物理探査
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60 巻, 2 号
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特集号:物理探査のフロンティアII
論説
  • 山本 晃司
    2007 年 60 巻 2 号 p. 113-129
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    地殻応力は,地球科学,石油・天然ガスの開発,建設といった多くの分野の科学者・技術者に関心をもたれていて,様々な計測手法が研究されてきた。応力は,物性値と異なり遠隔的に知ることが難しい地下の状態に関する量であることから,直接原位置での計測が可能な坑井内で得られるデータの価値が特に高い。本論文では,坑内で行う試験方法及び検層で得られるデータに分けて,計測手法の原理,特性と課題について述べる。
    坑内の試験法には,応力解放法と水圧破砕法があり,千メートルを越える深部の応力計測には主に水圧破砕法が用いられるが,近年の研究で圧力からの応力の解釈に誤認の可能性があることが知られてきたことについて説明する。検層による手法としては,ブレイクアウトと掘削時の引張りき裂を比抵抗坑壁イメージツールで分析する手法が多く用いられる。また,掘削中の坑内圧力を計測するPWDツールでの逸泥時圧力の分析,ダイポールのソニックツールによるせん断波スプリッティングが発生するときの速度の分散による応力異方性の評価について述べる。
    このように各種手法が開発され精度と信頼性向上が図られているが,実際には単一の手法で応力テンソルの6成分を知る確実な方法は存在しない。そのため,応力度,特に最大水平応力の大きさは複数手法の組み合わせによって範囲を限定するというプロセスが必要である。また,各手法で得られたデータの多くは応力を直接計測したものではなく,応力によって生じた地層の変形・ひずみ,あるいは破壊から間接的に評価したものであるため,評価結果の信頼性を高めるためには岩石の力学的挙動を理解することが必要である。さらに点の情報であるで坑内での試験や,線の情報である検層の情報を三次元の空間に拡張していく上で,得られたデータの代表性の評価と,地質及び地層の力学的特性との関係を明らかにする必要がある。従って,地殻応力評価の信頼性向上には,単に個別の手法の精度向上だけでなく,坑井を取り巻く地層の特性・挙動と掘削作業プロセスの理解を含めた総合的な解釈が必要である。本論文では,地殻応力評価の主な課題と今後の展望について整理する。
論文
  • 筒井 智樹, 及川 純, 鍵山 恒臣, 富士火山人工地震構造探査グループ  
    2007 年 60 巻 2 号 p. 131-144
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    2003年に富士火山を対象とする人工地震探査が行われた。人工地震探査は富士山を中心として89kmの測線上に5点の発破点と468点の観測点が設定された。本報文では2003年人工地震実験の波形記録に対して山体内部の地震波反射構造の解析には擬似反射記録法を用い,深部地震波反射構造の解析にはシングルフォールド反射断面を用いた結果について報告する。
    富士火山の山体内部の擬似反射断面では,南あるいは南西に傾斜する明瞭な境界面が比較的高い標高に検出され,その下位には上下で反射位相のならびのパターンが異なる境界面も検出された。前者は古富士火山上面に対比される可能性が指摘され,後者は富士山の基盤面に対応する可能性が指摘される。基盤面は富士山東斜面の下では丹沢山地の西の延長部が山頂直下まで起伏をともなって連続する一方,南西麓では急速に海面下まで深くなる。それにともなって富士山の南西麓には堆積層が発達しており,堆積層の南西縁は富士川断層系で区切られる。
    富士火山とその周辺の深部地震波反射構造は,富士山南西側地域,富士山山体直下地域,富士山北東側地域の3つに大別される。富士山北東側地域では数十キロにわたるほぼ水平で連続性の良い深部反射面が複数認められるが,富士山南西側地域では南西落ちに急傾斜する深部反射面が複数認められる。これらの深部反射面のいくつかはフィリピン海プレート上面もしくは内部の速度/密度境界に対比される可能性があり,富士火山はフィリピン海プレートの傾斜が変化する場所に立地している。また,富士山山体直下では狭い領域にさしわたし数キロメートルの反射面が複数出現し,その周囲とは明確に異なる地震波反射構造をしている点が注目される。特に山頂の北東3~6kmの深さ13kmおよび16km付近にみとめられる明瞭な反射面はこれまでの研究で指摘された低周波地震の震源域と一致し,火山性流体と関係している可能性が高いと考えられる。さらに,これより上位の反射面群は深さ16kmの反射面と富士山頂を結ぶ線上に並んでいる。
