物理探査
Online ISSN : 1881-4824
Print ISSN : 0912-7984
ISSN-L : 0912-7984
68 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集:建設実務における物理探査技術の利活用(その1)
ケーススタディ
  • 相澤 隆生, 伊東 俊一郎, 青野 泰大, 落合 慶亮, 八鳥 雄介, 中嶋 啓太, 赤澤 正彦
    2015 年 68 巻 2 号 p. 71-81
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     土木分野において,弾性波探査(屈折法地震探査)法は,古くから重要な地質調査法の一つとして広く利用され,特にトンネル建設に関する重要な地質調査技術として適用されてきた。一方で,トンネルが線状構造物である故の難しさも伴い,施工において事前地質調査と施工中の地質状況が相違するケースや,設計支保パターンが施工支保パターンと一致しないケースが以前から認められてきた。これらの要因については,地質調査,地質解釈,設計,施工の各工程の様々な問題を内包しているものと考えられてきた。弾性波探査においても,制約条件や測定上あるいは解析上の適用限界を踏まえて,探査計画の立案や測定作業を行う必要があるが,建設実務で直面する様々な課題に対して,各調査会社の経験や知識・ノウハウによって対応しているのが実状である。そのような背景と近年の調査機器・解析技術の技術革新もあり,(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下,鉄道・運輸機構と称する)と(公社)物理探査学会は平成21年から平成23年度までの間,弾性波探査による調査計画の立案からとりまとめまでの一連の標準的な手順を定めた,「トンネル弾性波探査マニュアル(案)」を作成した。
     本稿では,本マニュアルを実際の業務に適用した事例として,鉄道トンネルを対象とした物理探査業務(九州新幹線,西九州ルート)について報告する。
  • 秦 吉弥, 湊 文博, 山田 雅行, 常田 賢一, 魚谷 真基
    2015 年 68 巻 2 号 p. 83-90
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     本稿では,南海トラフ巨大地震において津波の来襲が懸念されている和歌山県串本町の街地・平地を検討対象地域として選定し,高密度常時微動計測を実施した結果について報告する。具体的には,525地点に及ぶ常時微動計測を行い,H/Vスペクトルのピーク周波数などに着目することで,検討対象地域における地盤震動特性を明らかにした。さらに,常時微動H/Vスペクトルとサイト増幅特性の経験的関係に基づき,微動計測地点(525地点)でのサイト増幅特性をそれぞれ評価することで,砂洲地盤で主に構成される津波来襲地域内でのサイト特性の評価地点ごとに,予測される強震波形を今後将来的にそれぞれ推定していくことの重要性を示した。
  • 岩田 直泰, 津野 靖士
    2015 年 68 巻 2 号 p. 91-100
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     地震発生時において強い地震力が鉄道施設へ作用した場合,鉄道構造物の被害発生や列車の走行安全性の低下が懸念される。このような場合,鉄道事業者は可能な限り早く列車を減速・停止させ安全を確保する。列車停止の後には事前に定められたルールに従い,軌道や構造物などの鉄道施設に変状が生じていないかを目視により確認する。運転の停止や再開の判断には路線に沿ってほぼ一定間隔で設置されている地震計の情報を用いるが,地震観測点以外の地震動を素早く正確に推定できれば上記の安全確認の要否判断や実施範囲の適正化につながり列車停止時間の縮減を図ることも可能となる。
     著者らは,鉄道路線に沿った詳細な地下速度構造と地震動の推定手法を提案している。本研究では,提案手法を旧高千穂鉄道に沿った約600mの盛土区間に適用することを試みた。対象は谷を盛土で渡り,尾根を切通で貫き,再び谷を盛土で渡る区間であり,この盛土,切通,盛土の3地点に地震計を設置して地震観測を行った。地下速度構造と地震動の推定手順は,まず物理探査手法である表面波探査と微動アレイ探査により盛土の地震観測点2地点のS波速度構造を求めた。次に,約20m間隔で測定した単点微動データからH/Vスペクトル比を計算し,地震観測点のS波速度構造に基づきH/Vスペクトル比の卓越周波数を用いて1次元のS波速度構造を求め,それらを水平に連続させることにより路線に沿った2次元的な地下速度構造を推定した。そして,切通地点で観測された地震動の1/2倍が基盤入力地震動に近似すると仮定し,線状に連続して求めたS波速度構造と1次元重複反射理論から路線に沿った地震動を推定した。地盤上における推定地震動と観測地震動はよく一致し,路線に沿った地下速度構造および地震動の推定に対する本手法の有効性を確認した。
技術報告
  • 一井 康二, 河野 真弓
    2015 年 68 巻 2 号 p. 101-117
