が短期間に連続して破裂した症例を経験したので報告する.症例は50歳,女性.既往歴として未治療の高血圧,飲酒歴,喫煙歴を有し,職場にて突然頭痛を生じ独歩来院した.来院時,血圧161/105mmHg,心拍数73bpm,頭部CT上脳底槽を中心に広範なくも膜下出血(WFNS Grade I,Fisher Group III),3D-CTAにて左中大脳動脈分岐部に6mm大の形状不整な脳動脈瘤,左前大脳動脈末梢部(A2-3)に4mm大の脳動脈瘤を認めた.くも膜下出血の分布,脳動脈瘤の大きさ,形状より左中大脳動脈分岐部動脈瘤が破裂したと考え,来院日に左前頭側頭開頭にて脳動脈瘤頚部クリッピング術を行った.術後経過は順調であったが,Day 5に強い頭痛が再度生じた.頭部CTにて左前頭葉内側に脳内血腫を伴う新たなくも膜下出血,3D-CTAにて左A2-3部動脈瘤の増大を認め,同日両側前頭開頭にて脳動脈瘤頚部クリッピング術を行った.術後の経過は順調で,軽度高次脳機能障害を残し自宅退院した.多発脳動脈瘤が同時にあるいは短期間に破裂した症例の報告例は少なく,くも膜下出血を生じた多発脳動脈瘤において,文献上でもくも膜下出血の分布,脳動脈瘤の大きさや形状,MRI画像(vessel wall imaging)を参考に最初に治療する脳動脈瘤を決めると報告されている.多発脳動脈瘤においては同時に複数の脳動脈瘤が破裂したり,短期間に連続して破裂することがあることに留意すべきである.
数値流体力学(computational fluid dynamics:CFD)を用いた脳動脈瘤破裂点の研究では,破裂点における血行力学的特徴として低いwall shear stress(WSS)と高いoscillatory shear index(OSI)が報告されている.そこで,造影剤漏出により破裂点を同定できた前交通動脈瘤を対象とし,破壊性リモデリングや菲薄化に関連するパラメータを加えて,破裂点の局所血行力学について検討した.3DCTAから患者固有形状モデルを作成し,造影剤漏出部分を削除し破裂点を定義した.非定常解析を行い,ドームと破裂点のWSS,OSI,および圧分布を標準化するために開発したstandardized pressure difference(SPD)を評価した.破裂点では低いWSS,高いOSIおよびSPDの上昇が観察された.これまでの報告と同様に破裂点のWSSは低く,OSIは高かったが,同時に相対的なSPD上昇が併存していた.脳動脈瘤破裂は薄くて低い壁に発生するため,正常な血管内皮細胞が存在しない破壊性リモデリングのある壁における高いOSIが破裂に関与することが示唆された.
虚血発症の成人もやもや病に対し片側の血行再建術を行ったところ,手術側のみならず対側の脳血流不全も改善した1例を経験した.
37歳,男性.注意障害および一過性の左上肢しびれを主訴に受診した.頭部MRIで右大脳半球に散在性梗塞を認めた.脳血管撮影でもやもや病(右が鈴木分類1期,左が同3期)と診断し,右前大脳動脈から左側への前交通動脈を介した盗血を認めた.脳血流検査では,両側とも安静時脳血流は保たれていたが,脳循環予備能低下を認め,特に左半球の低下が顕著であった.脳梗塞発症後4カ月目に,左側の浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術およびencephalomyo synangiosisを行った.術後3カ月の脳血流検査では左大脳半球の血流改善を認めたが不十分であった.このため,右大脳半球に対する血行再建術を計画したが,齲歯が原因の全身性の炎症反応を併発したため手術を延期した.術後18カ月の脳血流検査では,左大脳半球のみならず右側も脳循環予備能が正常化し,脳血管撮影では右前大脳動脈から左側への盗血が減少していた.このため,右大脳半球への血行再建術は行わずに引き続き外来経過観察としている.
蝶形骨小翼部に発生する硬膜動静脈瘻はまれである.今回,incidentalに発見された蝶形骨小翼部硬膜動静脈瘻に対し,NBCAを用いた経動脈的塞栓術にて根治を行った症例を経験したため報告する.
79歳,男性.腹部大動脈瘤の術前精査の頭部MRIにて前頭蓋底部の硬膜動静脈瘻を指摘され,当科紹介となった.血管撮影を行ったところ,蝶形骨小翼部に硬膜動静脈瘻を認めた.左内頚動脈から反回髄膜動脈・inferolateral trunk,および左外頚動脈から正円孔動脈・副硬膜動脈・中硬膜動脈が流入動脈となっていた.浅中大脳静脈を経由して前頭葉表面の静脈へ,また鉤静脈を経由して深中大脳静脈へ逆流し,静脈瘤を形成していた.出血予防のため経動脈的塞栓術を行った.反回髄膜動脈・inferolateral trunk・正円孔動脈をコイル塞栓し,副硬膜動脈をNBCAにて塞栓,中硬膜動脈よりシャント部までNBCAを流入させ,塞栓を終了した.術後眼症状や他の合併症なく経過し,再発を認めていない.
蝶形骨小翼部の硬膜動静脈瘻を経験した.NBCAを用いた経動脈的塞栓術は同部位の治療として有効であった.