薬液注入の浸透過程を監視できれば,注入圧,注入量を適宜に変更でき,地盤改良の品質向上を期待できる。比抵抗トモグラフィはこれを実現するための有力な手法である。しかし,同法における従来の解析法は時間ステップでの計測データを個別に解いて比抵抗分布を推定するものであり,注入途中すなわち測定中の比抵抗分布の変化を考慮できないために常時の監視は困難であった。そこで本研究では,これを考慮できるような新しい解析法を検討した。具体的には,①注入中の全時間ステップを一体の観測方程式で解き,②求めるパラメータを比抵抗の時間変化量とし,③1つの時間ステップの中での測定時刻の違いを考慮して計算するという,3つの点を考慮した。
上記3点より構成される提案解析法の性能を検証するために,塩水の注入を模擬した数値実験を行い,濃度分布の経時変化および比抵抗トモグラフィのための入力データを順解析により取得した。さらに,別途実施した室内要素実験から定めた塩水濃度と比抵抗の関係を用いて,数値実験における比抵抗分布の経時変化を求めた。この分布を正解とし,上記入力データについて,従来解析法と提案解析法の両方で逆解析を行ったところ,提案解析法は従来解析法よりも正解に近い結果となり,高い精度を期待できることが明らかになった。次に,提案解析法の上記3つの特徴について3つ全てが揃って初めて有効に機能することを確認した。さらに,従来解析法だけでなく,カルマンフィルタ等の時系列問題に特化した既往の解析法とも性能比較を行った結果,提案解析法は最も高精度となる可能性の高い解析法であることが分かった。最後にそれまでの議論を踏まえたリアルタイムモニタリングの実用上の手順を示した。本研究により,薬液注入途中における薬液浸透範囲の把握が可能となり,補足注入の必要な位置を施工中に明確化できるとともに,次ステップの注入仕様を合理化でき,改良性能の向上とコストダウンを期待できることが示された。
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