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     盛土は安価で施工性に優れているため,道路や河川堤防などに多く用いられている。従来,盛土は年数を重ねるごとに安定性が増すと考えられてきた。しかし,近年では,2005年台風14号による山陽自動車道の盛土崩壊のように,降雨等で既存の盛土が崩壊する事例が報告されている。また,2009年駿河湾沖の地震による東名高速道路の盛土崩壊では,地震前の雨水が,盛土法肩部に存在していた擁壁の背面から抜けきらず,不安定な状態で揺れを受けたことが崩壊の誘引になったという指摘がある。これらのことから,盛土や,盛土に併設された擁壁などにおいては,地盤の健全性を定期的に確認し,必要な対処を講じておく必要があることがわかる。そこで,本研究では,水の影響による地盤の状態変化を非破壊的調査方法により診断する手法を検討した。
     まず,地盤のせん断波速度と地盤状態の関係を求めるため,ベンダーエレメントを用いた室内要素試験を行った。この結果,含水比の変化や地盤内の細かい地盤粒子の抜け出しが,地盤のせん断波速度を変化させることを確認した。次に,これらのせん断波速度の変化によって引き起こされる擁壁の固有振動数の変化に着目し,動的FEM解析と実際の擁壁における常時微動計測を行った。解析では,含水比の上昇に伴うせん断波速度の低下が,固有振動数の低下につながる結果であった。しかし,実測では,逆の結果が得られ,固有振動数の計測の実務的な困難性が明らかとなった。
     また,盛土については,既往の表面波探査手法の適用を想定し,実際の岸壁および盛土での表面波探査を行った。潮汐を受ける岸壁での計測結果から,地盤内の含水比の状態変化を表面波探査で把握できることが明らかになった。しかし,実際の盛土の計測では,盛土形状の不整形性がせん断波速度の推定結果に悪影響を及ぼすことが確認され,実務的には注意が必要であることが分かった。
  • 山田 雅行, 八木 悟, 長尾 毅, 野津 厚
    2015 年 68 巻 2 号 p. 119-129
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     常時微動H/Vスペクトル比に対して,フィルタ操作によるスムージングを適用することで,ピーク周波数を効率的に読み取る方法を提案し,地盤の地震応答特性を考える上で重要となる,卓越周波数と考えられるピークを検出できることを示した。ウインドウ処理によるスムージングを用いた場合との比較を行い,低周波数帯域におけるピークの検出やピーク値の小さいものに対する対応において有利であることを示した。関東地方における既往の常時微動H/Vスペクトル比に対して提案法を適用し,目視による既往の読み取り値とよく一致することを示した。提案法は大量で高密度の微動観測結果に適用できる有効な方法であると考えられる。
論文
  • 窪田 健二, 鈴木 浩一, 海江田 秀志, 山本 隆喜, 山口 伸治, 藤光 康宏
    2015 年 68 巻 2 号 p. 131-147
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     地中送電線路の設計において,ケーブルサイズ選定のための送電容量の計算に重要な土壌の固有熱抵抗をより簡易に低コストで調査できる手法が必要とされている。土壌の固有熱抵抗及び比抵抗は,水飽和度や間隙率といった同じパラメータに応じて変動することから,両者の間に相関性を持つことが示唆され,地表からの物理探査により得られる物性値から固有熱抵抗を間接的に導出できる可能性がある。そこで,固有熱抵抗と比抵抗を測定する室内試験を実施し,両者の相関性を評価することで,比抵抗から固有熱抵抗を求める可能性について検討した。その結果,固有熱抵抗は水飽和度や間隙率とともに,土壌を構成する土粒子の固有熱抵抗に応じて変化しており,既往の実験式であるヨハンセンの式を用いた計算値が室内試験とほぼ同じ値を得られることが明らかとなった。また,比抵抗は水飽和度や間隙率,間隙水の比抵抗などといったパラメータに応じて変化し,アーチーの式と整合した傾向であった。そして,両式を組み合わせることで比抵抗から固有熱抵抗を求める手法を提案した。室内試験結果を用いた検証の結果,比抵抗の測定値から求めた固有熱抵抗は室内試験結果とほぼ一致した値が得られた。以上より,電気探査により得られる比抵抗値を用いて固有熱抵抗値を推定できる可能性が示された。
英文誌要約
  • 物理探査学会会誌編集委員会
    2015 年 68 巻 2 号 p. 149-155
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     英文誌「Exploration Geophysics」の内容を広く会員に紹介するために,掲載論文の要旨の翻訳を本誌に掲載する。今回は,英文誌のVol. 46 No. 1の要旨を紹介する。今回は,南アフリカ共和国で昨年開催された空中電磁探査に関する国際学会(AEM2013)の特集となっており,15編の空中電磁法探査関係の論文が掲載されている。
     要旨の翻訳は会誌編集委員会にて実施した。興味をもたれた論文に関しては,是非とも電子出版されたオリジナル版をチェックいただきたい。なお,英文誌に掲載された論文は,本学会のホームページ経由で閲覧可能である。具体的には,本学会トップページ右側のバナー一覧のうち「Exploration Geophysics download site」を選択し,ウエブページ上の指示に従い,会員認証後PDFダウンロード可能となる。
     なお,会誌「物理探査」の特集「2011年東北地方太平洋沖地震と物理探査(仮)」にあわせて,英文誌「Exploration Geophysics」でも同じテーマで特集をおこなうことが決定された。ふるってご投稿いただきたい。
feedback
Top