物理探査
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73 巻
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特集「海底熱水鉱床探査に向けて」
  • 笠谷 貴史
    2020 年 73 巻 p. 1-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    2008年に始まった文部科学省による「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」(2011年度に「海洋資源利用促進技術開発プログラム」へと名称を変更,以下,基盤ツール)を契機に,日本国内における探査技術の開発が始まった。物理探査誌でも2011年の64巻4号において,基盤ツール等で開発中であった探査手法に関する特集「海底熱水鉱床探査の未来」が組まれ,会員の皆さまに当時の最新の開発動向を紹介した。2014年度からは内閣府戦略的イノベーションプログラムによる次世代海洋資源調査技術「海のジパング計画」(以下,「海のジパング計画」)が始まり,熱水鉱床のみならず,コバルトリッチクラストやレアアース泥など,様々な海洋金属資源に関する成因研究が始まると共に,様々な探査技術の開発も並行して行われた。「海のジパング計画」における探査技術開発では,大学や研究機関による研究開発のみならず,それらの技術移転あるいは民間企業が主導する技術開発が行われると共に,実海域において民間企業による調査航海が行われたことが大きな特徴であり,それらの技術的な成果は「海底熱水鉱床調査技術プロトコル」としてまとめられた。また,環境を持続的に利用するため,近年では海底資源開発に関する海底環境への影響を評価することが非常に重要になってきたため,環境影響評価に関する調査手法・評価技術の構築も課題の一つとなった。この「海のジパング計画」は2018年度で終了し,探査技術の開発の一つの大きな区切りを迎えた。

    物理探査学会会誌編集委員会では,「海のジパング計画」で大きく進展した熱水鉱床に関する物理探査技術を用いた探査事例や,海洋資源開発を取り巻く状況を会員の皆さまにいち早くお届けするため,特集「海底熱水鉱床探査に向けて」を企画した。本特集は,熱水鉱床探査に関わる広い範囲をカバーする7編からなり,そのうち2編はこれからの物理探査・資源開発と切り離して考えることが出来ない環境影響評価に関するものとなっている。

    簡単に本特集の紹介をしたい。中核となる探査技術に関しては,民間企業が中心となって進められた音波探査(多良ほか),電気・自然電位探査(久保田ほか),重力探査(押田ほか)の3編で,熱水域で実施された最新の興味深い観測・解析事例が紹介されている。北田ほかでは,地球深部探査船「ちきゅう」の掘削航海時に実施された高温高圧下での孔内検層技術にチャレンジングな事例について述べている。環境影響評価については,海底での資源開発と環境影響評価に関する論説(山本ほか)と,実際の調査業務に関しての技術動向についてまとめた技術報告(後藤ほか)の2編があり,これらにまとめられた環境影響評価の必要性や技術動向は,本学会の会員に大いに参考になると思われる。そのほか,「海のジパング計画」で作成された「海底熱水鉱床調査技術プロトコル」に則って概査から準精査に至る技術検証とAUVの活用に関するケーススタディ(笠谷ほか),探査技術の進展による科学的成果を中心とした解説(石橋・浦辺)も掲載されている。

    本特集の著者の皆さまからは,スケジュールの厳しい中,技術開発・研究の最新の成果についてご寄稿いただき,会誌編集委員会からお礼申し上げたい。今回の特集は,気軽に読んでいただけるよう,技術報告やケーススタディ,解説を中心とした構成となっている。本特集が,海洋における物理探査技術の活躍する場を大きく広げ,今後のさらなる技術開発の方向性を考える契機となれば幸いである。

論説
  • 山本 啓之
    2020 年 73 巻 p. 53-63
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    人間社会は様々な産業において海洋を利用してきたが,顕著な環境変動が広がり,海洋生態系がもつ復元力の許容限界を越えようとしている。海洋環境を持続的に利用するためには,現状を知るための調査観測と人間活動による環境への影響を的確に評価し,適切に管理するための計画と運用体制が必要である。環境影響評価および環境モニタリングはその要となる技術である。生物群集と生態系は,構成要素が多様かつ複雑に連携しながら環境条件に応じた地域特性を維持している。格段に進歩した分子遺伝学の知識,進歩したシークエンス技術やメタゲノム解析の手法,また,カメラのデジタル化と解像度の向上および小型化などは,それまで試料採取と観察記載に重きをおいてきた生物・微生物の調査とモニタリングの様相を大きく転換した。より優れた機器と手法の導入は,適切な環境管理の運用と持続的な海洋環境と資源の利用を牽引する。同時に,導入する手法の基礎となる原理と技術を理解し,過去に収集したデータおよび評価基準との整合性を取ることが,一貫した環境管理と持続性の維持には不可欠である。

解説
  • 石橋 純一郎, 浦辺 徹郎
    2020 年 73 巻 p. 74-82
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    金属資源の消費量が増加の一途をたどる中,将来の資源を海洋底に求めようとする動きが高まっている。海底熱水鉱床は,熱水が海底下を循環するシステムの作用で,亜鉛,鉛,銅などの硫化鉱物が沈殿して形成されるもので,鉱石中の金属濃集度が高いことから注目されている。我が国の大陸棚海域には,海底熱水系を伴う海底火山がこれまでにも数多く確認されており,金属資源のポテンシャルが高いことが期待できる。海底鉱物資源を系統的に調査(探査)する技術を開発することを主な目的として「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」が戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題の1つとして2014年から5年間実施された。複数の海洋物理探査手法を組み合わせて概査,準精査,精査と段階を追って効率的に調査海域を絞り込んでいく統合海洋資源調査システムの構築と,こうした海洋資源調査の手順を体系化した海底熱水鉱床調査技術プロトコルの策定が行われた。これらを活用して民間企業連合体が主体となった実海域での調査を行い,海底下鉱化帯の発見につなげることができた。科学的研究としては,地球深部探査船「ちきゅう」を用いた掘削調査航海が3回にわたり実施された。海底下から得られた堆積物試料や掘削に前後して行われた検層データの解析によって,沖縄トラフの熱水域においては硫化鉱物の産状が堆積作用に規制されているように見えること,鉱化帯を囲むように分布する熱水変質作用を被った堆積物層において間隙率や比抵抗などの物性が特異的になること,が確認された。また掘削で得られた試料を,かつて稼動していた黒鉱型鉱床の鉱山から得られた掘削試料と直接比較することもできるようになった。海洋洋物理探査技術の進歩は,海洋鉱物資源探査の効率化という点で重要であるだけでなく,より広範囲の地質学的情報を提供することにより海底熱水鉱床の地球科学的理解に貢献することも期待される。

