破裂脳動脈瘤性くも膜下出血では,再出血予防のための出血部位修復だけでなく,術前後の周術期管理も重要である.手術までの再出血防止を目標とした術前管理では,静脈麻酔導入や適度な降圧が妥当である.抗線溶剤投与の臨床転帰への影響は限定的である.抗血栓療法中の発症では該当薬の投与中止が推奨される.脳室ドレナージの再出血リスクについては見解が分かれる.術後は脳血管攣縮の予防と治療が中心である.クラゾセンタンは国内試験で有効性が示されたが,国際試験では有意差が認められず,投与量や併用療法の違いが影響している可能性がある.腰椎ドレナージは,退院時の二次性梗塞や6カ月後の神経学的予後不良を減少させるかもしれない.低ナトリウム血症や髄膜炎も脳血管攣縮に関与する.輸血閾値の調整や予防的抗てんかん薬投与は転帰改善に関係がない可能性がある.入院時点での予後予測は困難なことから,急性期の治療撤退は慎重に判断すべきである.さらに今後は高齢化に伴い治療の経済性も課題となるかもしれない.
脳動静脈奇形(AVM)の治療において,ガンマナイフ治療(gamma knife radiosurgery:GKRS)は重要な選択肢として確立されつつある.特に大型病変に対しては,nidusを分割して複数回に照射するvolume-staged GKRSが導入され,5年完全閉塞率 65%,累積出血率 13%,死亡率 9%,永続的放射線障害 8%といった成績が報告されている.しかし,大型AVMや出血性中型AVMにおいては依然として治療成績のさらなる改善が求められている.
従来行われてきたnidus塞栓術は血流を減少させる効果はあるものの,AVM全体の体積縮小は不十分であり,また塞栓術自体に合併症のリスクが存在する.こうした課題に対し,筆者らは「GKRS後に流入動脈のみを標的とした塞栓術」という新しい戦略を提案した.まず,大型AVMに対してはvolume-staged GKRS,出血性中型AVMには単回GKRSを施行し,その後のlatency interval periodにおいて残存血流を抑制する目的で流入動脈塞栓を追加する.この方法は,従来のnidus塞栓に比べて合併症を回避しやすく,さらにlatency interval periodの出血リスクを低減できる可能性があると考えた.
このような集学的治療戦略は,これまで治療困難だったAVMに対し新たな選択肢を提供するものであり,今後は多施設共同研究による検証と治療アルゴリズムの確立を目指している.
前大脳動脈末梢部(distal anterior cerebral artery:DACA)動脈瘤は比較的まれな疾患であり,全脳動脈瘤の約1-9%を占める.2003年から2023年までの21年間に経験した116瘤(破裂 55瘤,未破裂 61瘤)について,その臨床的特徴と手術成績を検討した.手術は112手術を112患者に施行し,男女比は1:3と女性に多く,平均年齢は64.3歳であった.動脈瘤の好発部位はA2-3分岐部(87.1%)で,平均サイズは5.6mm,多発動脈瘤の保有率は34.8%,奇形前大脳動脈(azygos ACA)の合併は17.0%であった.未破裂瘤の41.0%に増大を認めた.破裂例の41.8%に脳内血腫を合併し,WFNS grade 1-2が63.6%を占めた.手術では,bridging veinの温存に留意しつつinterhemispheric approachを用い,動脈瘤複合体の完全な可動性を得ることを重視した.特に大脳鎌との癒着を認めた14例(12.5%)では,癒着剝離により可動性を確保することが重要であった.手術成績は未破裂例では全例予後良好,破裂例では転帰良好(mRS 0-2)が69.1%であり,WFNS grade 1-2では94.3%,grade 4-5では25.0%と術前gradeが転帰を左右した.DACA動脈瘤は小型でも破裂リスクが高く,母血管が細いため手術操作には細心の注意を要するが,適切な手術戦略により良好な成績が得られる.
