物理探査
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61 巻, 6 号
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特集:微動と地震防災
論説
  • 岡田 広
    2008 年 61 巻 6 号 p. 445-456
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     1995年阪神淡路大震災を機に,1998年から2004年にかけて文部科学省企画の「強震動予測に必要な堆積平野地下構造調査」が行われ,それに微動探査法が使われた。文部科学省により公開された同調査の成果報告書を通覧し,この調査で微動探査法の担った役割,有効性,成果等を検証し,併せて「微動探査の現状と課題」について論考した。なお,今回の微動探査では,従来のSPAC法では説明不可能な位相速度が推定されている。これを表面波(レイリー波)の高次(複数)モードの混入による影響と考え,その因果関係をSPAC法の原点に戻って考察した。
論文
  • 長 郁夫, 多田 卓, 篠崎 祐三
    2008 年 61 巻 6 号 p. 457-468
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     上下動地震計を半径0.3mの円周上に配置した極小アレイで常時微動の波形データを取得し,我々が近年開発したCCA法という解析手法をこれに適用したところ,数10mあるいは100m以上の波長領域に至るまで,レーリー波の位相速度を良好な精度で同定することができた。この方法を,レーリー波位相速度を地下浅部の平均S波速度と関連づける紺野・片岡 (2000) の提案と組みわせれば,極小円形アレイを用いた簡便な微動測定により,表層地盤の特性を手早く評価することが可能になると期待される。以上の手順は,一人の観測者の手の届く程度のわずかなスペースさえあれば,微動観測により地下数10mまでの平均S波速度が推定できるという意味で,既存のアレイ探査法と比べ画期的な利点を有する。実際,茨城県つくば市内の3サイトで取得した微動アレイ記録に上記の新しい探査法を適用し,地下10, 20, 30mまでの平均S波速度を推定したところ,PS検層結果や地質構造と調和的な推定結果を得ることができた。
  • 山中 浩明, 内山 知道
    2008 年 61 巻 6 号 p. 469-482
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     糸魚川─静岡構造線(以下,糸静線)は,わが国で最も活発な断層帯の一つとされ,M8クラスの地震が発生する可能性があり,その周辺地域では強震動予測が行われている。より精度の高い予測には信頼性の高い地下構造の情報が必要となる。本研究では,糸静線近傍に位置する長野県松本盆地内の8地点において,微動のアレイ観測を実施し,レイリー波の位相速度を求めた。さらに,それらの逆解析から表層から地震基盤までの1次元S波速度構造を明らかにした。また,同盆地内の2地点において70日間微動観測を行い,その上下成分に地震波干渉法を適用し2点間のグリーン関数を求め,そのレイリー波の群速度を求めた。さらに,その逆解析から地震基盤までの1次元S波速度構造を明らかにした。この結果は,微動探査による結果とよく一致しており,松本盆地において地震波干渉法の適用が可能であることが分かった。さらに,微動観測記録の水平成分に対しても地震波干渉法への適用も試み,ラブ波の群速度やレイリー波の楕円率も推定することができた。これらの表面波の特徴も微動探査の結果で説明することができた。
  • 林 宏一, 平出 務, 飯場 正紀, 稲崎 富士, 高橋 広人
    2008 年 61 巻 6 号 p. 483-498
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     2007年3月25日に発生した能登半島地震により被災が見られた石川県穴水町において,表面波探査と小規模微動アレイ探査により浅部地盤構造の調査を行った。穴水町では多くの住宅が被害を受けたが,被害はK-NET穴水観測点(ISK005)の近傍の特定の地域に集中していた。この地震において,K-NET穴水観測点では,周期約1秒が卓越する800gal近い最大加速度が観測されており,このような強い地震動と住宅の被害の関連が注目されている。表面波探査と小規模微動アレイ探査による調査の結果,K-NET穴水観測点の周辺ではS波速度約60m/sの低速度層が深度10m近くまで分布しているのに対して,穴水駅東側の古くからの市街地では地表面付近からS波速度500m/s以上の高速度層であることがわかった。またK-NET穴水観測点の南側約50mにも高速度の領域が存在し,同観測点の近傍で基盤深度が急変していると推定された。探査により推定されたS波速度構造を確認するために,K-NET穴水観測点近傍でラム・サウンディング試験を行ったが,その結果は探査結果とほぼ整合した。このような浅部地盤構造の不整形性が地震動におよぼす影響を評価するために,差分法による数値シミュレーションを行った。その結果,基盤深度が急変している場所では局所的に地震動が大きくなる可能性があることがわかった。穴水町中心部で地震被害が集中しているのは,地表から深度20m程度までの浅部地盤構造が水平方向に大きく変化している場所の近傍であり,複雑な地盤構造が被害の集中をもたらした可能性が考えられる。
  • 津野 靖士, 工藤 一嘉
    2008 年 61 巻 6 号 p. 499-510