論文
  • 多良 賢二, 加藤 政史, 淺川 栄一, 芦 寿一郎
    2020 年 73 巻 p. 14-22
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    日本周辺海域では,海底熱水鉱床やコバルトリッチクラスト,マンガン団塊といった海洋鉱物資源が発見されてきた。著者らは,深海の海洋鉱物資源探査を目的とした新たな調査ツールの開発や効率的な探査システムの検討を行ってきた。2018年には未調査の熱水活動域を対象とした統合調査が実施された。本論文では掘削サンプリングを含む統合調査の一環として実施した深海曳航型ハイドロフォンケーブルを用いた音波探査によって取得した,高分解能海底下イメージについて述べる。本システムの空間分解能(水平および垂直)はメートルオーダーである。音波探査記録から熱水の流路となる断層や裂かといった断裂構造を特定しその分布を示した。また,掘削調査結果と照らし合わせることによって,過去に熱水性硫化鉱物が堆積していた層準を特定した。本研究の調査海域は表層堆積物中の裂かの分布から現在も断層活動が継続していると考えられるが,海底面に断層の存在を示唆する地形は認められなかった。また,本海域は堆積速度の早い環境であることが示唆された。よって,調査海域は硫化鉱物を堆積させる熱水活動はあるが早い堆積速度によって大規模な熱水鉱床へ発達しにくい環境であることが示唆された。以上のように,高分解能音波探査によって掘削サンプリングだけでは把握しづらい熱水活動と硫化鉱物を含んだ海底堆積物との関係性の解明に資する情報が得られることが示された。

ケーススタディ
  • 笠谷 貴史, 金子 純二, 岩本 久則
    2020 年 73 巻 p. 42-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一つとして,次世代海洋資源調査技術「海のジパング計画」が2014年にスタートした。このプログラムのもと,概査から精査に至る調査手法に関して「海底熱水鉱床調査技術プロトコル」が策定され,このプロトコルの概査から準精査までの一部の調査過程を実証するための調査航海を行った。実証航海前に概査として取得したデータをもとに設定した海域において,準精査に相当する調査を行った。まず,船舶装備のMBESによる稠密観測で約10 m解像度の海底地形データ,後方散乱強度および水中音響のデータを取得し,AUVの潜航調査を行う領域をさらに絞り込んだ。4つの領域で取得したAUVによる自然電位探査データから,明瞭な負の自然電位異常を示す領域を検出した。また,AUVのMBESで取得されたデータにより,マウンド群と熱水プルームの位置も明らかになった。しかしながら,負の自然電位異常域にマウンド群は認められるが,最も負の異常の大きい領域と熱水プルームが集中する位置とは必ずしも一致しなかった。このことは負の自然電位異常が海中の異常などによるものではなく,海底下の構造に関連する異常をとらえていることを強く示唆する。既知鉱床での観測結果から負の自然電位異常と地下の鉱体との強い関係が指摘されているが,今回の異常域が鉱体と関連するかは今後の比抵抗やコア試料の分析結果を待つ必要がある。しかしながら,新しい熱水域と地下構造に起因するデータを得ることができたことで,調査プロトコルの実証を行う事ができたと考えられる。特に,船舶装備のMBESを最大限に活かす調査により,AUV潜航を効率的に行えたことも極めて重要な成果である。また,AUVの観測ではMBESなどの一般的な観測だけでなく,同時に地下構造探査である自然電位観測も同時に行う事ができた。これらの結果から,今回の調査手法が熱水鉱床探査において効率的にデータ取得が行える観測形態である事が示され,今回得られた航海・観測の知見は,今後の未知の熱水鉱床探査において重要な指針を示すものであると考えられる。

技術報告
  • 久保田 隆二, 石川 秀浩, 岡田 力, 松田 健也, 金井 豊
    2020 年 73 巻 p. 3-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    海洋調査協会は,海底熱水鉱床調査の一環として,深海曳航式電気探査システムを民間船でも運用できるように改良し,実証海域として海底熱水鉱床の存在が明らかとなっている中部沖縄トラフの「Hakureiサイト」および「ごんどうサイト」で調査を実施した。いずれのサイトでも自然電位に由来すると思われる明瞭な水平電場の空間変化が観測された。水平電場を空間積分すれば電位になるが,実際には曳航時の動揺ノイズや電極の非線形なドリフトが重なることから,その積分は容易ではない。また水平電場は,進行方向によって空間的極性が変化する。そこで本研究では,自然電位と同様な極性を持つ擬似鉛直電場を水平電場から求める方法を提案し,実際に擬似鉛直電場のマッピングを行った。一方,比抵抗探査のための信号処理においては,自然電位由来の長周期信号を除去した後の記録から,簡便な方法で短周期の動揺ノイズを取り除く方法を示し,それを比抵抗解析に適用した。その結果擬似鉛直電場の負の異常域では,海底下の比抵抗が海水の値よりも低くなる傾向が示された。両サイトでは同時にボーリング調査が行われたが,擬似鉛直電場の負異常を示すところは,量の多少はあるがほぼ硫化物層の存在に対応していることが確かめられた。このことから本手法が,海底熱水鉱床の分布域を絞り込むのに極めて有効であることが実証された。

