物理探査
Online ISSN : 1881-4824
Print ISSN : 0912-7984
ISSN-L : 0912-7984
62 巻, 6 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
小特集:地層熱物性測定
論文
  • 松林 修, 後藤 秀作
    2009 年 62 巻 6 号 p. 565-574
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     多孔質媒質としての地層のもつ熱物性の特徴を一般的に理解して実用的な課題に役立てる定式化を進めることを研究の目標にしている。複合媒質の熱伝導率を評価する幾何平均モデルを出発点として,熱伝導率と関係する3つの熱物性すなわち熱容量・比熱・熱拡散率についても堆積物試料の間隙率の値を独立変数とした予測の式を導いた。具体的には,北米大陸西方沖Juan de Fuca Ridge海域の海底掘削による堆積物試料(泥質および砂質)を用いて4種類の熱物性の間隙率に対する関係が明らかになった例を示す。その際に泥質堆積物および砂質堆積物の二つのサブ・グループに分けて,それぞれの試料グループの共通固体粒子に対して標準的な熱伝導率,熱容量,比熱,熱拡散率の値が決定された。今回扱った深海底の泥質および砂質堆積物のグループについて,その標準的な固体粒子の熱物性値は鉱物組成の分析データから期待される値とほぼ整合的であった。より汎用性のある地層熱物性の定式化を行なっていくために今後の課題となる事項についても簡単に言及した。
  • 濱元 栄起, 山野 誠, 後藤 秀作, 谷口 真人
    2009 年 62 巻 6 号 p. 575-584
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     地表面における温度変動は,地下へ熱拡散によってゆっくりと伝播する。この性質を利用すると,地下の温度分布から過去数百年間の地表面温度変動の履歴を推定することができる。この手法は,これまで北米やヨーロッパで広く用いられてきた。本論文では,地表面温度変動が簡単な関数で表される場合を例として,地下温度分布がどのように乱されるかを示した。また,最近100年間に地表面温度がほぼ直線的に上昇した場合について,逆問題解析の手法を用いて地下温度分布から過去の地表面温度変動を推定した結果が,仮定した温度変動と整合的であることを示した。次にこの方法を,バンコク地域の地下水観測井で2004年,2006年,2008年に計測した温度データに適用した。温度計測を行った44地点のうち,解析に適した6地点のデータを選び,地下の地質構造が多層であることを考慮したモデルを用いて過去300年間の地表面温度の履歴を推定した。その結果,すべての地点で最近100年間に地表面温度が上昇していることがわかった。上昇幅は測定点ごとに異なり0.4~2.4Kで,都市近郊や農村地帯に比べて都心において大きい。この違いはヒートアイランド現象や土地利用の変化など都市化の影響を反映している可能性が高い。さらに,地表面温度変動の復元結果を用いて,1900年以降に地中に蓄えられた熱量の推定を行った。バンコク都心部で1990年までに蓄積された熱量は,北半球での平均値の2~3倍に達している。この地下温度分布から地表面温度変動や熱の蓄積過程を推定する手法は,他の都市にも適用可能であり,地球温暖化や都市化の熱的影響についての議論に有用であると考えられる。
技術報告
  • 木下 正高
    2009 年 62 巻 6 号 p. 585-595
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     深海掘削計画 (DSDP, ODP, IODP) を通じて実施されてきた,掘削孔内での原位置温度計測の機器と手法を紹介する。地球内部の温度分布を推定するための有用な手段の一つとして,掘削孔内での原位置温度計測が深海掘削計画を通じて実施されてきた。地層中の温度を正確に測定するためには,掘削の最先端よりも先に温度プローブを突き出して,掘削の擾乱が及んでいない場所での温度を測定するのが理想的な方法である。これまでに,水圧式ピストンコアラーの先端(シュー)内部に温度計を組み込んだもの(APC ツール)と,槍状の温度計を先端から下に突き刺すものが開発され,測定実績を上げてきた。温度センサー自体はmkオーダーまでの相対精度を持つが,貫入による摩擦熱の影響を補正することによる誤差,あるいは突き刺した地層中に裂け目が生じたり途中で動いたりして温度場が乱れることによる誤差が大きく,その精度は0.1-1 Kの程度である。APCツールでは,ピストンコアが貫入できる深度である100m程度が測定限界であるが,先端の直径が1cm以下のものでは,海底下400m程度までの計測が可能になった。これまで海底熱水域や付加体での計測が行われ,流体移動の証拠などの結果が得られている。
解説
  • 福原 政文
    2009 年 62 巻 6 号 p. 597-604
    発行日: 2009年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     オイルフィールドに於いての温度は,地層亀裂,流体・ガスの移動,掘削時やセメンティング状況など,時間応答の短期なものから長期にわたるものまで把握できるパラメタで,生産状況の把握や危険予知・回避にも幅広く利用されている。また,熱物性値はそれ等の現時点での状況のみならず,そこに至るまでの過程の把握やその後の振る舞いの予測に利用出来る重要かつ有用な値である。本稿では,温度や熱物性がオイルフィールドで現状どのように測定され,その値がどのように応用されているのか,温度検層,温度モニタ,生産・輸送中の温度,熱による生産,熱物性の測定といったテーマで大局的に論じ,そしてどのような将来展望があるのかを議論している。
feedback
Top