本稿は英語の所格動詞の習得に関して第一・第二言語習得研究の双方から得られた考察を再検討することを目的としている。実験1における嗜好タスクと実験2における文法性判断テストを利用することで,本稿は次の2つの研究課題に取り組んでいる:1) 第一言語習得研究によって示されているように,内容動詞は容器動詞よりも規範的(あるいは無標)なのだろうか。2) 統語部門と意味部門の対応関係がL1とL2で異なる場合,転移の影響はあるのだろうか。実験1の結果は日本人学習者にとって交替不可の内容動詞が最も習得しやすい英語の所格動詞であることを示すものだった。対照的に,交替可能な容器動詞は最も習得しにくい所格動詞であることが判ったのだが,これは転移のような学習者要因のみに基づく説明とは矛盾するものであった。一方,実験2の結果はBullock (2004)の予測を支持するもので,L1とL2のパラメター値の違いが転移を引き起こすことを示唆している。この矛盾を解決する試みとして,言語普遍性に関連する要因(つまり,容器動詞の有標的性質,Talmy (1972)参照)が英語所格動詞の習得過程にある過程の役割を果たしている,という提案が出された。データもこの説明と一致しているように思われることから,本稿は完全転移/完全利用可能仮説 (Schwartz and Sprouse, 1996)を支持するものとして考えられる。
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