頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)は,頚動脈狭窄に対してその効果が証明された手術法である.その一方で,内科的治療に対する優位性を保つために低い合併症率を担保できることが,術者に求められる要件となる.
安全確実なCEAのためには,術前画像診断による手術のリスク評価をはじめとして,手術においては解剖学的知識をもとにした正確な剝離操作によるretromandibular spaceを広く開放しての必要十分な術野の確保・プラークを内包する動脈に対する愛護的操作・抗血小板剤継続での手術であるため確実な止血操作と動脈縫合が重要である.
頚動脈内膜剝離術(CEA)では,クロスクランピングによる脳虚血のリスクがあり,その回避にシャントの使用がある.われわれの施設では,シャントの使用を前提とした統一手技でCEAを施行している.今回,その手術手技のポイントと治療成績を述べる.
2013年4月から2020年3月の間に当院でCEAを施行した連続186例を対象とし,全例にシャントの使用を試みた.クロスクランピングによる脳虚血を,術中SEPの50%以上の低下と術後の症候性脳梗塞の発症で評価した.
シャントの使用困難例は4例(2.2%),シャントシステム装着による平均遮断時間は4.4分,抜去-再灌流時間は7.3分であった.術中のSEP低下を15例(8.1%)に認めたが,術後脳梗塞を生じたのは1例(0.5%)であった.シャントの挿入による明らかな合併症は確認されなかった.
シャントの使用によるCEAは,手術手技のポイントを習得すれば,安全で確実な方法である.
目的:ソフトプラークに対してcarotid artery stenting(CAS)を行う場合,プラーク飛散による脳梗塞を予防するためさまざまな手技が工夫されている.われわれは通常より大きめのballoonを前拡張に用いてあらかじめプラークを十分に破砕して吸引することによって,周術期のプラーク飛散防止できると考えた.今回,本法を用いてCASを行った連続12症例を後方視的に評価した.代表症例を提示して,本法の詳細と有用性を検討する.
方法:対象はMRI T1 black blood(BB)法および頚動脈エコーにてソフトプラークと判断された連続12症例である.balloon protection での確実な血流遮断下,プラークを強く圧排・破砕する目的で,遠位血管径と同等かやや大きい径のballoonを用いて前拡張を行った.stentは原則としてclosed-cell stentを使用し,60ml以上の十分な血液吸引による浮遊プラーク排除後に血流を再開させた.
結果:CAS手技に直接関連する合併症は認めなかった.opencell stentを使用した1例にプラーク突出を認めたが,stentの追加により消失した.12例中1例に低血圧管理によると思われる脳幹梗塞を認めたが,他の11例は周術期に新たな神経学的異常を認めなかった.
結論:ソフトプラークであっても,本法によって安全にCASが行える可能性が示された.
てんかん発作を消失させる目的で海綿状血管腫の摘出を行う場合には,術前に血管腫がてんかん発作の原因病変であることを確認することが重要である.MRIなどの画像検査で海綿状血管腫が認められても,その病変が発作抑制を目的としているてんかん発作の原因でない可能性もあり得る.
血管腫がてんかん発作の原因病変であると診断するためには,MRIなどの画像検査での局在,脳波でのてんかん性異常波の分布,そして発作症状が一致するかどうかが重要なポイントである.発作症状が画像所見や脳波所見と一致しない場合には,長時間ビデオ脳波同時記録によって発作時脳波所見と発作症状を確認したり,症例によっては,頭蓋内電極を用いて慢性硬膜下記録を行い,脳波上の発作起始部と海綿状血管腫の局在との関係を確認したりする必要がある.
手術においては,海綿状血管腫そのものにはてんかん原性が存在しないので,周囲のヘモジデリン沈着部位を含めて摘出する必要がある.機能野から離れている場合には,脳回ごとに血管腫を含めて切除する方法もある.また,側頭葉内側部に存在する海綿状血管腫の症例では,海馬扁桃体もてんかん原性に関係している可能性が高いので,血管腫の摘出と同時にこれらを切除することにより,術後の発作消失率を向上させることができる.
くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)は全身疾患である.重症例では中枢神経のみならず全身臓器の異常を伴うことが多く,脳動脈瘤根治術の前提として呼吸・循環の安定化とともに神経蘇生が必須である.
