物理探査
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61 巻, 2 号
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小特集:地震波干渉法
論文
  • 横井 俊明, Sos Margaryan
    2008 年 61 巻 2 号 p. 87-99
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     本稿では,微動アレイ探査に用いられる SPAC 法を,特に複素コヒーレンス関数の方位平均の要不要を中心として,近年注目されている地震波干渉法に基づくグリーン関数の再構築の理論と野外観測の結果に基づいて再検討し,以下を明らかにした。
     先ず, SPAC 法と地震波干渉法に基づくグリーン関数の再構築の理論は,水平成層構造に対する極の寄与の定式化を通じて,相互にほぼ完全に一致する。唯一の例外は,前者では必須である複素コヒーレンス関数の方位平均が後者では不要となる事である。次に,都市内及びその近郊では微動のパワーの方位依存性が地震波干渉法の理論に適合する程度に穏やかで,複素コヒーレンス関数の方位平均が不要となる可能性がある。ただし,これは微動パワーの方位依存性の強弱及び許容する誤差の範囲と合わせて検討されるべきである。
     さらに, SPAC 法に関する次のような展望が新たに見出された。例えば,方位平均をしない SPAC 法による二・三次元の速度構造探査の可能性,二つのモードが混在する場合に位相速度を分離できる可能性,また,水平成分観測により分散関係とは独立に速度構造に関する新たな情報源となる係数が見出せる等が挙げられる。
  • 白石 和也, 尾西 恭亮, 伊東 俊一郎, 山中 義彰, 相澤 隆生, 松岡 俊文
    2008 年 61 巻 2 号 p. 101-110
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     地震波干渉法は,異なる受振器で同時観測された地震トレースの相互相関を取ることにより,一方を仮想的な震源,他方を受振器として観測したのに対応する擬似的な地震記録を合成することができる。これまでノイズと考えられてきた背景雑震動を信号として利用することを可能にする画期的なデータ処理技術として注目を集めている。本手法の最大の特徴は,雑震動の受動観測と人口制御震源を用いた観測のいずれの場合にも,設置した受振器の数だけの擬似的なショット記録を合成できる点にあり,相互相関処理によって合成された記録は従来のデータ処理プロセスに則って地下構造の可視化が可能である。本研究では,地震波干渉法による地下構造探査の実用化に向けて,山岳地域において透過波記録と反射波記録の関係を利用した二種類の現場実験を行った。一つ目の実験は,雑震動の受動的観測記録から地下探査を行う地震波干渉法の理論を実証するための実験である。理論的環境を再現するため,対象地域に存在するトンネル内を移動する打撃型震源およびトラック走行を震動源として利用し,斜面上に設置した受振器群により地中の波動場を観測,それらの記録に対して地震波干渉法を適用して地下構造のイメージングを行う。その結果,地質性状および反射法地震探査の結果に対応する重合断面が得られ,受動的観測記録を利用した地下構造調査の高い可能性を示す。二つ目の実験は,地震探査において震源の配置に何らかの制約を受ける場合,地震波干渉法が有効な探査法に成り得るかどうかを検討するための実験である。地表に偏在する発破震源を利用し,発震記録を透過波記録として利用して本手法を適用する。偏在する少数の震源からの地下構造探査が可能であることを確認できたことは実用上とても重要な結果である。本論文では,これらの実験を通じて地震波干渉法が今後幅広い分野で有効な探査手法と成ることを示す。
  • 白石 和也, 松岡 俊文, 松岡 稔幸, 田上 正義, 山口 伸治
    2008 年 61 巻 2 号 p. 111-120
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     本研究では,逆 VSP 記録に対して地震波干渉法(Seismic Interferometry)を適用し周辺地下構造のイメージングを行う。地震波干渉法の理論によれば,地中の震源からの波動場を地表の受振器群で観測し,その記録に対して透過波記録と反射波記録の関係式を利用してすべての地震トレースについて相互相関を行うと,地表に設置した全受振器数と同じ擬似ショット記録を合成でき地下構造のイメージングを行うことができる。本研究で取り扱う環境は,地層境界面の浅部に位置する単一の震源による観測記録であり,地震波干渉法による擬似ショット記録合成に関しては理論的に極めて厳しい環境である。そこでまず,数値シミュレーションにより擬似ショット記録合成とイメージングに関して検討を行う。地中の震源が一つしかない場合,合成された擬似ショット記録は真の反射波記録とは見た目上異なるものの,真の速度モデルを利用してマイグレーションを実施した結果,重合効果により設定した境界面をはっきりとイメージングすることができた。その後,立坑掘削時の発破を震源とする波動場観測記録を利用して周辺の二次元イメージングを行う。合成された擬似ショット記録に対して,速度解析を実施し重合およびマイグレーション処理を行うことにより,同一測線で実施された反射法地震探査による結果と整合的な,堆積層と基盤層の境界や堆積層内の構造の分布を充分に推定可能な良好なイメージング断面を得ることができた。ここで示された結果は,震源が単一であるという極めて厳しい環境であっても,地震波干渉法による地下構造のイメージングの可能性を示す有意義な結果である。
  • 相澤 隆生, 山中 義彰, 伊東 俊一郎, 木村 俊則, 尾西 恭亮, 松岡 俊文
    2008 年 61 巻 2 号 p. 121-132
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     地震波干渉法は,2点間で観測された地震記録の相互相関処理により,一方を震源とし,他方を受振点とする擬似的な合成地震記録を得ることができる手法である。これは従来の測定ではノイズとされていた雑振動を信号とした探査を可能にする手法として近年注目を浴びている。本手法を利用すれば,従来の反射法地震探査の測定に不可欠であった人工震源を用いずに,例えば道路を走行する車の振動や列車の走行振動,あるいは微小地震などの自然雑振動から地下構造の可視化か可能となる。
