物理探査
Online ISSN : 1881-4824
Print ISSN : 0912-7984
ISSN-L : 0912-7984
69 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
論文
  • 水永 秀樹
    2016 年 69 巻 2 号 p. 87-101
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     空中重力偏差データの解析では,既知の密度構造から重力偏差異常を予測する精度の良いシミュレーションと共に,観測データから地下構造を推定する逆解析(インバージョン)が必要である。本論文では,複雑な形状をした密度異常体にも柔軟に対応できる新しいシミュレーション手法と,最小二乗法に基づかない新しいインバージョン手法を提案した。
     これまでの3次元の重力異常の計算は,直方体や角柱による重力計算を基本とした方法が中心である。しかし,このような手法で複雑な3次元形状をした密度異常体や地形を再現するためには,密度異常体や地形を細かいブロック領域に分割して計算する必要がある。例えば傾斜したダイクをシミュレートする場合,従来の方法では直方体ブロックを重ねた階段状のモデルで近似するしか方法がなく,滑らかな傾斜面を再現することは難しい。また,直方体ブロックによる密度異常体の粗い近似では,計算精度の低下が懸念される。この問題を解決するため,本研究では,少ない領域分割で複雑な密度異常体や滑らかな地形を再現できる,六面体要素を用いた新しい重力偏差計算手法を提案した。この手法をシミュレーションプログラムに実装した結果,鉛直方向の重力偏差分布から地下の密度異常体の境界を推定できることがわかった。また,水平方向の重力偏差を用いることで,その方向に密度変化する密度異常だけを選択的に抽出することも可能であることがわかった。飛行高度を変えた空中重力偏差のシミュレーションでは,飛行高度の影響は重力偏差異常のピーク値には大きな影響は与えるが,全体の分布形状に与える影響は小さいこともわかった。さらに,直方体の1つの垂直面を傾斜させたモデルを用いたシミュレーションでは,重力偏差の分布形状から傾斜面の角度が定量的に推定できる可能性があることもわかった。
     本論文で提案した重力偏差データのインバージョン手法は,最小二乗法に基づかない相関トモグラフィという新しい手法である。相関トモグラフィでは,通常のインバージョンのように密度分布を求めることはできないが,相対的な密度分布を反映した相関係数を高速に計算することができる。本論文では,正負の密度差を持つ2つの密度異常体が存在する場合のトモグラフィ結果を示し,正の密度異常体周辺には正の相関係数、負の密度異常体周辺には負の相関係数が現れることを確かめた。さらに、両方の密度異常体の中心部に大きな相関係数を持つ局所的な異常域が現れることもわかった。このように相関トモグラフィによる重力偏差データの解析は,3次元の重力偏差インバージョンの前段階としての簡易解析や,3次元インバージョンの補助的な解析手法としての利用が期待できる。
ケーススタディ
  • 鈴木 浩一, 田中 姿郎, 窪田 健二, 末永 弘, 吉武 宏晃, 三宮 明, 東 健一
    2016 年 69 巻 2 号 p. 103-116
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     近年,地球温暖化に伴う大型台風や局地的な集中豪雨による自然災害が激甚化する中で,将来地すべりを起こす可能性のある斜面を効率的かつ的確に維持管理する必要性が高まっている。特に,大規模な地すべりが発生する可能性のある斜面においては,集中豪雨時の斜面全体の地下水挙動を評価する必要があり,長期間雨水の浸透状況をモニタリングできる手法を確立することが重要である。筆者らは,地すべり斜面における雨水の浸透状況をモニタリングすることを目的に,長期間の測定を遠隔で操作できる電気探査システムを構築し,2か所の斜面地点において数年間の測定を行った。その結果,50~100mmの降雨に伴い測定された比抵抗の変化より,降雨中は表層数mにある堆積物中に比較的速やかに雨水が浸透し,降雨後は緩やかに乾燥していく状況を把握できた。また,その下部には雨水が緩やかに浸透していくことが推定できた。一方,2地点とも野生動物や落石によるケーブルの切断,落雷による装置の故障など様々なトラブルが頻繁に発生したため,実質は50~60日間しか測定できなかった。また,数100mm以上の大量の降雨を観測した時期には測定ができなかった。これらの最大の要因は,両地点とも豪雨時の落雷から測定装置を保護できなったことにある。今後は保護回路を2重,3重に組み込むなどの対策を施し,測定装置を落雷から保護して測定の継続性を向上させる必要がある。