  • 押田 淳, 立花 冬威, 角 知則, 久保田 隆二
    2020 年 73 巻 p. 23-32
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    海底重力測定には海域で陸上と同等精度の重力データが得られるというだけでなく,探査対象に接近して測定を行えることから,船上重力測定では得られない振幅が大きく明瞭な重力異常か観測可能という特徴がある。今回,これらの特徴を最大限活用できる海域活断層調査や海底熱水鉱床などの海底資源探査のニーズに対応するために,深海でも使用可能な海底重力計(OBG-3)を開発した。SIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の一環として、中部沖縄トラフの「Hakureiサイト」においてOBG-3による海底重力調査が行われた。その結果,「Hakureiサイト」における重力異常は,掘削船「ちきゅう」による海底掘削で確認された海底熱水鉱床賦存範囲と調和的な2次元密度構造モデルにより矛盾なく説明できることが分かった。また,SIP研究航海では効率的かつ安全にOBG-3を着底させるために,SIPで開発したROV曳航型探査システムが使用された。この結果,100 mの測点間移動時間を含む1点当たりの調査時間は約30分まで短縮され,海底重力調査の課題であった効率化にも解決の目処がたった。

  • 北田 数也, 真田 佳典, 山田 泰広, 野崎 達生, 熊谷 英憲, 丸田 将弘, 佐藤 寛
    2020 年 73 巻 p. 33-41
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    地球深部探査船「ちきゅう」による掘削航海(CK16-05航海)において,陸上地熱探査用メモリー式検層ツールを用いた掘削ビット通過検層方式の自然ガンマ線検層を新たに適用することにより,掘削調査における物理検層のさらなる低コスト化・高効率化を試みた。本目的を達成するため,事前に実施したCK16-01航海での経験に基づき検層ツールの強度および船上作業方法を再検討し,検層ツールへの振動・衝撃対策を行った。その結果,中部沖縄トラフ伊是名海穴の5サイトにおいて,孔内の自然ガンマ線強度,温度,圧力の良好な連続データを取得することに成功し,掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)に比べて大幅に(1桁程度)低コストで簡便な海底熱水鉱床探査を実現した。熱水鉱床域の3サイトでは,軽石層,半遠洋性堆積物層,硫化物層,珪化岩やカリウムに富んだ変質粘土層などの岩相変化に伴って,ガンマ線強度が変化を示した。一方,岩相(軽石層)にほとんど変化が見られず鉱化作用が及んでいない2サイトでは,ガンマ線強度と密度および間隙率には良好な相関関係があることが明らかとなった。以上から,コア試料の高回収率を達成することが困難な海底熱水活動域の掘削調査においても,本方式のガンマ線検層が海底下の鉱体位置・厚さの特定や地層ユニットの分類に効果的であることがわかった。今後,新たな計測項目(例えば,比抵抗など)の追加を実現できれば,掘削ビット通過検層方式を用いた物理検層のさらなる活用が期待される。

  • 後藤 浩一, 福原 達雄, 近藤 俊祐, 高島 創太郎, 古島 靖夫, 山本 啓之
    2020 年 73 巻 p. 64-73
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/04
    ジャーナル フリー

    海底熱水鉱床開発に伴う環境影響評価についての法制度や標準的手法については、国際的にも議論が続いている。一方で深海での現場観測は多大な経費を必要とするが,商業レベルではいかにしてデータ品質を落とすことなく経済性・効率性を兼ね備えた調査観測を実施できるのかを求められている。SIP次世代海洋資源調査技術プロジェクト(以下,SIPプロジェクト)では,最新の調査技術と研究成果を導入した実用的な手法開発および経済性・効率性を兼ね備えた戦略的な評価手順の構築を目指した。深海生物群集を解析する手法として,微小生物(メイオファウナ)を対象とした画像解析による迅速検査法を開発し,遺伝子情報との組み合わせによる統合解析を検討した。海底での長期観測技術として、国内メーカーが深海底における長期モニタリング用機器として開発した「江戸っ子1号」による海底近傍の長期観測を実用化に取り組んだ。SIPプロジェクトで製作されたホバリング型AUV「ほばりん」による海底マッピング調査を行い,海底の詳細地形や中型~大型生物の生息状況といった環境情報を効率的に取得した。開発に伴う濁質水の拡散を精度よく予測するための基礎データとして重要な乱流観測に取り組み,深海乱流の直接計測のプロトコルを作成した。SIPプロジェクトではこれらの新たな知見に基づいた技術開発と手法改良を進めたが,さらに資源探査の段階から効率的に事前調査を実施する環境影響評価のプロトコルを考案した。これは近年環境省が推奨している「戦略的環境アセスメント」の考え方を適用した技術で,開発の早い段階から環境の状況を解析することで,より戦略的に,海域条件を考慮した鉱区設定および適切な環境保全と影響緩和策の立案ができると考えている。今後においては,SIPプロジェクトでの成果と経験が民間企業に実装されることが,国際競争力のある海洋産業の発展につながると考える。