     我々は本手法の適用性を検討するために,いくつかの条件下での現場試験とデータ解析を実施した。その結果,以下のことが明らかになった。
     1) 山岳地帯尾根部における沢部発破の観測例では,受振点を取り囲むように震源を配置できた場合は,反射波の連続性が良く振幅も大きい傾向が認められた。2)急傾斜な道路法面におけるS波発震の観測例では,測線上 8 箇所の全ての震源データを使用することにより,測線上での擬似ショット記録を再現することができた。3)高速道路高架橋の橋脚付近での自動車走行振動の観測例では,30分間の測定時間であったため重合には至らなかったが,擬似ショット記録では S 波初動及び後続波の波群が認められた。これより,直線上に発震点が分布している場合の測定でも地震波干渉法の適用が可能となることが分かった。4)海岸地帯での波浪による雑震動の観測例では,測線に平行する道路からの車両走行振動と波浪振動とを区別してはいないが,振幅の大きな歩行ノイズを除くことにより擬似ショット記録の品質が向上した。5)能登半島地震の余震の観測例では,余震記録から反射構造が求められた。
     以上の結果より,地震波干渉法を適用することで,少ない発震点しか確保できない場合や,自動車の走行振動がある場合でも反射法地震探査の実現が可能であることが分かった。また,自然の雑振動である波浪や自然地震を振動源として利用する方法も有効であることが分かった。
解説
  • 松岡 俊文, 白石 和也
    2008 年 61 巻 2 号 p. 133-144
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     本稿では,地震波干渉法 (Seismic Interferometry) の理論について数値シミュレーションを用いて具体例とともに概説する。地震波干渉法は,異なる受振点で観測された地震波形の相互相関により,あたかもひとつの受振点位置を仮想的な震源として他の受振点で観測を行ったような地震波形を合成することができる。これまで従来型地震探査ではノイズと考えられてきた地中の震動を信号として利用できるほか,人工的な震源を用いた探査においても観測環境に合わせた震源受振点配置によって地下探査を行うことができる,今後広い分野で応用可能な画期的なデータ処理技術である。
     グリーン関数合成式は相反定理と時間反転不変の原理に基づいて導出される。ここではまず,音響波動場における導出過程と音響波動場および弾性波動場における地震波干渉法の基本式を示す。次に,数値シミュレーションによる例を用いて,地震波干渉法によるグリーン関数合成について具体的に示す。波形合成においては停留位相が重要な概念となり,これは地震波干渉法を利用した地下調査において震源受振点の配置を計画する際に役立つ概念である。また,地震波干渉法では観測に用いた受振器数に対応する擬似ショット記録を合成することができるので,この合成記録に対してデータ処理を施すことで地下構造の可視化や種々の解析が可能である。最後に,地中のランダムな震動観測記録に対して地震波干渉法を適用して地下構造をイメージングするシミュレーション例を示す。今後,地震波干渉法が環境や対象に応じた工夫を凝らしながら活用されていくことを期待する。
論文
  • 広島 俊男, 牧野 雅彦
    2008 年 61 巻 2 号 p. 145-168
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     20 万分の 1 重力基本図に多数見られる等値線が多角形状の重力異常を解析するため多角形状の等値線を生じる物体(多角柱,多角錐,水平な切り口が多角形で垂直な切り口が放物面の物体,水平な切り口が多角形で垂直な切り口が楕円の物体及び,水平な切り口が多角形で垂直な切り口が誤差関数形の物体)による重力の鉛直勾配の計算式を導き,等値線図を作成し,主な特徴について考察した。
  • 武川 順一, 山田 泰広, 三ケ田 均, 芦田 譲
    2008 年 61 巻 2 号 p. 169-179
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     粒子法は,差分法や有限要素法のような要素・格子を用いて解析対象を離散化する手法に比べて,解析対象のモデル化か容易である点や,大変形・破壊を容易に扱える点に特徴があることから近年注目を集めている。本研究では,粒子法の一種であるMPS (Moving Particle Semi-implicit) 法を用いて,波動伝播現象と破壊現象を同一のシミュレータで再現することを試みた。MPS 法は偏微分方程式に対する一般的な離散化手法であるので, DEM (Distinct Element Method) のように入力パラメーターのフィッティングを行うプロセスは必要ない。本研究では,まず, MPS 法による弾性解析のアルゴリズムが弾性波動伝播現象を正確に再現できるかを,差分法の結果と比較することにより検証した。その結果, MPS 法によるシミュレーション結果は体積変化を伴う変形を伝える P 波と圧力変化を伴わない変形を伝える S 波を再現しており,差分法による結果ともよく一致した。また,数値安定性についても検討を行った結果,差分法と同様,媒質の伝播速度・離散化幅・時間刻みによって安定性が決定されることが確認された。続いて,不連続境界面に弾性波が入射した際に反射波が励起される様子を MPS 法によりシミュレーションした。その結果,P 波入射により励起される PP, PS 変換波と,S 波入射により励起される SP,SS 変換波が再現されることが示された。
     次に,弾性波動伝播現象と破壊現象が同時に起こる物理現象として,本研究ではホプキンソン効果に着目し,これを MPS 法により再現することを試みた。その結果,棒の端面に加えた圧力波が媒質を伝播していく様子と,その圧力波が自由端反射して発生した引張力によって棒が破断する現象をシミュレートすることができた。また,破断した破片が飛翔してゆく状態までを再現することができた。このことから,要素や格子を用いる手法では表現することが困難な不連続な現象を, MPS 法を用いることにより同一のシミュレータで再現できることが示された。
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