従来,戦後日本の中小企業政策に関する研究は,政策主体としては政府と保守勢力を重視し,日本社会党等の革新勢力の役割には無関心であった。たしかに,戦後の中小企業政策は,大半の時期においては,製造業を重視する産業構造政策としての性格が強く,経済成長を優先する保守勢力によって担われてきた。また,保守勢力による政権が長期にわたり維持されたため,日本社会党を現実的な政策主体として検討する必要性もなかった。しかし,本論は,中小企業政策に産業構造政策と経済民主化政策の2つの理念が混在した占領初期,すなわち戦後中小企業政策の形成期について,次の2点を明らかにする。(1)占領期には,保守勢力のみならず日本社会党も,中小企業政策に対する現実的な取り組みをみせたこと。(2)日本社会党の中小企業政策が,経済民主化政策と産業構造政策の性格を併せ持ったこと。そのうえで,占領初期における中小企業政策の形成過程を理解するためには,商工省,日本自由党,GHQの3者のみならず,日本社会党の役割に着目する必要性を提起する。
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