特集「日本の物理探鉱(探査)100周年記念」
  • 千葉 昭彦
    2020 年 73 巻 p. 225-226
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    現在の公益社団法人物理探査学会が1948年5月に物理探鑛技術協会として創立されたことは学会のウェッブサイト等で確かめることができる。では,国内で初めて実施された物理探査は?となると簡単には答えられない。学会としての公式見解は会誌「物理探鑛」第1巻第1号に掲載された「本邦に於ける物理探鑛の回顧と展望」(編輯委員会,1948)の「仰々本邦に於ける物理探鑛の始まりは,大正8年(1919)年7月に京大工學部の山田賀一助教授がターレン・ティーベルグ式磁力計に拠り兵庫県宍粟郡高野鑛山に於ける磁鉄鉱探査を以て嚆矢として」である。この見解に基づくと2019年は日本の物理探鉱(探査)100周年という記念すべき年である。しかしながら,当学会では創立以来,5周年毎に記念行事を行い,2023年には創立75周年記念行事を行うべく準備が進んでいるにもかかわらず,日本の物理探鉱(探査)100周年のことまでは意識されていなかった。何事にも100年の歴史があることは重要であり,当学会の名誉会員で会長を務められたこともある佐々宏一京都大学名誉教授からの話題提供を契機に,2019年6月に開催した第140回(2019年春季)学術講演会中に日本の物理探鉱(探査)100周年記念行事を一般の皆様も無料で参加できる市民講座として開催した。この記念行事は100周年にちなみ,佐々名誉教授による総論の基調講演を皮切りに,国内における磁気探査,電気探査,電磁探査および地震探査の歴史に関する記念講演と,現代社会における物理探査をはじめとする地球科学の貢献をテーマした特別講演から構成された。国内にこだわらない各探査法の歴史は1998年に出版され,2016年の増補改訂された当学会の物理探査ハンドブックに手法ごとに章を設けて記述されているものの,国内における各探査法の歴史に焦点に当てたものはほとんどなく,記念講演の中から佐々名誉教授に総論,大熊茂雄会長(当時)に磁気探査および太田陽一元石油技術協会長に地震探査について論説としてまとめて頂き,本特集号とすることになった。

    各執筆者が文献を丁寧に調べた結果,日本国内で最初に実施された物理探査は学会の公式見解よりも古く,佐々名誉教授は大正4年(1915年)に当時日本が占領統治していたマーシャル諸島のジャルート環礁で実施された重力偏差法探査(Matsuyama,1918)としている。一方,大熊会長は,自身が所属する工業技術院地質調査所創立100周年記念出版物から辿って,明治24年(1891年)に地質調査所の関野修蔵氏が釜石鉱山で行った磁気探鑛が最初である(佐藤,1985)としている。同論説で紹介されている明治13年(1880年)~14年(1881年)に実施された磁気測量も物理探査としてみなしてもよいかもしれない。いずれにしろ,最初に適用された物理探査は公式見解よりも古いと考えられ,残念ながら2019年が100周年ではなかった可能性がある。しかしながら,この記念講演をきっかけに日本における物理探査の歴史が明らかになり,創成期の物理探査と実施した技術者の苦労を垣間見ることができたことは物理探査学会と学会員にとって大きな意義がある。75周年事業として進行中の物理探査ハンドブックの全面改訂では各物理探査手法の歴史が割愛される可能性もあり,本特集が今後行われる学会創立記念行事でも貴重な資料になり得ると信ずる。

    最後に,特集号に寄稿して頂いた執筆者をはじめとする記念講演者の方々,特集号発刊にご尽力頂いた会誌編集委員会および査読者各位,学術講演委員会をはじめとする記念行事開催に携わった方々に対し厚く御礼申し上げる。

論説
  • 佐々 宏一
    2020 年 73 巻 p. 227-235
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    日本の研究者が実施した最初の物理探査は1915年にマーシャル諸島で京都帝国大学理学部の松山基範がエトベス重力偏差計を用いて実施した重力探査であり,その探査目的はサンゴ礁の下の岩盤面の深さである。内地で最初に実施された物理探査は1919年に京都帝国大学工学部の山田賀一がターレンティベルグ磁力計を用いて兵庫県宍粟郡高野鉱山で実施した磁気探査である。電気探査は1924年に九州帝国大学工学部の小田二三男が実施した自然電位法探査であるが,詳細は明らかでは無い。論文として最初に公表された電気探査は翌年の1925年に京都帝国大学工学部の藤田義象がSchlumberger式探鉱機を用いて柵原鉱山等で実施した自然電位法である。最初の地震探査は1931年に山形県梵字川上流渓谷で水力発電所用の堰堤建設予定地点の川底砂礫層の厚さを求るために東京帝国大学理学部の波江野清蔵が実施した屈折法探査である。

    我が国で作成された最初の地震波動の数値シミュレーションを行い得るプログラムは,筆者が京都大学工学部に在職中に作成し,Days2-Codeと名付けたプログラムである。本州四国連絡橋公団は南備讃瀬戸大橋建設のために世界で最初の海底無自由面発破という特殊発破を計画した。そこで筆者はこの特殊発破によって発生する全ての現象を予測するための数値シミュレーションを1974年に実施した。本州四国連絡橋公団はその結果を参考にして1975年に試験発破を実施した。試験発破によって発生した地盤振動の実測結果はシミュレーションによる予測結果と対比され,両者が良く一致していることが確認された。なお,実測された地盤振動の大きさは従来から用いられていた発破振動推定式を用いて計算された値の約7倍であった。このことからDays-2 Codeによるシミュレーションの有効性が確認された。