SAHの転帰不良の最大要因は,発症72時間以内の早期脳損傷(early brain injury:EBI)である.当施設では,WFNS Grade Vであっても瞳孔が散大固定していない75歳以下の患者に対して,EBIの軽減を目的としてただちに低体温療法を導入し,根治術を施行している.体表冷却により深部温33.5℃を3日間維持後,1℃/日以下で復温し,36℃に到達後のDay 7以降,遅発性脳虚血発症リスクの高いDay 14まで血管内冷却による常温管理を行う.この間,Neurocritical Care Societyの推奨に基づき,呼吸・循環,血糖,血管内容量,電解質などの評価と管理,およびシバリングの評価と治療,簡易持続脳波モニタリング(amplitude-integrated EEG)などを実施する.血管内冷却導入前後の比較で,38℃以上の発熱と脳梗塞出現頻度は有意に低下し,転帰良好(GR+MD)率は32%から55%と改善傾向がみられ,神経集中治療のもと実施する積極的な体温管理の有用性が示唆された.
内頚動脈および中大脳動脈M1部の緊急大血管閉塞(emergency large vessel occlusion:ELVO)に対する機械的血栓除去術(mechanical thrombectomy:MT)は,内科的治療単独よりも患者の予後を改善することが示されている.ステントリトリーバー(stent retriever:SR)や吸引カテーテル(aspiration catheter:AC)を用いたMTでは,90%前後の高い再開通率が報告されているが,実臨床では,解剖学的な要因や病変の複雑さから通常のMTでは再開通が困難な複雑な症例を経験することがある.本稿では,臨床で遭遇する可能性が高い以下の6つの典型的な複雑な条件下でのMT症例を提示し,治療戦略と手技を文献的に考察した.
①蛇行した血管走行による病変部へのアクセス困難症例,②頚動脈と頭蓋内のタンデム病変,③中大脳動脈 M2 セグメントより遠位部の病変,④椎骨脳底動脈閉塞,⑤頭蓋内動脈硬化性狭窄症(intracranial atherosclerotic stenosis:ICAS),⑥脳動脈解離.当院では,MT手技は主にSRとACのcombined technique を第一選択としている.combined techniqueの利点は以下の点である.①SRとACの両方で血栓を強固に把持することで,遠位塞栓(embolization in new territory:ENT)を減少させる.②遠位にSRを留置して,ACをSR内の血栓部位まで先進させることでSR展開長が短縮しかつSRとACの長軸方向が一致することで,SRの牽引時の血管直線化が減少し穿通枝引き抜き損傷が減少する.③SRを展開し遠位固定することで,SRに追従させてのACの遠位誘導が容易になる.予後を改善するためには,状況に応じてさまざまな治療戦略や技術を駆使し,常に1回のデバイス通過での完全な再開通(first pass effect:FPE)を目指すべきである.
透析患者の経年的な増加に伴い,未破裂脳動脈瘤を指摘される維持透析患者の増加が推測される.当院で維持透析患者に対し施行した未破裂脳動脈瘤クリッピング術の治療成績と注意点について報告する.対象は2002年1月から2018年12月までの17年間に維持透析患者に施行された未破裂脳動脈瘤クリッピング術10例(11手術)である.全例クリッピングが完遂されたが,術後morbidityを8例(73%)に認め,そのうち急性症候性発作が7例(64%)を占めた.急性症候性発作はおおむね術後2日以内に生じ,てんかんに移行した症例はなかった.維持透析患者に対するクリッピング術は,健常者と比し術後に急性症候性発作を生じやすいため,周術期の対策や術後の発作についてのインフォームドコンセントが必要である.
53 歳,男性.生来健康で突然の左後頭部痛を自覚し,翌日になり四肢のしびれが出現したため救急搬送された.来院時,意識清明,症状は消失しており神経学的異常所見を認めなかった.頭部CTで左迂回槽を中心に脳底槽まで広がるくも膜下出血を認めた.脳血管造影で両側椎骨動脈に解離性と思われる紡錘状動脈瘤を認めた.左側ではblebを伴ったこと,母血管の辺縁が不整で新規の椎骨動脈解離が疑われたことから,くも膜下出血の出血源は,左椎骨動脈瘤であると考えた.椎骨動脈は右優位で,ASAは左椎骨動脈瘤の中央からのみ分岐が確認された.左動脈瘤の増大傾向を認め血管内治療を施行した.病変側VA造影で真腔が順行性に造影されたのち,瘤の遠位側から逆流性に偽腔が造影された.エントリーが瘤遠位側に存在し,対側VAからの偽腔の確保が可能と判断し,右椎骨動脈より左右椎骨動脈合流部を経由し動脈瘤解離腔にマイクロカテーテルを誘導したうえで,左椎骨動脈から真腔にステントを留置し,解離腔の塞栓を施行し,術後の脳血管造影でASAの開存を確認した.MRIでASA灌流域の梗塞は認めなかった.経過は良好で,左体幹失調のみ後遺し,modified Rankin Scale 2で外来通院中である.
