生活経済学研究
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45 巻
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論文
  • パネルデータによる分析
    上村 一樹, 駒村 康平
    2017 年 45 巻 p. 1-14
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、さまざまな企業が被用者の健康増進に力を入れるようになっている。企業が被用者の健康増進を図る第一義的な目的は、医療費の低下を通じた後期高齢者支援金の減算にあると考えられる。しかしながら、被用者の健康増進が労働生産性を向上させるならば、被用者の健康増進は、経済全体の生産性にも好影響をもたらすことにもなり、政府が健康増進への財政支援を行う意義も出てくる。  今後の健康増進政策のあり方を考えるためにも、健康増進と労働生産性の関係性を実証分析によって明らかにすることは重要であるが、わが国においては、そうした分析が不足している。そこで、本稿では、労働生産性の代表的な指標である賃金に焦点を被説明変数として、「慶應義塾家計パネル調査(KHPS)」を用いて、さまざまなバイアスをできる限り取り除いた上で、健康増進が労働生産性に与える影響について実証分析を行った。  その結果、男性については、健康増進が賃金を高めることがわかった。一方、女性については、そのような効果が確認されなかった。本稿の結果から、対象は限定されるものの、被用者の健康増進は、医療費抑制にとどまらず、労働生産性向上にもつながると考えられる。
  • 難波 安彦
    2017 年 45 巻 p. 15-24
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    先進国では現在急速な人口高齢化が進行していることに対応して政府が高齢者の就労を推進する傾向がある。本稿は、高齢者の労働意欲およびそれに比例した労働時間と総生産水準の関係を検討する。検討の結果、次の二つの結論が得られた。 (ⅰ) 高齢者の最適労働時間の増加は資本水準を減少させる。 (ⅱ) 高齢者の最適労働時間の増加は総生産水準を増加させる。
  • 久米 功一, 鶴 光太郎, 戸田 淳仁
    2017 年 45 巻 p. 25-38
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、正社員の多様な働き方が進展している現状に鑑みて、限定的な働き方が労働者に与える厚生について検討した。とくに、制度上の区分ではなく、働き方の実態に着目して分析した。限定的な働き方をしている正社員のスキル形成と満足度の視点から、これらの関係を構造的・立体的に捉えることを試みた。具体的には、限定的な働き方とスキルが仕事・生活満足度に与える影響について金銭的価値から評価した。 その結果、満足度の観点からみると、残業があることやスキルアップの機会がないことが、仕事満足度も生活満足度も損ねていた。生活満足度アプローチから、満足度を損ねる働き方の所得補償額を試算すると、正社員のスキル向上機会がないことで失われる仕事満足度、生活満足度の経済的価値はそれぞれ1,233.3円/時(平均時給の72.4%)、808円/時(同47.4%)と、残業に対する補償額の2~3倍と大きかった。女性正社員は、男性正社員に比べて、残業や転勤・配置転換、ラインに組み込まれていることが、生活満足度を損ねて、その大きさは、時給の約6割程度に相当していた
  • 日本における実証分析
    佐々木 昇一
    2017 年 45 巻 p. 39-52
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は、日本の労働市場における男性の学歴や就業形態間の賃金格差、また男女間の 賃金格差や女性の労働市場への参入障壁といったジェンダー格差が結婚行動を通じて家計 間の階層選別に与える影響について検証することを目的とする。 そこで、日本の夫婦の結婚、出産などに関する国内最大規模の個票データを用いて理論仮説を実証的に検証した。 その結果、男性の学歴間または就業形態間の賃金格差が大きいほど結婚を通じた家計の階層選別の程度を有意に高める効果を持つことが確認された。また、賃金や雇用に関するジェンダー格差が大卒女性の結婚行動に与える効果については、既婚女性の正規就業率が高いほど結婚を通じた階層選別の程度を緩和させる可能性が示された。  さらに、理論仮説に忠実に就業形態に基づく女性の下方婚についての推計を行った。 その結果、非正規就業男性と正規就業女性の所得の上昇が階層選別の程度を緩和する可能 性を有することが示された。  これらのことから、結婚を通じた階層選別の程度を緩和するためには、学歴間の賃金格 差を縮小させることに加え、就業形態間の賃金格差を縮小させることや結婚後の女性の正 規就業率を上昇させるといったジェンダー格差を是正する政策が必要であることが示唆さ れる。
  • 山本 信一, 井上 麻央, 米山 高生
    2017 年 45 巻 p. 53-64
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    The aging population has resulted in the percentage of GDP allocated to healthcare costs reaching about 10%, and further increases are expected. To manage this issue, the Ministry of Health, Labor, and Welfare is attempting to improve the population's lifestyle and to moderate healthcare cost increases by conducting medical checkups and providing health guidance for lifestyle improvements. The study data comprise medical prescriptions and medical examinations of 24,725 people who have developed diabetes and 13,453 people who have developed high blood pressure (data from the Japan Medical Data Center). Based on a multiple regression analysis, we compare people with good lifestyle habits and people with bad lifestyle habits to examine how the increases in their healthcare costs changed as a result of their diagnoses. For people who developed diabetes, those who properly controlled their BMI and LDL cholesterol levels, refrained from smoking and drinking, and exercised regularly (i.e., practiced good lifestyle habits) were able to maintain satisfactory medical examination results (diabetes). Based on these results, we prove statistically that the increase in healthcare costs is less for people who keep good lifestyle habits, even if they develop diabetes. Similarly, people who developed high blood pressure and practiced good lifestyle habits were able to maintain satisfactory medical examination results (high blood pressure). Again, the increase in the healthcare costs for this group was less, even if they developed high blood pressure, although, in this case, exercising regularly was not a relevant factor.