  • 大熊 茂雄
    2020 年 73 巻 p. 236-254
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    日本での物理探鑛の始まりについて,文献資料をもとに検証を行ってきた。当学会では,京都帝国大学の山田賀一が,大正8年(1919年)兵庫県高野鉱山で磁鉄鉱を調査するために磁気探鉱を実施したのが日本で最初の物理探鉱であるとされている(編輯委員会,1948)。一方,佐藤(1985)は,地質調査所の関野修蔵が明治24年(1891年)に釜石鉱山で鉄鉱床の調査のため磁気測量を行ったことを紹介し,これが日本で最初の物理探鉱であったろうと述べている。当時としては国際的にも先駆的な調査ではあったが,観測点が僅か9点で,磁気測量も伏角,偏角のみしか観測されておらず,また観測結果の表示や解釈も十分ではなかった。特に報告書に添付されているはずの観測箇所が記された地質図が図書館を通じた文献調査でも入手できなかったことは成果の評価を困難としている。ただし,当時,観測手続や観測点の環境が記された野帳は地質調査所に保管されており,関野による釜石鉱山での磁気測量の際の野帳もあったに違いない。しかし残念なことに,地質調査所の庁舎は大正12年(1923年)の関東大震災により焼失し野帳を含む多くの諸資料が失われてしまった。また,関野自身も本業の地形課の業務に忙殺されるとともに,関野が関わった第一次全国磁気測量結果に基づく恩師ナウマンの論文に係わる地質学的論争の影響を受けて,磁気測量へのさらなる関与に躊躇した可能性がある。このようなこともあり,釜石鉱山における関野の調査は忘れ去られ,日本で最初の磁気探鉱(物理探鉱)とは認定されなかったと考えられる。釜石鉱山では,関野の調査に遅れること35年後の大正15年(1926年)に京都帝国大学の藤田義象による磁気探鉱が実施され,新鉱床の発見に至ったという(藤田,1928)。奇しくも新鉱床が発見されたのは,関野の調査で偏角異常が観測された佐比内峠のすぐそばであった。

  • 太田 陽一
    2020 年 73 巻 p. 255-266
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/04
    ジャーナル フリー

    我が国における地震探査100年の歩みを振り返るにあたり,石油・天然ガス資源探査の有力な手法である反射法地震探査について改めて現在確立されている調査方法を確認する。日本鉱業株式会社により実施された石油探査として初めて成果を上げた昭和15(1940)年秋田県八郎潟西岸の払戸村での調査結果について参照し,調査地近傍で昭和60(1985)年に実施された3次元調査結果と比較した。太平洋戦争中や戦後の地震探査技術の進歩は,日本政府の石油政策に深い関りがあることから,その政策の歴史や変遷と地震探査技術について述べる。戦後10年程度はGHQによる国産原油の探鉱開発促進政策により海外の最新調査機器が導入され,昭和30(1955)年に開始された政府の石油資源総合開発5カ年計画(第1次~8次まで約45年間)において国産原油確保のための探鉱調査が継続的に進められ,その探鉱対象の変遷(陸域においては浅部複雑構造から深部の大構造へ,海域においては大陸棚から大水深更には海陸境界地域)に対応すべく,地震探査の現地調査技術(震源,受振器,探鉱機,調査方法等)や処理解析技術が発展した。特に昭和40(1965)年代後半からの探鉱機のデジタル化は,その後のデジタルテレメトリ化により1000チャネルを超える多チャネルデータ取得が可能となった結果,長大展開・長大測線調査や3次元調査が実施可能となった。大量のデータを効率よく処理解析するソフトウェアの開発も進められ,また電子計算機の高性能化とともに,地下地質構造を立体的に把握できる3次元データボリュームの可視化技術も発展し,地下地質構造推定精度が格段に向上した。地震探査技術は石油天然ガス資源という大きな経済価値を生む探査手法として発展してきたが,地震防災や二酸化炭素地中貯留等,資源探査以外の分野への適用をより積極的に行う必要があろう。

解説
  • 津野 靖士, 山本 俊六, 佐藤 新二, 野田 俊太, 佐溝 昌彦, 関 清隆
    2020 年 73 巻 p. 218-224
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/11/25
    ジャーナル フリー

    国内外の多くの鉄道において,人の手を介する地震時運転規制や自動化された地震防災システム・早期地震警報システムが導入されており,地震が発生した際はそれら規制やシステムによって鉄道の安全性と安定性を確保してきた。一方で,それら規制やシステムを運用する際には,各鉄道事業者は独自の運行計画に特化した運用方法を採用しており,日本国内においても統一された指針や仕様書はなく,国際的にも共通されたガイドラインは存在していなかった。そのため,地震の発生が懸念される国や地域に対して,品質が確保されたガイドラインを作成することが強く要求され,地震による顧客被災リスクを低減すること,また列車運行のダウンタイムを短縮することを目的に,鉄道の安全性と安定性を確保する鉄道運行計画の国際規格が開発された。

    本解説では,初めに,鉄道分野の国際規格における開発プロセスを概説した後,地震発生時の鉄道運行計画の国際規格開発について説明する。その開発された国際規格ISO 22888:2020“Railway applications - Concepts and basic requirements for the planning of railway operation in the event of earthquakes(鉄道分野-地震発生時の鉄道運行計画の概念と基本要求事項)”は国際的に共通化された新しいガイドラインであり,規定した概念と基本要求事項を遵守することにより,品質が確保された地震発生時の鉄道運行計画が実行されることが期待される。

