物理探査
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61 巻, 4 号
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小特集:電気・電磁気測定による地下水流動の検出
論文
  • 西 祐司, 石戸 経士, 根木 健之
    2008 年 61 巻 4 号 p. 285-299
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     断層,フラクチャー,ジョイント等の不連続が統計的にランダムに分布している“フラクチャー岩体”では,流体の流れに関してはフラクチャー部が,岩体の蓄える流体ならびに熱に関してはフラクチャーに囲まれた緻密な母岩であるマトリックス部が大きく寄与する。このような岩体からの流体・熱エネルギーの採取,化学種の移流拡散を評価する場合に,フラクチャー部のみならずマトリックス部も含んだ水理パラメータを把握することが必要であるが,圧力と流量を観測量とする従来の坑井テストでは浸透率の低いマトリックス部に関わるパラメータを精度良く決定することには限界があった。Ishido and Pritchett (2003) は界面動電現象による流体の流れに伴う電流が浸透率よりも空隙率の関数であることに着目し,圧力遷移試験時に坑井内で自然電位 (SP) の連続測定を併用することにより従来の坑井テストに比して高精度でマトリックス部の圧力平衡時間などの重要なパラメータを求めうる可能性を指摘した。
     この可能性を実験的に検討するために,釜石鉱山のKF-1孔及びKF-3孔を利用して圧力遷移試験を実施した。KF-1・KF-3各々の孔内に,孔口から10-50m間に12個のAg-AgCl電極を挿入し,孔口には圧力計と流量計を設置した。また,根木ほか(1997)による以前の実験結果との比較のため,坑道沿い8箇所にAg-AgCl電極を設置した。このような測定システムを用いて孔口バルブの操作に伴う孔口圧,湧水流出量,各電極の電位変化を測定し,圧力遷移に伴う再現性の良い自然電位変化測定に成功した。孔口開放に伴う孔内圧の低下に対応して,観測孔内電極の電位の上昇と坑道壁(床)面電位の低下が観測された。これらの変化は流動電位に起因するもので,健岩部での自然電位変化から流動電位係数は-10~-15mV/MPaと推定された。フラクチャーゾーンでは健岩部とは異なる自然電位変化/圧力変化のパターンが捉えられ,KF-1, KF-3両孔周囲の岩体についてフラクチャーとマトリックス間の圧力平衡の緩和時間はおよそ1000~2000秒,フラクチャースペーシングにして1~4m程度と推定され,フラクチャー岩体の水理特性推定における坑井内自然電位測定の有効性が確認できた。
  • 長谷 英彰, 石戸 経士, 神田 径, 森 真陽
    2008 年 61 巻 4 号 p. 301-312
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     開聞岳において自然電位測定を行った結果,山麓成層火山領域では約-3mV/mの明瞭な地形効果を表す自然電位プロファイルが得られた。一方,標高400mから上部の中央火口丘領域では,地形効果が明瞭でない上,中央火口丘領域内に局在している885年溶岩との境界付近において,いくつかの局所的な自然電位異常が明らかとなった。これらの自然電位プロファイルの原因を解明するため,電位プロファイルに沿ったVLF-MT観測と採取した岩石のゼータ電位測定を行った。得られた見かけ比抵抗は100~600Ωmの値を示し,際立った低比抵抗や高比抵抗を示す場所はみあたらなかった。岩石ゼータ電位はすべてのサンプルが負の値を示したが,地層ユニット毎に値が異なっており,山麓成層火山(約-10mV),中央火口丘(約-1mV),885年溶岩(約-20mV)の3つに分類できることが明らかとなった。開聞岳では,地層ユニット毎のゼータ電位の違いが自然電位に影響を及ぼしている可能性があるため,地下水流動とゼータ電位測定の結果を用いた自然電位の数値シミュレーションを行った。最初に山麓成層火山と中央火口丘の関係について軸対称モデルの計算を行った結果,ゼータ電位がゼロに近い中央火口丘では,発生する流動電位が小さいため,地形効果も極めて小さくなることが示された。次に中央火口丘と885年溶岩の関係について定性的なモデルを用いて計算を行った結果,885年溶岩の下方周辺では,正の自然電位異常を形成することが示された。以上の結果から,開聞岳の自然電位は,地質ユニット毎に異なるゼータ電位を反映して,(a)標高400m以下の山麓成層火山では約-3mV/mの地形効果,(b)標高400mを越える中央火口丘ではフラットに近い小さな地形効果,(c)885年溶岩と中央火口丘の境界付近では局所的な電位異常,から成る分布を形成していることが示唆された。
技術報告
  • 井上 敬資, 中里 裕臣, 久保田 富次郎, 竹内 睦雄, 古江 広治
    2008 年 61 巻 4 号 p. 313-321
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     土中水の3次元的浸透を簡易に把握する手法の検討を目的として,シラス台地で実施した地下水涵養試験において井桁状に配置した4測線で連続的に比抵抗法2次元探査を行い,制約付非線形差トモグラフィ解析により2次元の比抵抗変化率分布を求めた。涵養開始前の比抵抗分布は地質構造を反映し,複数測線の検討から調査地区の地質構造は層構造を持つことがわかった。また,涵養開始後の比抵抗変化はおおむね飽和度の変化を反映していると考えられ,2次元差トモグラフィ解析により土中水の動態が把握できることが示された。涵養中は,二次シラス層に沿った比抵抗の低下部の広がりが観測され,鉛直浸透に加えて土中水が二次シラス層に沿って水平方向にも広がったものと考えられた。一方,ローム層では中性子水分検層による体積含水率分布および差トモグラフィ解析による比抵抗の双方に変化が見られず,選択流の発生が推察された。また,涵養開始直後は涵養条件から不均質性の高い浸透が生じたと推定されたが,各測線断面ではこの涵養状況の違いを反映した比抵抗変化率分布が得られた。これらの結果より,複数測線の2次元差トモグラフィ解析により,土中水の鉛直および側方方向への浸透を含めた3次元的な涵養状態を経時的かつ簡易に把握できることが示された。
通常論文
論文
  • 狐崎 長琅, 山脇 康平
    2008 年 61 巻 4 号 p. 323-335
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     田沢湖の成因は,地学上長く謎であった。これまでカルデラや隕石口の可能性も示唆されたが,明確な証拠は発見されなかった。しかし,最近の火山堆積学的地質調査により,田沢湖から噴出されたと思われる火砕流堆積物が同定されるようになった。田沢湖の成因にかかわる湖底構造を探るため,1974-75年に,我々はこの湖水面上で磁気探査を実施した。今回このデータと共に,既存の空中磁気探査データを改めて再解析した。両データの連結と極磁力変換が,解釈に有効であった。その結果,湖底を縦断する正磁化体の潜在が明らかになった。一見岩脈状のこの岩体は,旧カルデラとみられる重力負異常域の境界急勾配帯(おそらく断層)上に位置し,やや活発な微小地震の活動帯とも重なる。湖面下に潜む振興堆は,この岩体と関連した中央火口丘のようにみえる。観測異常に適合した物理モデルも提示する。
解説
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