Second Language
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9 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
特別寄稿
研究論文
  • -有標性と転移の問題に関する考察-
    安部 義治
    2010 年 9 巻 p. 19-48
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    本稿は英語の所格動詞の習得に関して第一・第二言語習得研究の双方から得られた考察を再検討することを目的としている。実験1における嗜好タスクと実験2における文法性判断テストを利用することで,本稿は次の2つの研究課題に取り組んでいる:1) 第一言語習得研究によって示されているように,内容動詞は容器動詞よりも規範的(あるいは無標)なのだろうか。2) 統語部門と意味部門の対応関係がL1とL2で異なる場合,転移の影響はあるのだろうか。実験1の結果は日本人学習者にとって交替不可の内容動詞が最も習得しやすい英語の所格動詞であることを示すものだった。対照的に,交替可能な容器動詞は最も習得しにくい所格動詞であることが判ったのだが,これは転移のような学習者要因のみに基づく説明とは矛盾するものであった。一方,実験2の結果はBullock (2004)の予測を支持するもので,L1とL2のパラメター値の違いが転移を引き起こすことを示唆している。この矛盾を解決する試みとして,言語普遍性に関連する要因(つまり,容器動詞の有標的性質,Talmy (1972)参照)が英語所格動詞の習得過程にある過程の役割を果たしている,という提案が出された。データもこの説明と一致しているように思われることから,本稿は完全転移/完全利用可能仮説 (Schwartz and Sprouse, 1996)を支持するものとして考えられる。

  • -英語母語話者と日本人英語学習者を比較して-
    片山 圭巳
    2010 年 9 巻 p. 49-62
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,英語母語話者と英語圏在住経験の異なった日本人英語話者が,どのように音節の長さとポーズを使って,複合語と句を弁別するかを調査した。英語母語話者12名と英語圏在住経験の異なった日本人英語話者のグループ各12名(平均在住期間3年7ヶ月と平均在住期間7週間)が強制2択課題を行った。まず,複合語(例:blackboard)と同じ音韻をつかった句(例:black board)を目標単語とし,20組抽出した。長さ以外の要素を同等にするため,プロミネンスを第一音節に置く埋め込み文を作成し,英語母語話者が読み上げた文章を録音した。そして,目標単語の第一音節と第二音節の間に100msのポーズを挿入したものを併せて,4種類の刺激音を合計80作成した(複合語,ポーズの入った複合語,句,ポーズの入った句,各20×4=80)。調査は一人ずつ静かな部屋でコンピューターを使って行われた。最初にヘッドフォンから目標単語が聴覚的に提示され,次に,複合語と句の両方が視覚的に画面に提示され,被験者はどちらかを選択してボタンを押すように指示された。これを80セッション行った結果,全てのグループが音節の長さよりもポーズで複合語と句を弁別しているということがわかった。

  • -中学生を対象とした調査から-
    縄田 裕幸, 壷倉 恵子
    2010 年 9 巻 p. 63-82
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    本論の目的は,日本人英語学習者(JLE)による主語パラメター再設定の過程を極小主義,とりわけChomsky(2007, 2008)およびMiyagawa (2005)で提唱された素性継承理論の枠組に基づいて考察することである.主たる主張は,当該パラメターの再設定が,一致素性のCからTへの浸透の習得と焦点素性のTからの除去という2段階からなるというものである.399名の中学生を対象とした調査の結果,JLEにとって一致素性のTへの浸透を習得するのは比較的容易であるが,焦点素性をTから取り除くのが困難な場合があることが明らかになった.そのようなJLEは英語と日本語の混交的なパラメター値を持つこととなり,英語の虚辞主語構文を正しく容認すると同時に,非適格な空主語構文を,文頭要素を日本語的な話題主語であると解釈することで,誤って容認してしまう.

  • 佐治 伸郎, 梶田 祐次, 今井 むつみ
    2010 年 9 巻 p. 83-100
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究はL2学習者がL2における複数の動詞の意味関係をどの様に習得するのか,またその習得の際に学習者の持つ母語の語彙知識がどの様に影響を与えるのかを実験的手法を用い,定量的に明らかにすることを目的とする.実験では,中国語母語話者,日本語及び韓国語を母語とする中国語学習者に,様々な様態でモノを持つ動作のビデオを提示し,中国語の「持つ」系動詞を産出してもらった.同時に,学習者の母語による名づけパターンを見るため、中国語学習者ではない別の日本語及び韓国語の母語話者にも,同じビデオに対してそれぞれの母語の動詞を産出してもらった.分析では,中国語母語話者及び学習者がこれらのビデオをどの様な中国語動詞を用いて名づけしたのか多変量解析的手法を用いて比較した.更に学習者に関しては,学習者の中国語の使い分けのパターンと,学習者の母語である日本語/韓国語動詞による名づけのパターンがどの様に関連しているか,比較分析を行った.その結果,学習者にとってL2における語の意味関係の理解は母語話者の理解と大きく異なること,更に学習者の語の使い分けには学習者の母語の影響が認められ,特に学習者は語を使い分けるに際し自らの母語における汎用的な語(日本語の「持つ」や韓国語の“teulda”の様な語)の意味をL2の汎用的な語(中国語の“na”の様な語)に転用し,より広い範囲のビデオに用いる傾向があることを明らかにした.

  • 佐藤 美香子, クラウディア フェルサー
    2010 年 9 巻 p. 101-118
    発行日: 2010年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,異なる母語を持ち,第二言語としての英語 (ESL)を学ぶ学習者が,第二言語処理において主語・動詞間の一致違反や格違反にどの程度敏感かを調査する.ドイツ語,日本語,中国語をそれぞれ母語とする熟達したESL学習者グループと英語母語話者グループは,speeded grammaticality judgement課題と時間制限のない文完成課題に参加した.学習者グループは,時間制限のない課題において当該文法現象の両方に関して優れた知識を持っていることを示したにもかかわらず,speeded grammaticality judgement課題においては英語母語話者グループと異なり,格違反に比べて一致違反に対してより低い敏感性を示した.この違いは,学習者の母語に関わりなく観察された.本研究による発見は,学習者が経験する困難性としてしばしば報告される動詞の屈折形態に関する問題は,既存の仮説に表されるような,言語産出に特有のマッピング障害を反映しているのではなく,言語理解にも見られる困難性であることを示している.また,第二言語の形態統語的処理における母語の影響の役割は,これまで論じられてきたよりもさらに限られたものであることが示唆される.

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