初等教育カリキュラム研究
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Ⅰ 研究論文
  • —第3学年単元「安全なまちを目指して」を事例として—
    吉川 修史
    2025 年 13 巻 p. 1-10
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,地域社会の安全を担う一員としての自覚を促す小学校社会科授業を開発することである。先行研究では,第3学年単元「事故や事件からくらしを守る」においてリスクをいかに取り上げ,地域社会の安全に関してどのような見方や考え方を育成していくことができるのかについて十分な検討がなされてこなかった。本研究では,「安全学」に着目し,次の3点について考察した。第1に,小学校社会科地域学習における安全学の位置付けを示した。第2に,地域社会の安全について考える小学校社会科授業の単元構成を明らかにした。第3に,地域社会の安全を担う一員としての自覚を促す小学校社会科授業として,第3学年単元「安全なまちを目指して」を開発し,実践結果を分析した。様々な立場の人から地域安全マップを評価してもらうことを通して,子どもたちの安全に対する見方や考え方が広がり,深まっていくことが明らかになった。

  • —教授人間学理論の視点から—
    友定 章子, 真野 祐輔
    2025 年 13 巻 p. 11-20
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,算数科研究授業における参観者の観察活動を分析する一つの方法論(分析手法)を提案し,それを例証することを目的とする。そのために教授人間学理論に基づくプラクセオロジーと教授モーメントを理論的枠組みとして設定し,校内授業研究の一環として実施された研究授業の参観者(大学院生)が授業中のどのような側面に着目して観察しているかということを授業記録と観察記録の分析を通して明らかにすることを試みた。その結果,各教授モーメントにおける授業者の教授テクニックと参観者の教授観察テクニックとを対応づけて分析する手法を示すことができた。

  • —複式学級児童のパフォーマンステスト結果の経年比較を通して—
    榎原 朱梨, 松宮 奈賀子
    2025 年 13 巻 p. 21-30
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,複式学級外国語活動におけるくりかえし案の有効性を検討するために,複式学級児童と単式学級児童のパフォーマンステスト結果を比較するとともに,2年にわたりくりかえし案で学習した児童のパフォーマンステスト結果を経年比較することで,繰り返すことが学習内容の定着に繋がるのかを明らかにすることである。パフォーマンステストの結果,複式学級3年生,複式学級4年生,単式学級4年生において,リスニングとスピーキングの平均値に大きな差は見られなかった。また,2年にわたり,くりかえし案を用いて繰り返し学習を行った複式学級4年生児童のテスト結果を,3年生時のテスト結果(榎原・松宮,2024)と比較したところ,多くの児童において点数の向上が見られた。特にスピーキングに関しては,1年目の学習の際には発話にサポートがいる状態であったとしても,学習を繰り返すことで自分の力で発話できるようになることが示唆された。

  • —ニクラス・ルーマンの社会システム理論を援用した『ごんぎつね』の実践を例に—
    山中 勇夫
    2025 年 13 巻 p. 31-40
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,教育において主体を無意識のうちに何らかの方向へと向かわせる力を,ニクラス・ルーマンの社会システム理論を援用しながらシステムとして括り,その実態を見つめながら,実効的な教育の方策を見出すことにある。そのためにまずルーマンの理論から活用可能なものを抽出する。さらに具体的な問題状況の例として,学習者の〈平凡なマシーン〉化を取り上げ,〈平凡なマシーン〉化に陥らないための授業の理論とそれに基づく実践を提案している。実践では〈平凡なマシーン〉化を警戒しつつ,教室に立ち上がるシステムの力をあえて活用し,コミュニケーションの誤解と創造の連鎖を生かす授業を提案した。実践後の考察では,授業に偶発的・偶有的に立ち上がる教師や学習者の制御下に収まらない事象の存在を認め,それと対等に向き合いながら,創発的に物事を成していく視点を持つことの重要性を指摘した。

  • —プレルボール単元を対象として—
    久保 研二, 増野 紀一郎
    2025 年 13 巻 p. 41-50
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本研究は,ゲームパフォーマンスの獲得を達成したうえで,児童が多様な他者を認め合うことができる体育授業の開発ならびにその効果検証を目的とした。そこで,小学校5年生30名に,アダプテーション・ゲームを取り入れたプレルボールの授業を実践し,共生態度ならびにゲームパフォーマンスの視点から効果検証を行なった。