論文
  • 城森 明, 城森 信豪, 城森 敦善, 近藤 隆資, 結城 洋一, 新清 晃
    2020 年 73 巻 p. 83-95
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    上空を飛行するだけで地下構造を可視化できるのは画期的であり,従来技術では空中電磁探査がこれに該当する。しかしながら同手法は,調査機材の重量が非常に重いためにヘリコプタを必要とし,飛行許可に関する届け出,安全対策等を含めた運用コストがかかり,これまでに大規模な広域構造調査に用いられるのが一般的であった。従来手法の問題点を克服して空中電磁探査を小規模な調査にも適用するために,今回,我々はヘリコプタに代わりドローンを使用した探査手法を開発した。ドローンに搭載する機材の軽量化を念頭に,探査対象深度や調査地区の条件に合わせて使用できるよう3種類の装置を開発した。そのうち2種類は地上に送信源を設置するタイプの装置であり,D-GREATEMは線状に伸びる調査地区に,D-TEM[GLS]は平面的な広がりを持った調査地区にそれぞれ適している。一方,地上の送信源を必要としないD-TEM[ALS]は,2機のドローンを使用したシステムである。検証調査において,ドローン空中電磁探査で得られる比抵抗断面図は,従来の電気探査による結果と整合的であることが明らかになった。また,取得データを検討した結果,D-GREATEMとD-TEM[GLS]の探査深度は100m以上であり比較的深い深度を探査できることも分かった。一方でD-TEM[ALS]は100mより浅い探査深度であるが,地上送信源の配置が困難な地区における調査に向いている。本開発手法は,いずれも従来のヘリコプタでの調査と比較すると,浅部の小規模な地下構造を対象とした調査に向いているほか,低い対地高度を維持することで表層付近の構造の分解能を高めることが可能である。また,電気探査のような従来の地上探査と比較すると,本開発手法は測定効率が飛躍的に高く,運用コストを抑制することが可能である。

  • 三村 祐介, 石塚 師也, 小田 義也, 窪田 健二
    2020 年 73 巻 p. 136-148
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    九重山とは,大分県に位置する火山連山の総称である。その中でも星生山の北東に位置する硫黄山は,1995年に水蒸気爆発が発生しており,九重山の中で唯一噴煙を出し続けている火山である。2016年4月16日に起きた熊本地震とその余震は,九重山への影響も少なからずあると予測できる。そこで本研究では,合成開口レーダーの応用技術である干渉SAR解析と時系列解析(SBAS法)を用いて,九重山全体の地表変動の推定と変動メカニズムの考察を行った。解析には,2014年8月28日から2016年11月14日の間に取得されたALOS-2データ17シーンを用いた。

    解析の結果,解析期間内では硫黄山を除く九重山とその周辺で大きな変動は確認できなかった。しかし,硫黄山において,2016年熊本地震前の期間(2014年8月18日から2016年2月25日)では,沈下変動が観測され,2016年熊本地震直後の期間(2016年4月18日から2016年6月13日)は,変動傾向に変化が見られ,特に硫黄山では大規模な隆起変動が観測された。しかし,地震後余震が十分少なくなった期間(2016年6月13日以降)では,再び地震前と同様の変動が推定され,長期的に見ると,硫黄山では,地震前後で変動傾向に顕著な変化は見られなかった。

    さらに本研究では,硫黄山の地表変動のメカニズムについて考察するため,地殻変動の解析的なモデルを用い,圧力源の位置(緯度,経度,深さ)と体積変化量の推定を行った。その結果,熊本地震前および地震後余震が少なくなった期間の圧力源の深さは,地下浅部の水蒸気だまりによるものと考えられる。しかし,地震直後の隆起は,地震前後の変動に比べ深い位置に圧力源が存在している可能性がある。

  • 山本 英和, 齊藤 剛
    2020 年 73 巻 p. 149-167
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/03
    ジャーナル フリー

    岩手県大船渡市の振動特性を明らかにするため,2003年5月26日に発生した宮城県沖地震(Mj 7.0)のアンケート震度調査を行った。震度の算出には太田ら(1998)の改訂版を用いた。大船渡市の小学校14校,中学校8校の生徒の両親に3,387枚のアンケートを配布した。アンケートから推定された震度は,震度の分布を明確にするために250m四方のメッシュで平均した。アンケート調査のための個人間の違いを避けるために,アンケートの数が3つ以上の有効メッシュを分析に使用した。大船渡市の有効メッシュ数は212であった。メッシュ震度は6.4~4.1の範囲で分布し,大船渡市の平均は5.1であった。大船渡市の平野部にあたる中心部では震度が大きく,周辺では震度が小さいことが判明した。2003年宮城県沖地震の強震動は振動特性が地下の地質構造に依存することを示した。

    大船渡市における区域ごとに震度の差異の原因を調べるために,市内14地点で,地震計間隔6mの4台の振動計からなる簡易微動アレイ観測を実施し,レイリー波位相速度分散曲線を求めた。長尾・紺野(2002)の簡便な方法で波長40mの時のレイリー波位相速度から深度30mまでの平均S波速度(AVS30)を換算し,平均S波速度分布を求め,アンケート震度との比較を行った。震度データベースを作成するための250mメッシュ平均震度とAVS30との相関係数は-0.68を示し,ある程度の相関が認められ,単純な解析である250mメッシュ平均震度でも平均S波速度からの揺れやすさとの対応を示すことが可能であった。また,大船渡では狭い地域で急に地質構造が変化するため,観測点を中心にした半径100mから500mの平均震度を算出し,その震度と平均S波速度(AVS10からAVS30)の相関を検討した。震度が大きな観測点でAVS30が小さく,震度の小さな観測点ではAVS30が大きくなる傾向が確認でき,その結果,半径250m平均震度とAVS30は強い負の相関(-0.82)を示すことが判明した。また,AVS30と同様にAVS20も相関係数が-0.81と高い値を示すことも明らかとなった。

  • 遠藤 仁
    2020 年 73 巻 p. 177-191
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/03
    ジャーナル フリー