技術報告
  • 高倉 伸一
    2016 年 69 巻 2 号 p. 117-126
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     比抵抗法電気探査は多くの分野の調査に用いられている物理探査法である。岩石や土壌が示す比抵抗の範囲が広いことに加え,岩石や土壌の性質の違いが比抵抗に反映されるので,電気探査は地層や岩盤の識別に役立つ。比抵抗が高い場所では,電流を流すためには高い電圧をかけられ,入力インピーダンスが高い電気探査装置が必要となる。一方,比抵抗が低い場所では,大電流を流すことができる装置が必要となる。そこで,種々の調査地の特性や探査の目的に対応できるいくつかの多チャンネル電気探査装置の設計・開発を行ってきた。高比抵抗地域では高電圧・低電流の装置を,低比抵抗地域では低電圧・高電流の装置を使用した。また,深部比抵抗構造のモニタリングでは,高出力の多チャンネル電気探査装置を適用した。その結果,適切な装置を用いることで,電気探査データを効率的に取得でき,精度の高い比抵抗構造が求まることが確認された。
解説
  • 西澤 修, 張 毅, 伊藤 拓馬, 薛 自求, 小暮 哲也, 木山 保
    2016 年 69 巻 2 号 p. 127-147
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     二酸化炭素 (CO2) 地中貯留 (Carbon Capture and Storage: CCS) では,地下深部の多孔質砂岩を母岩とする帯水層が最大の貯留ポテンシャルを持つ。貯留層の温度・圧力条件を室内で再現し,多孔質砂岩試料を用いて岩石中のCO2と塩水間の置換メカニズムと置換時の物性変化を調べる実験は,貯留層中のCO2の移動とトラッピングのメカニズムを知る手がかりを与える。本解説では,高解像度X線CT装置を用いた実験から明らかになった砂岩中のCO2と塩水間の置換メカニズムを議論し,引き続く解説で置換時の地震波速度変化のメカニズムを議論する。多孔質砂岩中のCO2塩水間の置換流動はキャピラリー圧に支配されており,実験結果はキャピラリー圧の影響を考慮して解釈される。さらに岩石中の空隙分布の不均質から貯留層周辺の地質構造に到るまでの,ミクロスケールからマクロスケールの不均質もCO2の流動とトラップに影響する。キャピラリー圧と貯留層の岩石学・堆積学的調査で明らかになった不均質性をもとに実験結果を解釈し,次に列記する知見を得た。1. 岩石内部ではmmスケールで孔隙の分布様態が変動し,この種の不均質がCO2流路の偏在を引き起こす。2. CO2と塩水の2相が同時に流動する場合,CO2の移動とトラッピングは岩石中の孔隙分布の異方性と流動方向相互の関係に依存する。3. これらの現象は岩石内部のキャピラリー圧が場所により異なるためである。4. CO2は孔隙中でクラスターを形成し,クラスターの大きさが移動とトラップを支配する。5. CO2クラスターはCO2注入時には大きく塩水注入時は小さくなる。6. 野外の貯留層にはスケールの異なる各種の不均質が存在しCO2の移動とトラッピングに影響を与える。7. 貯留層とその周辺に割れ目や巨大な孔隙の連なるチャネルの存在が想定され,ここでのCO2の流動にはキャピラリー圧は影響しない。
英文誌要約
  • 物理探査学会会誌編集委員会
    2016 年 69 巻 2 号 p. 149-152
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/02
    ジャーナル フリー
     英文誌「Exploration Geophysics」の内容を広く会員に紹介するために,掲載論文の要旨の翻訳を本誌に掲載する。今回は,英文誌のVol. 47 No. 1の要旨を紹介する。
     要旨の翻訳は,著者による原著版と記載されている論文以外は,会誌編集委員会にて実施した。興味をもたれた論文に関しては,是非とも電子出版されたオリジナル版をチェックいただきたい。なお,英文誌に掲載された論文は,本学会のホームページ経由で閲覧可能である。具体的には,本学会トップページ右側のバナー一覧のうち「Exploration Geophysics download site」を選択し,ウエブページ上の指示に従い,会員認証後PDFダウンロード可能となる。
feedback
Top