  • 人々の居住県選択と地域の特性
    山根 智沙子, 山根 承子, 筒井 義郎
    2017 年 45 巻 p. 65-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、大阪大学GCOEが2009、2010年に実施したアンケート調査を用いて、人々の居住県選択と地域特性の関係について分析を行なった。まず、移動に関するアンケートから、多くの人が現在の居住県に満足し、今後も同じ県に住み続けることを希望していることが明らかとなった。その中でも、人口規模の偏りを調整した結果、「住みたい県」として最も多く選ばれたのは、沖縄県であった。次に、人々がどのような理由で居住県を選択しているのかに焦点を当て、多項ロジットモデルを推定して要因分析を行なった結果、自然環境、地元・家族への思い、生活の利便性といった地域の持つ特性が、人々の居住県選択という意思決定に大きく影響を及ぼしていることが明らかとなった。
  • 村上 恵子, 西村 佳子, 西田 小百合
    2017 年 45 巻 p. 81-94
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    企業型確定拠出年金の運用メニューはどのように選ばれているのか、それは加入者にとって望ましい年金運用の選択肢となっているのか。我々は企業型確定拠出年金のスポンサー企業64社が採用している投資信託のデータを基に、確定拠出年金のガバナンスについて検討を行った。驚くべきことに、選定された投資信託の多くは、スポンサー企業とその親会社の主要な取引銀行、幹事証券会社、主要な取引先企業が運用や販売に関わる投資信託であった。その傾向は、投資信託の選択を社内委員会で決定する企業でより顕著であった。さらに、スポンサー企業は、パッシブ・ファンド以外のファンドをより多く選び、投資信託の運用会社数は少なくする傾向があった。選ばれた投資信託は、代表的なDC向けファンドよりもコストが低いという仮説は支持されなかった。スポンサー企業の多くは、社内委員会での協議や運営管理機関の助言によって運用メニューを選定しているが、投資メニューの選定という観点から見ると、確定拠出年金のガバナンスには改善の余地があるという結論となった。
  • 大藪 千穂, 奥田 真之
    2017 年 45 巻 p. 95-106
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、「情報活動に関するアンケート」に基づき、大学生256人を4つの情報活動グループに分け、「金融や経済に関するアンケート」、家計簿、レポートの自由記述から、情報活動と金融リテラシー、金融経済情報に関する考え方、家計行動、人間発達度の関連を分析した。この結果、居住別では、下宿生は自宅生より収入も支出も高かったが、費目別にみると、食費や住居費、保健衛生費、教育費で差が見られた。食費は下宿生の方が主食、副食が高くなった。男女別で見ると、食費、交通通信費、黒字で差が見られた。情報活動グループ別では、収集が積極的であると、自立する判断力向上が高くなり、活用が積極的であると、金融トラブルの防御や生活設計、教養の視野拡大など、金融の活用に関する事柄で活用したいと考えることがわかった。家計簿との関係は、活用が積極的なグループは節約志向であることが分かった。また情報活動と人間発達は関係しているということが明らかとなった。今後情報の収集も活用も積極的な消費者を育てることが求められる。
  • 東海3県の信用金庫のケース
    近藤 万峰
    2017 年 45 巻 p. 107-120
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、協同組織金融機関に分類される信用金庫が、本店所在地外の地域に多くの店舗を設置している状況に注目し、そうした信用金庫の他地域進出が、自身の経営パフォーマンスに及ぼしている影響について明らかにすることを目的とした。具体的には、東海3県(愛知、岐阜、および三重)に本店を置く信用金庫をサンプルとし、本店所在地外に多くの店舗を設けている信用金庫ほど、高い利益を上げているかを実証的に分析した。そこから、東海3県の信用金庫全体では、株式会社である地域銀行とは異なり、必ずしも強い利潤動機に基づいた他地域進出は行われておらず、むしろ取引先企業の経営をサポートすることをも目的として他地域へ進出している可能性が示唆された。一方で、高収益を上げづらいと考えられる金融機関間の競争が激しい地域に本店を置く信用金庫は、本店所在地にはない収益機会を求めるべく、(リスクをとってでも)相対的に高収益が期待できる競争の緩やかな地域を含めた他地域へ進出し、高い利益を上げることに成功している可能性も示されている。
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