第二言語(L2)習得における刺激の貧困とは、L2の言語的特性を習得するのに必要な直接的な証拠が, 偶発的なインプットからも指導の際のインプットからも得られない状況を指す.そのような状況であっても, 学習者は母語にはないL2の特性を習得できることが先行研究から示されている.つまり、直接的な証拠がインプットから得られないにも拘らず, (全てではないが)習得が可能な特性があると言える.しかし、周囲からのインプットや指導から, 直接的な証拠を得ることができる特性であるにも拘らず, 習得が期待通りに進まない場合があることが, 先行研究や多くのL2学習者の個人的な経験から明らかになっている.本稿では, 周囲のインプット(ambient input), 指導のインプット(instructed input), 欠如したインプット(absent input)という異なる入力条件に照らして, どのように習得が進むのか考察し, 種類の違いに拘らずインプットの役割に重要な共通点があることを明らかにする.また, 日本語, 韓国語, そしてドイツ語のL2習得に関する筆者の研究を中心に, 様々な研究から得られたデータを活用する.
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