内頚動脈後交通動脈分岐部瘤(IC-PC An)は血管内治療後に再発が多い瘤の1つである.IC-PC Anに対して血管内治療を施行した症例のうち,研究期間内に再発と判定して再治療を受けた12症例12動脈瘤(女性 11例,破裂瘤 4例,再治療時の平均年齢 64歳)を対象とし,その特徴や治療法につき後方視的に検討した.動脈瘤の平均最大径は10.0mm,ネック径は5.1mm,incorporated Pcomは7例,fetal Pcom(P1 absent)は2例に認めた.初回治療手技はsimple technique 7例,balloon-assisted technique 1例,stent-assisted coiling(SAC)4例であった.初回塞栓結果は,CO 1例,NR 8例,BF 3例.初回治療から再治療までの期間は中央値30カ月であった.再治療では,初回SACを施行した症例に対しては追加塞栓が選択され,初回ステント留置のなかった症例は,1例を除きSACあるいはflow diverter(FD)留置がなされた.再々治療を要した症例は1例であった.治療後の遅発性破裂はなかった.再治療を行っても制御不良と考えられた瘤を2例に認めた.再発IC-PC Anに対する当科での再治療は,初回治療の違いを踏まえておおむね有効かつ安全に行われたが,制御しきれていない瘤も存在している.再治療のさらなる戦略構築とともに,今後FDも含めた初回治療選択肢の検討が課題である.
近年,flow diverter(FD)の普及により傍鞍部動脈瘤に対する直達術の機会は減少しているが,5mm未満の小型動脈瘤や,視力・視野障害を伴う症候性病変では,直達手術が依然として有用である.本研究では,Dolenc’s approachに基づく前床突起削除と遠位硬膜輪(distal dural ring:DDR)の全周性開放によって,安全かつ効果的にクリッピングを行った2例を報告する.
症例1は眼動脈分岐部に発生した3.8mmの動脈瘤で,前床突起削除と部分的なDDR開放により安全なclip placementを得た.症例2は内頚動脈caveに6.6mmの動脈瘤を認め,retrograde suction & decompression法を併用し,DDRを全周にわたり切離することで内頚動脈の可動性を最大化し,クリップによる完全閉塞を達成した.
いずれもCTA-SSFP fusion imageで硬膜内外の評価を行い,術前計画に反映させた.術中はdura propriaの広範な剝離と顕微鏡下での床突起静脈叢の膜層の同定により,血管損傷なくDDRの開放を可能とした.
本手技は,安全な層を視覚・触覚で的確に識別し,血管を牽引せず膜のみを操作するという原則を守ることで,高度な病変への安全なアクセスを可能にする.傍鞍部動脈瘤に対する有用な直達アプローチの一手法として提案される.
浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス術(STA-MCAバイパス術)は,髄液漏,創部トラブル,術後出血などが術後合併症として知られている.当院では2019年10月以降,脳梗塞急性期に施行するSTA-MCAバイパス術の硬膜形成において,手術時間短縮を目的にコラーゲン製の吸収性人工硬膜(DuraGen®)を使用している.2019年10月から2023年3月まで当院で実施した急性期小開頭STA-MCAバイパス術 60例において本手技を行った.
男性 45例,女性 15例,平均年齢72.1歳(45-89歳)の内科治療抵抗性,進行性,症状不安定な症例を対象とした.手術時期は脳梗塞発症から平均9.6病日(0-25日)であった.術後は髄液漏,感染,皮下血腫などの合併症は認めなかった.同一術者によるDuraGen®導入直前 5例と導入後 5例を比較すると手術時間が平均41.8分短縮した.DuraGen®を使用した硬膜形成は,柔軟性の高い素材で縫合が不要であることから,硬膜貫通部でSTAを圧迫することなく髄液漏を防ぐことが可能で,合併症減少,時間短縮において優位性がある.