中大脳動脈(MCA)狭窄による進行性脳梗塞に対して,経皮的血管形成術(balloon PTA)後,早期に浅側頭動脈(STA)-MCA bypass術を施行し良好な転帰を辿った1例を報告する.
82歳,男性.突然の左片麻痺で当院搬送となった.MRI/Aで右MCAに高度狭窄が認められ,同領域に多発性脳梗塞が確認された.初期治療として積極的内科的治療を行ったが,5日目に左半側空間無視を呈し,MRIで脳梗塞増大が確認された.以降の梗塞増大を避けるため緊急でballoon PTAを行った.十分なMCAの拡張が得られたものの,病変長が10mmを超えていたことから長期的には再狭窄が懸念された.そこで,11日目にSTA-MCA bypass術を追加した.外科的治療介入後の梗塞増大はなく,患者は4カ月間のリハビリテーションを経て退院した.90日目のCT検査ではMCAの再狭窄が認められた.このことから,balloon PTA後早期にSTA-MCA bypass術を行うことで,再狭窄による脳梗塞再発を予防できた可能性が示唆された.
もやもや病は舞踏運動などの不随意運動を契機に診断されることがある.しかし,その多くは小児・若年成人例である.今回われわれは,高齢初発のバリスムを契機に診断されたもやもや病の1例を経験し,ハロペリドール内服で良好な経過を得たので,文献的考察とともに報告する.
症例は79歳,女性.2カ月前から右上肢が勝手に動くようになり,頻度,動きともに増悪し,日常生活に支障をきたすようになったため当科受診となった.高血圧の既往と,長男と孫にもやもや病の家族歴を認めた.意識清明で脳神経系・感覚系に異常は認めなかったが,右上肢を投げ出すバリスム様の不随意運動と右下肢に舞踏運動様の不随意運動を認めた.頭部MRAで内頚動脈終末部の高度狭窄と閉塞を認めた.家族歴と画像所見より,もやもや病に関連した不随意運動が疑われた.精査目的に脳血管造影検査を施行したところ,鈴木分類にて右:第3期,左:第5期の典型的もやもや病であった.ハロペリドール内服による薬物療法を開始したところ,内服開始後より不随意運動の軽快がみられ,10日後には完全消失した.
本症例は79歳初発のバリスムを契機に診断されたもやもや病であったが,われわれが渉猟し得た過去の報告の中で最高齢であった.まれではあるが,高齢初発の不随意運動例ではもやもや病の可能性を考慮する必要がある.本例のような高齢者においては薬物療法のような非侵襲的治療も考慮すべきと思われる.
脳動脈瘤に対する血管内治療の普及に伴い,デバイスに用いられるニッケルによるアレルギーや,polyvinylpyrrolidone(PVP)の飛散がもたらす異物塞栓による遅発性白質病変が報告されるようになってきた.今回われわれは,ステント併用動脈瘤塞栓術後にニッケルアレルギーによると考えられる遅発性白質病変を認めた1例を経験した.ニッケルアレルギーとPVPの飛散がもたらす異物塞栓は,臨床経過が類似しているために経過からでは鑑別は困難である.鑑別には脳生検が有用とされているが,パッチテストも有用な可能性がある.
STA-MCA bypass術は主幹動脈閉塞性脳血管障害の再発予防を目的として現在広く行われている.本邦で行われたJapanese EC-IC bypass Trial(JET)studyにより優位性が証明された同術式は右手と左手のハンドリングとそれを協調させる脳神経外科の基本であり,若手脳神経外科医がまず身につけるべき手技である.
Flow diversion (FD) has become mainstream for cavernous carotid aneurysm (CCA) treatment owing to its high occlusion/low complication rate. Nevertheless, retreatment, including open surgery, is needed in some cases. To safely achieve open surgery, traditional balloon test occlusion (BTO) has been performed preoperatively. However, BTO has potential disadvantages such as patient burden and vascular access site complications. We devised a novel technique—intraoperative test occlusion—to evaluate ischemic tolerance intraoperatively. While the cervical internal carotid artery is occluded for 15 minutes, ischemic tolerance is evaluated using somatosensory evoked potential (SEP)/motor evoked potential (MEP). Herein, we present a case of CCA who developed progressive oculomotor nerve palsy after FD. Following low-flow bypass, intraoperative test occlusion was performed. After confirmation of unchanged SEP/MEP, the cervical internal carotid artery was ligated. The postoperative course was uneventful. Our surgical strategy may reduce patient burden and BTO-related complications. Further investigations are warranted to fully demonstrate the usefulness of intraoperative test occlusion.