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     長周期の地震動(周期数秒~十秒程度)がしばしば観測される静岡県南部の御前崎市周辺を調査地として,アレー微動解析と強震動記録の解析を通じて,地下構造モデルを作成した。静岡県南部は東海地震の発生が懸念されているにも関わらず,表層から地震基盤(Vs 3km/s程度以上)までのS波速度構造資料が十分とは言えない地域である。アレー微動解析ではSPAC法を用いて第1次のモデルを作成し,次に地震動記録の表面波解析からモデルの妥当性を検証した。微動と地震動によるRayleigh波位相速度は良く調和し,強震動の後続波群の粒子軌跡・楕円率に関しても微動による地下構造モデルを支持する。さらに,得られた地下構造を水平成層と仮定して波数積分法を適用した地震動シミュレーション結果は,強震動記録に見られる長周期(周期数秒~10秒程度)の後続波群を良く再現し,本推定地下構造モデルの妥当性を立証している。この地域はフィリピン海プレートの沈み込みに伴う付加体によって形成され,厚い堆積層が存在することは以前から知られていることであるが,今回の調査により,付加体である海成堆積層のS波速度が1km/s程度から2km/s程度まで,深さ4~5kmに亘って漸増することが分かった。また,その直下にS波速度が4km/sの地層(基盤)が推定されたが,陸上の地殻上部に比べ高速度である。浅い地震あるいは規模の大きな地震動が発生した場合には,主として表面波が構成する長周期の地震動を大きく励起する地下構造と言える。
  • 澤田 義博
    2008 年 61 巻 6 号 p. 511-522
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     微動H/Vスペクトル比が表層の地震増幅特性に近似するかどうかを明らかにすることを目的として,表層の薄い硬質地盤から厚い堆積平野における地震観測点を対象に微動を観測し,地震観測データと比較した。その結果,微動H/Vスペクトル比には,表層における水平動と上下動の両方の応答特性が反映されており,微動H/Vが表層の地震増幅特性に近似するという考えは,実際のS波地震増幅特性をかなり過小評価する可能性があることが明らかになった。このため,微動H/Vの卓越周波数およびピーク振幅に着目し,卓越周波数と基盤深度,ピーク振幅と水平伝達関数の関係を用いて,2層構造モデルを仮定することにより,表層地盤の地震増幅特性を簡易に推定する手法を新たに提案した。この簡易推定法の適用性を地震観測データにより検証した結果,推定結果に 1.4倍程度の余裕を考慮することにより,硬質地盤から厚い堆積層の地盤までおおよその地震増幅特性を概ね安全側に推定でき,本推定法は詳細調査に先立つ概査法として有用と考えられる。
  • 小田 義也, 岩楯 敞広
    2008 年 61 巻 6 号 p. 523-532
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     地震発生時に詳細な震度分布を即時的に把握することは,災害発生時の初動計画において重要なことである。また,行政による公助だけでなく,地域住民自身による自助,共助を考えるうえで,市区町村内の詳細な震度分布は重要な情報となるであろう。
     兵庫県南部地震以降,日本全国に数多くの地震観測点が設置され,地震発生直後に各地の震度が速報されるようになった。これらの地震計は日本全国,もしくは,都道府県内の震度分布を把握するのに十分な密度で設置されている。
     しかし,地域住民の視点で考えると,すなわち,市区町村内のより詳細な震度分布を把握するには十分な地震観測点密度であるとはいえない。横浜市のような特別な場合を除き,多くの市区町村に設置されている地震観測点は1地点から数点であろう。
     そこで,本論では,ニューラルネットワークによる情報処理を応用し,2地点の地震観測点で観測された計測震度から面的な震度分布を即時的に推定する方法を提案した。提案手法を高密度地震観測網が設置されている横浜市において適用した結果,良好な精度で震度分布を推定することができた。また,学習に用いる地震数や観測点数が推定精度に与える影響についても検討した。
  • 神野 達夫, 三浦 賢治, 熊谷 千代志
    2008 年 61 巻 6 号 p. 533-543
    発行日: 2008年
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
     地震動は表層地盤の影響を強く受けることから,地表における地震記録,あるいはそれから算出された計測震度などの特性を適切に解釈するためには,その観測点固有の地盤震動特性の把握が重要となる。本研究では,中国地方に設置されている県震度計,K-NET,KiK-netの観測点において微動測定を実施し,この結果と地震観測記録,ならびにボーリングデータを用いて,微動の水平動と上下動のスペクトル比(H/Vスペクトル),地震動H/Vスペクトル,1次元波動論に基づく伝達関数によって各観測点の地盤の卓越周期を推定した。そして,地表と地中で地震観測記録が得られているKiK-net観測点を対象に,地表と地中の地震動のスペクトル比による地盤卓越周期を基準として,それぞれの手法の地盤卓越周期の推定精度を検証した。微動H/Vスペクトル,地震動H/Vスペクトルの地盤の卓越周期の推定精度には大きな違いなく,誤差は16~18%程度であり,1次元波動論に基づく伝達関数による地盤の卓越周期の推定精度は,これらよりも低い。さらに,これらの結果を用いて各観測点の地盤卓越周期を推定した。中国地方の内陸部の地盤の卓越周期は0.3秒以下と非常に短いが,沿岸部では0.5秒以上の卓越周期を示す。特に比較的人口の多い都市部において1秒以上の長い卓越周期を示す地点が多い。また,推定した地盤の卓越周期とPS検層結果から算出された表層30m平均S波速度 (AVS30) の関係について考察を行った。両者の間には比較的良い相関が見られた。両者の関係式を導出し,その関係式を用いてAVS30を推定した。その精度は,国土数値情報から推定されるAVS30よりも高いという結果が得られた。
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