生活経済学研究
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47 巻
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論文
  • -2016年・金融リテラシーと金融トラブルに関する調査をもとに-
    家森 信善, 上山 仁恵
    2018 年 47 巻 p. 1-18
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    我々は2016年9月に「金融リテラシーと金融トラブルに関する調査」を実施した。この調査では、2,700人の回答者に対して、金融トラブルの経験、金融リテラシーならびに金融経済教育の経験について幅広く質問した。本調査では、金融リテラシーの観点から、金融トラブルを経験した人々の特徴を分析した。金融リテラシーが金融トラブルの経験とどのように関連しているかを定量的に分析した論文はほとんどなく、われわれの知る限り、本論文は先駆的である。我々の結果によれば、金融リテラシーの高い人々は金融トラブルを経験しにくいという明確な傾向は見いだせなかった。これは、ある種の金融トラブルは、金融リテラシーの高い人々のほうが経験しやすいためである。逆に、金融リテラシーの低い人が遭遇しやすい金融トラブルがあることも明らかになった。また、金融トラブルを経験していない人々の中には、金融リテラシーが高くて防げたからではなく、単にさまざまな金融サービスを使用していないだけの人も多い。
  • 大藪 千穂, 奥田 真之
    2018 年 47 巻 p. 19-32
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文では,高等学校における保険教育の授業案を考案し,高等学校において授業実践を行い,その効果を分析した。また情報活動との関係を分析した。この結果,授業によって,保険の内容記述のレベルが高くなり,授業直後,理解度や関心度が上昇し,将来役立つ内容だと感じていたことから,授業効果が見られた。また2ヶ月後も関心が高まったと感じていた。さらに情報活動グループ別に授業効果を分析した結果,3つの情報活動グループに分類できた。この結果,情報活動が積極的な生徒は理解度,関心度が高まり,将来に役立つと授業内容を前向きに捉えており,家族に授業内容を発信していることから,情報の活用力と収集力を高める授業が効果的であることが明らかとなった。
  • 植野 和文
    2018 年 47 巻 p. 33-46
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    効用アプローチを代表する消費行動モデルは期待効用を最大にする選択を示しても、それがもたらした結果の評価は不問である。他方、潜在能力アプローチは願望達成の可否を重視し、その結果から派生する効用は二義的である。いずれも行動の結果を評価する理論的な枠組みがない。しかし現実に我々は日々行動し様々に結果を評価している。普通、それは欲求の充足を満足とし未充足を不満足とする評価基準に基づきそれを当然視している。しかし長期的に経済が停滞するなかで国民は「欲求が未充足でも満足すること」を経験しており、新たに「欲求未充足の論理」の必要性を説く見解もある。この一見不合理な経験と見解はこれまでの評価基準に根本的な見直しを迫る。欲求の充足・未充足が評価の基準でないならそれに代わる基準は何なのか。本稿は結果の評価は効用の判断では終わらず、その先にもう一段の精神的営為があると考える。それが「納得」である。納得とは当人の理知の産物で主観的な営みである。効用は事物の対する反応から生じるある種の心理状態に過ぎない。したがって行動の結果は効用による評価をさらに感性で判断した納得の成否で評価される。これが新たに提案する「納得基準」である。
  • 佐々木 昇一
    2018 年 47 巻 p. 47-66
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文は、男性の家事育児の参画を阻害する主要な要因とされる労働時間の効果の変化を他の要因をコントロールしたうえで、改めて実証的に検証することである。 集計値からは、日本の男性は、全体としてOECD諸国と比べて家事育児に費やす時間が半分でしかなく、全てのコーホートにおいて30歳代の男性が最も労働時間が長く、その時間制約から家事育児に費やす時間が0.8時間弱と、ライフサイクル上最も低い水準にとどまっている。そのなかにあって10%程度の男性がOECD諸国の平均値と同程度以上に家事育児に時間を費やしている。それらの“家事&育メン”男性とそれ以外の男性の生活時間の違いと属性の特徴を明らかにした。 多変量解析による実証分析からは、日本の男性は労働時間と家事育児時間とを内生的に最適な水 準で選択出来ておらず、労働時間は外生的に決まっているという結果を得た。また、労働時間、通勤時間と家事育児時間とはトレードオフの関係にあり、未だ男性の労働時間は家事育児への参画を阻害する要因になっていることが確認された。さらに、若いコーホートほど労働時間と家事育児時間とのトレードオフの程度が高まっている。つまり、ワーク・ライフ・コンフリクトに直面していることが明らかになった。
  • -地方圏スーパーマーケット市場の実証分析-
    澤井 伊織, 國崎 稔
    2018 年 47 巻 p. 67-82
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、空間的寡占市場モデルを用いて地方圏スーパーマーケットの参入市場要因を明らかにすることにある。このために、Bresnahan and Reiss(1990,1991)による空間的寡占市場モデルに基づいた順序型プロビットモデルを用いる。そしてこの推定結果から参入境界値と市場競合度を導出する。そして分析の結果、第一に、参入障壁と市場競合度が市場規模並びに隣接市町村への越境消費に依存することが得られた。第二に、このような小規模の市場では店舗数の増加に伴って著しく競争的になることが示された。第三に、小規模市町村の買い物困難度は今後10年で急激に高まることがシミュレーション分析から示唆された。
  • アンケート調査と学業データによる分析
    佐々木 俊一郎, 山根 承子, マルデワ グジェゴシュ, 布施 匡章, 藤本 和則
    2018 年 47 巻 p. 83-99