前脈絡叢動脈(AChA)の遠位部に発生する脳動脈瘤はきわめてまれであり,主にもやもや病に伴う側副血行の発達が原因とされる.われわれは,同側の後大脳動脈(PCA)閉塞後にAChAのcisternal segmentからの分岐血管に動脈瘤が発生し,くも膜下出血を呈した69歳男性の症例を経験した.NBCAによる塞栓が困難であったため,AChA本幹に対するコイル塞栓によるparent artery occlusion(PAO)を実施し,神経症状の悪化なく救命を得た.術後は内包後脚に梗塞を認めたが,既存の左片麻痺の増悪はなく,modified Rankin Scale 4で転院となった.AChA遠位部動脈瘤の報告は少なく,特にcisternal segmentからの分岐血管に発生した例はきわめてまれであり,治療法も確定していない.
本症例は,PCA閉塞による側副血行路の発達に起因するhemodynamic stressにより分岐血管に動脈瘤が形成されたと考えられ,脳血管内治療が有効な選択肢となり得ることを示した.今後もさらなる症例の蓄積と検討が求められる.
浅側頭動脈(STA)–中大脳動脈(MCA)吻合術後の動脈瘤はまれな合併症である.われわれは,破裂 1例・未破裂 2例の遅発性動脈瘤に対し,直達術で良好な結果が得られた3症例を報告する.
症例1は40歳,男性,もやもや病.STA-MCA吻合術4年後に動脈瘤破裂によるくも膜下出血をきたし,吻合部対側MCA壁の動脈瘤にクリッピングを行った.
症例2は68歳,女性.MCA閉塞症.STA-MCA吻合術1年後に吻合近傍のMCA壁に発生した半紡錘状動脈瘤にclip-on-wrapを施行した.
症例3は48歳,女性.内頚動脈瘤に対するSTA-MCA吻合術と母血管閉塞術後,吻合部近位STA壁に真性瘤を生じ,吻合術4年後にクリッピングとwrap-on-clipを行った.
3例とも術後に永続的合併症や再発は認めなかった.吻合術後の新生動脈瘤は発生部位により4型に分類され,本分類は発生機序の考察に有用と考えられた.また,その直達術では,瘤の性状に応じた柔軟な手術戦略,STAと硬膜の癒着を考慮した安全な露出,硬膜閉鎖に配慮したクリップ選択など,通常の動脈瘤手術とは異なる工夫が求められる.
近年,造影magnetic resonance imaging(MRI)vessel wall imaging(VWI)が多発脳動脈瘤中の破裂瘤壁特定に有用との報告がある.今回,本検査によって正確に破裂瘤を同定できた症例につき,文献的考察を加えて報告する.
症例は82歳,女性.突然の意識障害(JCS III-100)で救急搬送され,頭部computed tomography(CT)でびまん性のくも膜下出血を認めた.血腫は鞍上槽から脳底槽後部を中心に顕著に厚く,大脳縦裂では比較的少量であった.造影CTでは,約2.5mmの上向きの前交通動脈瘤と脳底動脈に紡錘状の膨隆を認めた.血腫局在や瘤形態などからは出血源の断定が困難で,頭部MRI検査を施行した.脳底動脈には解離を疑う所見はなく,造影VWIを行い,前交通動脈瘤の瘤壁が造影され出血源と判断し開頭クリッピング術を施行した.術中,瘤周囲に硬い血腫を認め,瘤先端に一部血栓化したブレブを認めた.また,瘤周囲の剝離操作で容易に出血をきたし,前交通動脈瘤が出血源として矛盾しない所見であった.術後経過良好で,第41病日に水頭症に対し脳室腹腔シャント術を施行し,簡単な意思疎通が可能なまでに症状は改善した(mRS 4).造影VWIにおいて破裂瘤壁が造影される機序は,炎症や血栓の関与が関係していると考えられる.本症例における前交通動脈瘤の血栓付着部の造影強度は局所的にstalk比 0.83とより高値で,破裂瘤として矛盾しない値であった.急性期VWIはその造影強度,パターンによって,多発動脈瘤における出血源をより鋭敏に同定できる.