    電気ダイポールによって誘導される水平多層構造中の電磁場はベクトルポテンシャルを用いて導出することができ,これまで多くの研究がなされてきた。しかしながら,その導出が詳細に記載されている論文やテキストブックを探すのは容易ではない。本論文の主たる目的は,電気ダイポールによって誘導される水平多層構造中の電磁場の導出を詳しく記載し,導出した電磁場を計算する汎用性の高い計算プログラムを開発,またその計算例を示すことにある。開発したプログラムでは送受信は任意の層に配置することができ,各層の比抵抗はその異方性を考慮することができ,さらに比抵抗は複素数として定義することが可能である。数値計算結果から,本手法によって水平多層構造中の電磁場が適切に計算されることが示された。また,開発した技術・コードは1次元順計算に用いることができるだけでなく,積分方程式法におけるバックグラウンド場やグリーン関数の計算,さらに2次場を解く有限要素法や差分法における1次場の計算にも用いることができる。

  • 清水 智明, 小田 義也
    2020 年 73 巻 p. 192-208
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

    薬液注入の浸透状況をリアルタイムに可視化できれば,注入圧,注入量を適宜に修正して注入不良を回避でき,地盤改良の品質向上を期待できる。比抵抗トモグラフィはこれを実現するための有力な手法であるが,従来の解析法では,注入途中すなわち測定中の比抵抗分布は大きく変化しないことを前提としており,常時の監視は困難であった。そこで,既報(清水・小田,2019)において,測定中の比抵抗変化を考慮できる新しい解析法を提案した。すなわち,(1)注入中の全時間ステップを一体の観測方程式で解き,(2)求めるパラメータを比抵抗の時間変化量とし,(3)1つの時間ステップの中での測定時刻の違いを考慮して計算するという,3つの点を考慮した。

    既報での検討では,数値実験により提案解析法の優位性を確認したが,実測データでは未検証だった。数値実験でも人工的にガウスノイズを加えてはいるものの,実現象を計測したデータにおけるノイズとは特性が異なる可能性がある。そこで,本論では薬液注入を模擬した模型実験を行い,実測した地盤内の比抵抗分布とトモグラフィから得られた比抵抗分布とを比較して提案解析法が有効に機能することの検証を行った。

    検証には提案解析法,従来解析法,カルマンフィルタを比較対象とした。従来解析法とは,各時間ステップの計測データを前後関係を考慮せずに個別に逆解析する方法である。また,カルマンフィルタとは,第1ステップから予測と計測更新を繰り返して各時間ステップの状態(ここでは比抵抗分布)を逐次求めていく方法である。これらの解析法による比抵抗分布を比較した結果,提案解析法が最も実測した比抵抗との乖離が少なく,精度よく比抵抗分布を推定できる可能性が高いことがわかった。さらに時間ステップを変更して検証したところ,検証したいずれの時間ステップにおいても提案解析法が最も誤差の少ない結果となった。

ラピッドレター
  • 杉野 由樹, 上田 匠, 大熊 茂雄, 石塚 吉浩, 宮川 歩夢
    2020 年 73 巻 p. 117-122
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/19
    ジャーナル フリー

    調査地域に分布する岩石の磁気的性質を含む物性情報は,磁気探査の結果を解釈する上で非常に有効である。しかし,これまで,磁気探査と並行して岩石磁気データの詳細が調べられる事は少なかった。一方,北海道東部の武佐岳地熱地域では,JOGMECにより地熱資源ポテンシャル調査を目的に高分解能空中磁気探査が実施され,顕著な低磁気異常域が観測されている。そこで,本研究では当該地域で採取された露頭岩石について,その密度,磁化率および自然残留磁化(NRM)を実験室内で測定することで,磁気探査データの解釈への活用可能性について検討を行った。

    イケショマナイ川右岸(A地点),シュラ川流域(B地点)とクテクンベツ川右岸(C地点)の3箇所から採取した露頭岩石(ブロック試料)を円筒試料に整形して測定に用いた。B地点の全部とC地点の一部の試料は,高NRM強度(≥1.0 A/m)かつ高Qn比(≥1.0)で,また負の伏角を示す。一方,A地点の全試料とC地点の一部の試料は,低NRM強度(≤1.0 A/m)かつ低Qn比(≤1.0)で,また正の伏角を示す。

    次に交流消磁実験を各地域から選定した試料について行ったところ,全ての試料はNRMの伏角が負となり,初生磁化が逆帯磁であることが分かった。この結果は,岩石採取地点付近に分布する顕著な低磁気異常と整合的であり,これらの低磁気異常が地熱兆候によるものではなく,逆帯磁の火山岩の分布によるものであることを示している。一方,A地点から採取した岩石の鏡下鑑定と蛍光X線分析による全岩分析を実施したところ,変質が進み有色鉱物が少ないことが判明し,結果として磁性を弱めていることが分かった。

    以上より,北海道東部の武佐岳地熱地域では露頭岩石の物性測定結果と磁気探査との対応が非常に良い事がわかり,磁気探査の解釈を行う上で,表層部の岩石物性情報の詳細を調べることが有効であることが明らかとなった。

  • 佐藤 真也
    2020 年 73 巻 p. 168-176
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/19
    ジャーナル フリー

    平板地球での地磁気地電流(MT)法への局所的な電流源による影響は,とくに解析周期・地下比抵抗構造に着目し報告されてきた。しかしながら,電流源の位置の変化によって,球体地球のMT 応答関数がうける影響を報告した研究は存在しない。本研究では,電流源としてループ状の電流をあたえ,その中心緯度・高度・半径を変化させる。電流源の位置を変えながら,周期20秒と200秒の球体地球のMT応答関数がうけるバイアスを計算した。電流源のわずかな位置の変化によって,MT応答関数は変動した。とくに電離層で電離過程が顕著なE層(高度100-150 km)に電流源が存在したとき,バイアスは大きくなった。電流源の中心緯度と高度は時間的に変動するため,こうしたバイアスは実データ解析でもおこりうる。そのため,MT法をもちいて地下比抵抗構造の時間的な変化を議論するとき,電離層の状態を評価する必要がある。

