物理探査
Online ISSN : 1881-4824
Print ISSN : 0912-7984
ISSN-L : 0912-7984
64 巻, 6 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集:東北地方太平洋沖地震の被害と地下構造
特別寄稿
  • 齋藤 徳美
    2011 年 64 巻 6 号 p. 381-387
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の津波により,岩手県では6千余名の方々が犠牲となった。三陸沿岸で遡上高が30mクラスの大津波は過去115年で3度目であり,必ずやってくると想定されたものであった。これまで,津波浸水域マップの作成,住民への啓発活動など,様々な取り組みを行なって来たものの,多数の犠牲者が出たことについて,地元研究者の一人として忸怩たる思いである。「生業(なりわい)の再興」と「安全な町づくり」を柱とした岩手県の復興計画がまとめられたが,国の財政的支援が不確かで復興は進んでいない。発生から9ヶ月,人が流出し,町が崩壊する危惧を孕みながら,現地は厳しい冬の季節を迎える。非常事態との認識での腰を据えた国の支援が急がれる。
論文
  • 山中 浩明, 津野 靖士, 地元 孝輔, 山田 伸之, 福元 俊一, 江藤 公信
    2011 年 64 巻 6 号 p. 389-399
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     2011年東北地方太平洋沖地震では,東日本の太平洋側の地域で強い地震動が観測された。とくに,宮城県築館市のK-NET観測点MYG004では震度7が観測され,最大加速度も2Gを超えた。本研究では,この大振幅の地震動特性と地盤増幅の関係を実証的に明らかにすることを目的として,K-NET築館観測点の周辺において余震による地震動観測および微動探査を実施した。余震観測の結果から,この強震観測点付近での増幅特性の卓越周期は約0.2秒であるが,強震観測点周辺の20m程度の範囲でも,表層地盤や地形の影響によって増幅特性は大きく異なっていることがわかった。さらに,強震観測点周辺の1km程度の範囲でも増幅特性は異なっており,その卓越周期は周期0.1から0.5秒の範囲に分布している。また,構造物被害に影響を及ぼす周期1秒程度の成分の増幅は,この地域全体で大きくないと考えられる。各余震観測点で実施された微動探査の結果から,深さ30m程度までの表層地盤のS波速度構造を明らかにした。得られたS波速度構造モデルの1次元増幅効果によって,余震観測点での増幅特性の相対的な違いや卓越周期は大まかに説明できたが,計算された増幅倍率が観測値よりも小さめに評価された地点もあった。とくに,MYG004では,観測増幅倍率が計算値よりも2倍以上大きく,表層地盤の1次元増幅効果では十分に説明できないことがわかった。
  • 津野 靖士, 地元 孝輔, 山中 浩明
    2011 年 64 巻 6 号 p. 401-412
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     2011年東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)は,宮城県沖を震源とし,東北日本に沈み込む太平洋プレートの境界面で発生した。関東平野の最北東に位置する水戸市,日立市,笠間市などでは震源断層の最南端である茨城県沖に近いことから,計測震度が6を超え,特に茨城県鉾田市では計測震度6.4,最大加速度1762galを記録した。しかし,これら地域に於いて地震動評価あるいは予測に重要な地震基盤までの速度構造を明らかにした資料は少なく,茨城県中部に於けるS波速度構造を定量的に把握するには至っていない。そこで,本研究では,K-NETなどの定常観測点が配備されていない茨城県中部,特に東茨城台地のS波速度構造と地震動特性を定量的に評価することを目的に,東北地方太平洋沖地震(Mw 9.0)の連続余震観測を実施した。長周期帯域を対象とした余震記録の解析(地震動コーダを用いたH/Vスペクトル比)と短周期帯域を対象とした連続微動記録の解析(地震波干渉法を適用した相互相関関数)の観測結果に逆解析手法を適用することで,東茨城台地に於ける地震基盤(Vs 3.2km/sec)に至るS波速度構造を推定した。追加した単点微動観測では,微動記録を用いたH/Vスペクトル比の1次卓越周期分布から,台地中央部から太平洋側に向う地震基盤面の緩やかな傾斜を確認することが出来た。また,余震記録を用いて求められた地盤増幅特性は,推定されたS波速度構造による理論増幅特性と大きな矛盾はなく,その卓越周期を概ね説明することが出来た。
  • 鈴木 敬一
    2011 年 64 巻 6 号 p. 413-424
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     福島第一原子力発電所の事故により,放射能や放射線に対する関心が高まっている。身の回りの放射線量を知ることは重要である。そのため環境放射線の線量率のモニタリングと東京23区東部のマッピングを行った。放射線量率のモニタリングは東京都墨田区北部の木造モルタル2階建ての屋内と屋外で行った。3月15日の爆発事故後から1日に2回の測定を実施した。測定器はポケット線量率計マイレートを用いた。3月15日に線量率の最大値,1μSv/hを記録した。このときは放射性核種の降下は起きなかった。3月21日と22日に降雨があり,このとき放射性核種の降下が生じたものと考えられている。その後,11月25日までに線量率の大きな変化はない。線量率変化が人工核種に起因するものかどうか調べるために,東京都港区のビルの屋上でガンマ線スペクトロメータを用いて,エネルギースペクトルを測定し,応答行列法(湊,2011)により放射性核種を推定した。その結果,131I,137Csおよび 132Teとその娘核種である132Iなどが検出された。3月23日には131Iが12kBq/m2という値を示したが,1週間後には低下した。以上のことから,放射性核種が降下したのは事故発生直後であり,2011年4月以降における降下物はほとんどないものと考えられる。放射性セシウムは既に土壌やコンクリートあるいはアスファルトの骨材などに吸着され,ほとんど移動しなくなっていると推定される。
