盛土は安価で施工性に優れているため,道路や河川堤防などに多く用いられている。従来,盛土は年数を重ねるごとに安定性が増すと考えられてきた。しかし,近年では,2005年台風14号による山陽自動車道の盛土崩壊のように,降雨等で既存の盛土が崩壊する事例が報告されている。また,2009年駿河湾沖の地震による東名高速道路の盛土崩壊では,地震前の雨水が,盛土法肩部に存在していた擁壁の背面から抜けきらず,不安定な状態で揺れを受けたことが崩壊の誘引になったという指摘がある。これらのことから,盛土や,盛土に併設された擁壁などにおいては,地盤の健全性を定期的に確認し,必要な対処を講じておく必要があることがわかる。そこで,本研究では,水の影響による地盤の状態変化を非破壊的調査方法により診断する手法を検討した。
まず,地盤のせん断波速度と地盤状態の関係を求めるため,ベンダーエレメントを用いた室内要素試験を行った。この結果,含水比の変化や地盤内の細かい地盤粒子の抜け出しが,地盤のせん断波速度を変化させることを確認した。次に,これらのせん断波速度の変化によって引き起こされる擁壁の固有振動数の変化に着目し,動的FEM解析と実際の擁壁における常時微動計測を行った。解析では,含水比の上昇に伴うせん断波速度の低下が,固有振動数の低下につながる結果であった。しかし,実測では,逆の結果が得られ,固有振動数の計測の実務的な困難性が明らかとなった。
また,盛土については,既往の表面波探査手法の適用を想定し,実際の岸壁および盛土での表面波探査を行った。潮汐を受ける岸壁での計測結果から,地盤内の含水比の状態変化を表面波探査で把握できることが明らかになった。しかし,実際の盛土の計測では,盛土形状の不整形性がせん断波速度の推定結果に悪影響を及ぼすことが確認され,実務的には注意が必要であることが分かった。
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