  • 鈴木 晴彦, 小西 千里, 谷田貝 淳, 佐藤 将, 小河原 敬徳, 櫻井 健, 甲斐田 康弘, 鈴木 徹, 高橋 広人, 稲崎 富士
    2020 年 73 巻 p. 209-217
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/08/26
    ジャーナル フリー

    茨城県つくば市において2次元微動アレイ探査を実施した。測線長は約12㎞であり,40台の地震計を用いて,測線を5分割し,約45分間測定を行った。地震計は固有周波数2Hzのジオフォンを用いた。観測点の総計は200点である。観測を行う前に,ハドルテストを行い0.1~10Hzの帯域において,良好なコヒーレンスが測定できることを確認した。CMP-SPAC法により400mごとに24の微動の位相速度を推定した。推定された位相速度の周波数範囲は0.3~5Hzであった。測線の南部,中部,北部ではT字および十字アレイを実施し,2次元アレイにより推定される位相速度との比較をおこない,位相速度が概ね整合的であることを確認した。3成分の微動測定を20地点で実施した。H/Vスペクトルのピーク周波数は0.25Hz~1Hzまで測線内で変化している。位相速度とH/Vスペクトルを用いた多地点同時逆解析によりS波速度構造を推定した。多地点同時逆解析によりボーリングデータによる基盤深度やPS検層結果と整合的な結果を得ることができた。

技術報告
  • 西澤 修, 齊藤 竜彦, 稲崎 富士
    2020 年 73 巻 p. 96-116
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    弾性固体で形成された層構造中を伝播するleaking mode(leakage mode, leaky mode)の計算法を提案し,固結度の低い軟弱地盤上の舗装道路を模したモデルについて予測分散曲線を示す。層構造を伝播するleaking modeはRayleigh波より速い速度で伝播する分散性の波で,下方無限の最下層に波のエネルギーを放出するため,振幅を減少させながら伝播する。一方,normal mode(Rayleigh波)は内部摩擦を無視すれば,伝播に伴う波動エネルギーの減衰はなく,最下層へのエネルギーリークは生じない。減衰パラメータを表す虚数部を持った複素波数を導入してleaking modeの分散を計算することができる。また,地表でのインパルス震源に対する波形の振幅スペクトル計算に用いられる波数積分を,複素波数面上の留数計算に置き換えてleaking modeの振幅応答が部分的に得られる。上記のモデルに対して,2 Hz–100 Hzの周波数帯で位相速度の分散に対応する減衰係数,および振幅応答を計算し,leaking modeの振幅強度を震源からの距離に対して評価した。地表震源を使う表面波観測では,表層付近を高速のleaking modeが伝播し,normal modeの最高速度である最下層のS波速度より速い位相速度が分散曲線に現れる。従来の解析では,normal modeの最大位相速度が最下層のS波速度を越えられないため,S波速度の大きい最下層を深部に仮定し,観測分散曲線をすべてnormal modeとみなしてきた。しかし,震源が地表にある場合は,地震波が地下深部の最下層に到達し,表面波の形成に寄与するには長い時間が必要で,記録時間が短い波形では地震波伝播の実態が反映されていない疑いが残る。normal modeより高速で伝播するleaking modeの存在を考慮すれば,最下層のS波速度が観測分散曲線の最高速度より小さい場合も観測結果の解釈が可能である。地表付近が凍結した場所や舗装道路など,地表面近傍が高速層となる場合はleaking modeを考慮する必要がある。

論評
  • 山田 雅行, 羽田 浩二, 盛川 仁
    2020 年 73 巻 p. 123-135
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    秦ほか(2015)は,和歌山県串本町の津波来襲地域において,南海トラフ巨大地震による強震動評価を行うことを将来の目的として,高密度の常時微動観測を実施し,その水平動/上下動スペクトル比(H/V)を用いて地盤震動特性の評価を試みた。この既往調査の筆頭著者に対して,研究活動上の特定不正行為に関する調査結果(大阪大学,2019)が公表されたが,既往調査における特定不正行為の有無についての判定を留保としたため,記載内容の信頼性について判定されないままとなった。

    和歌山県串本町において改めて357点の高密度常時微動観測を実施し,秦ほか(2015)の既往調査と同様の検討を行うことで,既往調査による結果の検証を行った。常時微動H/Vに関して,既往調査と本調査のピーク周波数分布は定性的によく対応していると判断できた。一方で,特定エリアのピーク周波数に系統的な違いが見られた。観測位置の違いや交通量の違いなどの要因は考えられるが,この原因は既往調査の側にあったのではないかと考えざるを得ない。K-NET串本の常時微動H/Vを基準として他の地点の常時微動H/Vのピーク周波数およびピーク振幅の違いを説明できるように,K-NET串本のサイト増幅特性を補正して,算定したサイト増幅特性に関して,既往調査と本調査の一致度は良くなかった。基準としたK-NET串本の常時微動H/Vの形状が異なること,既往調査の地盤モデルやRayleigh 波基本モードの理論楕円率が正確に記述されていなかったことなどが要因である可能性が考えられる。地震観測に関して,一般的に地震観測記録を用いたサイト増幅特性と常時微動H/Vに基づいて評価したサイト増幅特性が既往調査に示されているように似た形状になることは珍しいことを指摘した。なお,著者らは,研究者や実務者等からの要請があれば,本稿で示した解析に用いたwin形式の生データを提供することが可能である。

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