     東京都23区東部における線量率マッピングの測定範囲は東西約10km,南北約15km,測定点数は566である。線量率の分布は概ね北東から南西方向に低くなる傾向にあるが,局所的に高いところもある。その場所は北東を向いた堤防法面や緑化されたスーパー堤防などである。文部科学省が公表したデータとも整合性が良い。細田ほか(2011)は,原発事故前の東京都葛飾区の線量率分布を示した。事故前は緑地の多いところでは線量率が低く,コンクリートやアスファルトが多いところで高かった。事故後は,その傾向が逆転し,緑地の多いところで線量率の増加が著しい。事故前の線量率の平均値は,39nGy/hであったが,事故後は158nGy/hとなった。東京都内でも事故前の約4倍に増加している地域があることがわかった。
技術報告
  • 鈴木 浩一, 内田 利弘, 相澤 隆生, 狩野 嘉昭, 伊東 俊一郎, 山中 義彰, 佐々木 吾郎, 田上 正義
    2011 年 64 巻 6 号 p. 425-436
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     東北地方太平洋沖地震 (M9.0) の1ヶ月後 (2011年4月11日) に発生した福島県浜通りの余震 (M7.0) に伴い,既知の活断層である湯ノ岳断層に沿って地表地震断層が出現した。同県いわき市南部の本断層南端部において,CSAMT法および反射法地震探査により深度1kmまでを対象とした地下構造の調査を行った。CSAMT法では,送信源は南東側に約5km離れた地点に敷設し,断層の走向 (NW-SE) に対しほぼ直交方向に 6測線を設置し,約50mの測点間隔で,電場1成分,磁場1成分の測定を行った。また,CSAMT法の最南端測線を含む道路沿いに反射法地震探査を行った。その結果,地表断層の現れた測線では,断層を境に北東側は数 10Ωm~100Ωmの高比抵抗部,南西側は数 Ωm~10Ωmの低比抵抗部となり,南落ち傾斜の岩相境界が捉えられた。一方,地表断層が確認されなかった最南端測線においては,断層延長部より南西側約200mの位置に南落ち傾斜の比抵抗構造,および反射法地震探査による解析断面には反射面の不連続部や撓曲構造が見られ,断層の存在が示唆された。
ケーススタディ
  • 保坂 俊明, 相澤 隆生
    2011 年 64 巻 6 号 p. 437-444
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     いわき市常磐地区の湯ノ岳断層周辺において発生した震災箇所において,被災状況を把握するために,地上型3Dレーザースキャナによる調査を実施した。調査対象は,建築物,斜面崩壊及び盛土構造物である。被災状況を調査した結果,以下のことが明らかになった。
     被災を受けた建築物は,調査・解析で得られた三次元データから推定した元の形状寸法と現状とを対比することで,被害の詳細状況を知ることができる。さらに,復元復旧の工法判断及び作業に必要な基礎データを提供できる。自然斜面崩壊への適用では,安全および迅速に崩積した土砂及び移動土塊の量を計算によって求めることができた。盛土構造物の場合は,崩壊による地表変位が影響する範囲の特定が可能であることが分かった。今回利用した地上型3Dレーザースキャナは,正確かつ迅速に,被害場所に立ち入ることなく,安全に構造物や地盤の形状を計測することが可能である。この特徴を生かして取得されたデータが,震災箇所の復元・復旧に必要な基礎データになり得ることを示すことができた。
  • 小田 義也, 戸田 雄太朗
    2011 年 64 巻 6 号 p. 445-454
    発行日: 2011年
    公開日: 2016/04/15
    ジャーナル フリー
     2011年3月11日に発生した2011年東北地方太平洋沖地震は,巨大津波の発生を伴い,関東から東北の沿岸部において甚大な津波被害をもたらした。その一方で地震動による被害は地震の規模や震度に対して比較的小さかった。宮城県石巻市桃生町においても地域全体で見ると比較的被害は少なかったが,ごく限られた数カ所で家屋の倒壊など深刻な被害が発生していた。この局所的な被害の原因を探るため,本研究では,桃生町を南北に縦断する東浜街道沿い約3.8キロの範囲において建物の被害調査と常時微動観測を行いそれらの比較を行った。被害調査の結果から各建物の被害程度をAからFまで6段階に分類したところ,310棟のうち被害が深刻なA, Bランクの建物は10棟(約3%)であった。そして,深刻な被害は桃生総合支所周辺の数カ所に限られていた。常時微動観測は調査範囲内の46地点で実施した。微動H/Vの卓越振動数は1Hzから4Hz程度まで幅があったが,被害ランクA, Bの地点では,微動H/Vの卓越振動数が2.5Hz以上であることが明らかになった。今回の地震で観測された加速度記録の多くが1Hz以上の短周期成分の卓越していたことから,2.5Hz以上の卓越振動数を持つ地盤において共振現象による増幅が生じた可能性が高い。ただし,卓越振動数が2.5Hz以上でも被害が小さい場合があるため今後詳細な検討が必要である。
feedback
Top