    その結果,「共生体育態度尺度」では,「リーダーシップ」「過度な勝利志向」「排除雰囲気」の平均点が有意に向上した。そのため,児童が多様な他者を認め合おうとするようになったと考えられる。また,GPAI分析の結果,「技能発揮」「意思決定」「ゲームパフォーマンス」ともに有意に向上した。このことから,体育科で獲得することが期待されるゲームパフォーマンスについても身に付けることができたと考えられる。最後に,対象児童の共生態度の変容の実態についても,過度に勝利に固執することが少なくなったことが分かった。

  • —「我が国の伝統的な音感覚」との接点をめぐって—
    伊原木 幸馬
    2025 年 13 巻 p. 51-60
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,藤井清水(1889-1944)の童謡創作における理念形成過程を考察し,藤井の創作した童謡作品 と「我が国の伝統的な音感覚」との接点を明らかにすることである。藤井は,東京音楽学校に入学以前より,西洋音楽を独学で学び,日本民謡を五線に採譜したり,その音楽的な特徴を考察したりするなど,民謡に対する意識の萌芽が確認できた。東京音楽学校入学後は上原六四郎,高野辰之らの講義を受け『俚謡集』『俚謡集拾遺』に触発され,民謡への認識を大きく方向づけられていった。東京音楽学校卒業後は,民謡調査・採譜を重ね,資料調査や音楽分析を行う中で,西洋音楽と日本の音組織との融合を模索しつつ新しい童謡作品を創作していたことが明らかになった。藤井の作品創作における理念形成過程を考察することにより,「我が国の伝統的な音感覚」と童謡作品との接点をめぐり,学校教育における教材選択の拡充につながる手がかりを得ることができた。

Ⅱ 実践論文
  • —外国語と他教科の合科的な学習を事例として—
    大村 龍太郎
    2025 年 13 巻 p. 61-70
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本研究では,「児童の目的意識に沿って必然的に合科的な学習となる展開」を体育と外国語,家庭と外国語の合科的な学習として構想・実践した二つの事例をもとに,そのような授業づくりを実現する意義と教師の手立てを考察した。

    両実践ともに児童は「伝えたい,知りたい,できるようになりたい,そのために」という明確な目的意識をもち,主体 的に体育や家庭のねらいとなる知識・技能を高めたり,必要な英語をすすんで獲得して主体的にコミュニケーションを図ったりする合科的に学ぶ姿が認められた。

    これは単に複数の教科のねらいを効率的に達成するだけでなく,児童が児童の論理に沿って主体的に学ぶ姿を生み出す合科的な展開としての意義がある。このような授業の実現には,学級担任が日常の生活や授業で児童の興味・関心や能力の実態を多面的にとらえて学習対象の検討・開発に生かすこと,教科等横断的に学習内容やねらいを見通すことが重要といえる。

Ⅲ 実践ノート
  • —第5学年「社会における多様性とメディア」を事例にして—
    野元 祥太郎
    2025 年 13 巻 p. 71-80
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/05/17
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,メディアにおける社会的包摂を学習内容として取り上げた小学校社会科授業を開発することである。社会科における社会的包摂に着目した教材・授業開発の視点として,社会モデルの考え方を視点として取り上げること,わたしたちの社会がマジョリティ中心の仕様になっていることを取り上げること,マジョリティとマイノリティの交流・対話を軸にインクルーシブな社会を形成するプロセスを取り上げることが重要である。本研究では,多様性への気づき,様々な社会的事象や社会問題について,マジョリティとマイノリティ間における不平等や不正義,不公平などの視点の形成を目指し,第5学年情報社会・メディアについての単元を開発した。メディアにおける排除・包摂を取り上げ,コミュニケーション・インフラからの排除やメディア表象からの排除の問題性やインクルーシブ・メディアの可能性について考えることができた。

IV シンポジウム
2024 年度 初等教育カリキュラム学会賞・編集後記
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