    以上のように富士火山は深部から地表にいたるまで南西側に傾斜した構造をもち,深さ16km付近まで明瞭で特徴的な地震反射面が複数存在することが明らかになった。
  • 井口 正人
    2007 年 60 巻 2 号 p. 145-154
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    桜島火山は姶良カルデラの南端に位置する後カルデラ火山である。これまで,火山爆発を予測するために多くの観測がなされており,それに伴い火山の構造,特にマグマ供給システムの構造が明らかになってきた。1914年の大正噴火に伴う顕著な地盤の沈降,1955年以降の山頂噴火に伴う地盤の隆起と沈降,1993年以降の再隆起を引き起こした圧力源は,姶良カルデラの下深さ10km付近に求められており,桜島の主マグマ溜りは姶良カルデラの下にあると考えられる。桜島における地盤の上下変動の詳細な測定から現在活動中の南岳の直下にも圧力源が推定されることから南岳直下にも小さいマグマ溜りがあると考えられる。爆発の数分から数時間前に捉えられる桜島の地盤の隆起・膨張を示す傾斜ベクトルの方向は南岳の火口方向を示すこと,南岳の直下を通過する地震波は,異常のない部分にくらべて 1/10以下と著しく減衰し,その減衰域は南岳直下の半径1km程度の領域に限られることからも桜島南岳直下のマグマ溜りの存在を確認できる。また,ガスの膨張・収縮によって発生するB型地震・爆発地震の震源が火口直下において鉛直方向に分布することはマグマ溜りと火口をつなぐ火道の存在を示す。2003年には南南西部においてA型地震が多発したが,地盤変動の特徴から見ると南南西側からマグマが直接上昇したと考えるよりも,姶良カルデラ下のマグマ溜りの膨張に伴うその周辺での歪の開放あるいは,桜島直下および南南西へのダイク状のマグマの貫入過程でA型地震が発生したと考えるほうがよい。このことを確かめるためには人工地震探査を行い,地震波速度,減衰,散乱・反射の状態から姶良カルデラ下のマグマ溜りと南岳直下のマグマ溜りをつなぐマグマの通路を調べる必要がある。
技術報告
  • ─ノルウェー沖2次元4成分OBCデータ処理のケーススタディー
    淺川 栄一, ウォード ピーター
    2007 年 60 巻 2 号 p. 155-170
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    マルチコンポーネント反射法地震探査技術は、近年のデータ取得・データ解析技術の進歩により著しく改良されてきた。特に海域における探査の場合は、ジオフォン3成分とハイドロフォン成分の合計4成分のOBC(Ocean Bottom Cable、海底ケーブル)が実用化されてきており、水深1000mを越える海域においてのリザーバーキャラクタリゼーションや資源探査に使われる様になってきている。マルチコンポーネント反射法地震探査技術に伴うPS変換波のデータ処理.や解釈は比較的新しいトピックであるため、世界的にもデータそのものの公表や処理・解析実績や報告が少ない。PS変換波を使った探査としては、従来、1次元解析、VSP解析やOBS(Ocean Bottom Seismometer、海底地震計)データ解析と限られた分野での適用にとどまっていた。最近になって、OBCによる2次元、3次元反射法地震探査が実用化されてきた。PS変換波を使った場合に、岩相のさらに詳しい情報が得られるため、主としてリザーバーの評価に用いられている。また、通常のP波のみでは反射が得られにくい音響インピーダンスのコントラストが小さい場所でも、PS変換波によって明瞭な反射イベントが得られることがある。PS変換波のデータ処理・解釈の情報が不足している現状で、我々が実データを用いて実際のデータ処理例を示すとともにその問題点を検証することは、本技術の今後の発展に非常に意義のあることと考えている。
    未だ、日本近海において本格的なマルチコンポーネント反射法地震探査を実施した例はない。そのため、本論文では、1998年にノルウェーのPGS社が取得した2次元の4成分OBCデータを用いることとする。このデータは、石油公団石油開発技術センター(現、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構)がメタンハイドレート資源探査のための研究用として2002年にPGS社から購入したものであり、その研究の一環でハイドレート賦存層やBSRの物理的特性を決定するためにPS変換波の評価を行っている。このOBCのデータは、北海のノルウェー沖で「ストレッガースライド(Storegga Slide)」と呼ばれる地滑り地域で取得されたものである。通常の2次元海上地震探査と同じ測線で取得されており、2次元海上地震探査ではBSR(Bottom Simulating Reflector)が認められている。本データの処理結果は、Andreassen et. al. (2001)で報告されている。そのなかでは、ハイドレート賦存層やBSRにおいて、PP断面図とPS断面図の著しい違いが認識された。すなわち、BSRはPP断面図では明瞭に見えるにもかかわらず、PS断面図では認識できにくい。この事実は、PS変換波が物理的に他の情報をふくんでいることを示唆している。本論文では、PGS社のデータの再処理を行い、主としてデータ処理技術の問題点を検証し、解決方法の検討をする。