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、大学生を対象に実施したアンケート調査および彼らの学業データを使用して、大学生の主観的幸福度、学業満足度や留年不安がどのような要因によって影響を受けるかについて分析し た。分析結果によれば、大学生の幸福度は、経済的な豊かさ、交友関係の充実度、クラブ・サークル等の課外活動への参加の有無等に影響を受ける。学業満足度は、学業成績が良い学生ほど、自由時間を多く取ることができる学生ほど高い。また、附属校推薦、指定校推薦およびスポーツ推薦で入学した学生は学業満足度が高いが、センター入試で入学した学生は学業満足度が低い。留年不安 は、学業成績が悪い学生ほど大きいが、交友関係が充実している学生ほど小さい。また、成績を考慮すると男性よりも女性が、附属校推薦および指定校推薦で入学した学生が、経済的余裕のない学生ほど大きい。こうした結果は、大学生の幸福度、学業に関する満足度や不安感は経済状況、交友関係、生活様式等によってさまざまに影響を受けており、それらを改善することによって彼らの幸福度や学業満足度を向上させることが可能であることを示唆している。
  • -地域金融機関のミクロデータを用いた分析-
    尾島 雅夫
    2018 年 47 巻 p. 101-113
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    信用保証に依存して借り手を十分に見守り・支援していないのではないかといった観点から、金融機関の信用保証利用の在り方が議論になってきた。そこで、本稿では、地域金融機関と中小事業者との間のリレーションシップが信用保証制度の利用に与える影響を定量的に分析した。こうした研究の難しさは、リレーションをどのように定量的にとらえるかである。本稿では、当該金融機関のリレーションシップバンキングの強さの代理変数として、全ての金融機関から継続的に開示されるようになった経営支援業務の件数を利用している。 本稿で得られた実証結果によると、信用金庫では取引先とのリレーションが強いと信用保証の利用率も高くなっている。信用保証は借り手へのサポートが行われ補完的に利用されている。一方で、地域銀行(地銀及び第二地銀)では両者の間に関連性は見られなかった。これは、信用金庫とは客層や、ビジネスモデルが異なるためであろう。いずれにせよ、金融業態によってリレーションシップバンキングが信用保証に与える影響は一様でなく、信用保証制度改革においても、業態の違いを考慮したきめの細かな対応が必要であることを示唆している。
  • 陳 鳳明
    2018 年 47 巻 p. 115-127
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は独自に行ったアンケート調査を用いて、東日本大震災が被災地住民のメンタルヘルスに及ぼす影響を明らかにすることである。結果として、福島と東京の間に住民のメンタルヘルス状態においては大きな格差が確認された。さらに、経済状況の異質性を考慮に入れ、現在の経済状況に基づき、全体のサンプルを2つのサブサンプルに分けて推定を行った。経済状況の悪いサンプルにおいて、福島と東京の間に健康格差が再度確認された。また、現在の健康状態について、「ややわるい」と「とてもわるい」と回答する調査対象を抽出し、宮城県と福島県の住民は東京の住民に比べ、東日本大震災から影響を受ける可能性が高いという結果が得られた。したがって、東日本大震災のような大規模自然災害は人々のメンタルヘルスへの影響が長く続いている可能性が高く、被災地の経済の復興を続けると同時に、被災者のメンタルヘルスの回復に関連する対策を講じる必要もある。
  • 何 芳
    2018 年 47 巻 p. 129-146
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、厚生労働省「21世紀成年者縦断調査」の個票データを用いて、女性の稼得能力と結婚選択との関係について分析を行った。分析では、学歴などの同じ属性のグループ内の賃金格差が存在することに配慮し、パネル固定効果モデルで推定した対数賃金率を稼得能力の代理変数として用いた。さらに、結婚選択と稼得能力の内生性をコントロールするため、結婚意欲をコントロールした。結果の頑健性の確認のため、OLSで推定した対数賃金率、対数年間労働所得、パネル固定効果モデルで推定した対数年間労働所得が結婚選択に与える影響についても分析し、パネル固定効果モデルで推定した対数賃金率を用いた場合の推定結果との比較を行った。 稼得能力が結婚選択に与える影響については、Cox比例ハザードモデルを利用した。以上の分析の結果、女性の稼得能力が高いほど、結婚する確率が高くなっていることが確認された。また、推定した対数賃金率と年齢階級ダミーの交差項で、稼得能力が与える結婚選択の年齢階級による効果の違いを確認した結果、稼得能力が与える結婚選択へのプラスの効果は、大学・大学院卒女性にとって年齢の上昇に伴い逓減していることが確認された。
共同研究助成報告
  • 家計の時間割引率やリスク回避度を中心に、リカード=バローの等価定理やシムズ理論の含意も射程に入れて
    保原 伸弘, 土村 宜明
    2018 年 47 巻 p. 147-162
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/30
    ジャーナル オープンアクセス
    リカード=バローの定理では家計が合理的であれば、政府がたとえ減税や財政拡大を行っても将来時点の増税を予想するため、現時点における消費の拡大は行わない、と主張する。しかし、その結果は家計の持つ、子供の有無や時間選好率といった属性によっても異なってくるであろう。最近の日本では消費税率の引き上げが検討されている。しかし、その効果も家計の持つ属性に左右されると考える。本研究では、税制の変更に対する消費態度の変更と主体の属性との間の関係について、消費計画と時間選好率の経済実験をインターネットを通じたアンケート調査で同時に行うという方法によって、分析を進めてきた。その結果、同定理の主要な仮定である主体の合理的期待の仮定が成立していても、一律に結果が同じなのではなく、子供の有無、収入、年齢、さらに時間選好率やリスク回避度といった主体の属性によって、取られる行動に差異が生じうる可能性があることがわかった。 それを踏まえて、消費者の行動に関連する税制の変更の効果を考えるにあたっては消費者の属性(特に時間選好率やリスク回避)にも注目すべきであることを主張する。
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