既往資料にもとづいて大阪湾における赤潮の出現特性を明らかにし, 赤潮発生時の海況特性について論述した。
1) 大阪湾では年間20~30件の赤潮が発生するが, 季節的には水温上昇期に集中し, 5月~8月の4ヵ月で全体の56%の赤潮が発生する。これらは汚濁河川水が流入し, 停滞海域である湾奥~東部海域で多発している。
2) 赤潮出現種は珪藻が優勢で全赤潮種の56%を占めている。なかでも
Skeletonema costatum, Thalassiosira s-pp. が特に優勢で, 大板湾ではほぼ周年にわたって赤潮を形成している。その他渦鞭毛藻類の
Heterocaps triqurtra, Prorocentrum triestinum, P. minimum, P. micans,ラフイド藻類の
Heterosigma akashiwo などが主要赤潮種であるが, これらの出現時期は比較的短期間に限られ毎年周期的に赤潮を形成する。
3) 珪藻による赤潮は通常湾奥の低塩分域に分布の中心があって, その湾内分布は塩分分布に対応したパターンを示す。これは珪藻がリン, 窒藻などのマクロ栄養素依存型で, 群生長速度が鞭毛藻などより大きいため汚濁河川水が絶えず流入する湾奥海域で常に優勢な位置を占めることによると考えられる。これに対して鞭毛藻類は東部沿岸域で優占することが多い。
4)
Heterosigma akashiwo は日周鉛直移動を行うことが知られている。この特性は, 有光層中の栄養塩が枯渇した成層形成海域では鉛直移動によって下層に豊富に溶存する増殖促進物質を吸収し得ることから, 個体群の維持, 増殖に好都合である。またその沈降, 浮上速度から判断して鉛直移動はせいぜい10m以内と推測されるが, そのことが東部沿岸の浅海域で運動性に富む鞭毛藻をより優勢にする原因の一つであると考えられる。
5) 赤潮発生前後の海況変動の特徴から, 赤潮の誘発要因として enrich された汚濁河川水の流入 (塩分の低下) と, 海水の鉛直混合が重要な役割を果していることが明らかになった。
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