論文
  • 武川 順一, 真田 佳典, 山田 泰広, 三ヶ田 均, 芦田 讓
    2007 年 60 巻 2 号 p. 171-182
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    近年注目されているメッシュレス法の一種であるエレメントフリーガラーキン法(EFGM)を用い,岩石室内試験の数値シミュレーションを行った。EFGM は解析対象の要素分割を必要とせず,効率的で高精度の数値計算が可能である。本シミュレーションでは,統計的連続体モデルにより岩石供試体をモデル化する。すなわち,岩石供試体の局所的強度に何らかの分布に従うばらつきを与えて,岩石のもつ不均質性を表現する。これにより,微視的な破壊現象の開始からその局所化・合体・伝播・分岐,そして巨視的な破断面の形成と,一連の破壊現象を統一的に再現する。また,シミュレーション中に微視亀裂の発生に伴って発生する Acoustic Emission の位置や数を記録する。数値的に再現された岩石試験は一軸引張試験・Brazilian test で,それぞれの試験中における供試体内部の微視亀裂の状況を可視化したところ,実際の室内試験での微視亀裂の発生パターン,巨視的破壊形状ともによく一致した。また,ピーク強度が供試体寸法によって支配される寸法効果に関しても検討を行った。最後に,供試体に与えた統計的な性質がシミュレーション中に得られる微視亀裂の統計的性質に正確に反映されているかを確かめるため,AE 個数-載荷応力の関係を異なる Weibull 形状母数に対して調べた。その結果,シミュレーション結果から得られる統計的性質と,供試体に与えた微視的な統計的性質の間に明確な相関関係が認められ,シミュレーションの入力値である Weibull 形状母数の統計的性質は,巨視的な性質に正確に反映されていることが示された。
  • 広島 俊男, 牧野 雅彦
    2007 年 60 巻 2 号 p. 183-202
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    20万分の 1 重力基本図に多数見られる同心楕円状の重力異常を解析するため同心楕円の等値線を生じる物体(楕円筒,楕円錐,水平な切り口が楕円の放物体,楕円体及び水平な切り口が楕円の誤差関数形物体)による重力の鉛直勾配計算式を導き,等値線図を作成し,主な特徴について考察した。
  • 白石 英孝, 浅沼 宏
    2007 年 60 巻 2 号 p. 203-211
    発行日: 2007年
    公開日: 2010/06/25
    ジャーナル フリー
    近年多くの知見が示されている長距離での相互相関(Long-Range Correlation: LRC)を用いた波動伝搬特性の推定技術について,2点アレーの出力に相当する複素コヒーレンス関数(Complex Coherence Function: CCF)の時間応答および空間応答を用いて検討を行った。ここで CCF とは近年 Aki の空間自己相関関数に替えて用いられる量であり,見方を変えると観測点間の伝達関数,また時間領域ではインパルス応答関数に相当する量である。検討の結果,CCF は 2つの観測点を結ぶ線上を波面が通過する場合,すなわち 0 度または 180 度方向から入射する波に対してのみ強い感度をもつことが明らかになった。また入射方位によるゲインの違いを検討したところ,一例として 0 度または 180 度方向から入射する波は,90 度方向から入射する波よりも約 15dB ゲインが高いとの結果が得られた。さらに,CCF は周波数が高くなるほど指向性が先鋭化し,0 度および 180 度方向からの入射エネルギーが相対的に小さくなるため,あたかもハイカットフィルタのように振る舞う可能性があることも明らかになった。また,0 度および 180 度方向から入射する波が卓越するメカニズムについても検討を行った。その結果,CCF により LRC を用いた伝搬特性推定法の原理を説明できるとともに,分布振源を用いた新たな計測法の可能性が示された。
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