二酸化炭素 (CO
2) 地中貯留 (Carbon Capture and Storage: CCS) では,地下深部の多孔質砂岩を母岩とする帯水層が最大の貯留ポテンシャルを持つ。貯留層の温度・圧力条件を室内で再現し,多孔質砂岩試料を用いて岩石中のCO
2と塩水間の置換メカニズムと置換時の物性変化を調べる実験は,貯留層中のCO
2の移動とトラッピングのメカニズムを知る手がかりを与える。本解説では,高解像度X線CT装置を用いた実験から明らかになった砂岩中のCO
2と塩水間の置換メカニズムを議論し,引き続く解説で置換時の地震波速度変化のメカニズムを議論する。多孔質砂岩中のCO
2塩水間の置換流動はキャピラリー圧に支配されており,実験結果はキャピラリー圧の影響を考慮して解釈される。さらに岩石中の空隙分布の不均質から貯留層周辺の地質構造に到るまでの,ミクロスケールからマクロスケールの不均質もCO
2の流動とトラップに影響する。キャピラリー圧と貯留層の岩石学・堆積学的調査で明らかになった不均質性をもとに実験結果を解釈し,次に列記する知見を得た。1. 岩石内部ではmmスケールで孔隙の分布様態が変動し,この種の不均質がCO
2流路の偏在を引き起こす。2. CO
2と塩水の2相が同時に流動する場合,CO
2の移動とトラッピングは岩石中の孔隙分布の異方性と流動方向相互の関係に依存する。3. これらの現象は岩石内部のキャピラリー圧が場所により異なるためである。4. CO
2は孔隙中でクラスターを形成し,クラスターの大きさが移動とトラップを支配する。5. CO
2クラスターはCO
2注入時には大きく塩水注入時は小さくなる。6. 野外の貯留層にはスケールの異なる各種の不均質が存在しCO
2の移動とトラッピングに影響を与える。7. 貯留層とその周辺に割れ目や巨大な孔隙の連なるチャネルの存在が想定され,ここでのCO
2の流動にはキャピラリー圧は影響しない。
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