日本の中央部, 白根火山の裾野に位置する草津には, “時間湯”と称される伝統的な入浴がある.これは強酸性泉を用いる, 47ないし48℃の高温泉浴の一種である.300年以上にわたり, 種々の疾患をもつ多くの患者が草津を訪れ, 時間湯を行ってきた.これら患者の大多数は, 湿疹, 皮膚炎, 乾癬を含む皮膚疾患である.
本研究の目的は, この時間湯を用いる温泉療法の, 健康人と乾癬症患者に及ぼす免疫学的作用を明らかにすることにある.
全対象に1日3回, 連続3週間にわたり時間湯を行った.そして, 7人の健康人と3人の乾癬症例において, 免疫学的指標としてのT細胞サブセットとPHAやCon Aに対する反応性を検討した.結果はつぎのとおりである.
1) 末梢血リンパ球数は健康対象で, 時間湯後明らかに減少し, 一方, 乾癬症例では同じ泉浴後, 明らかに正常レベルに増加した.
2) 前者では, T細胞総数は時間湯後, 明らかに減少, ヘルパーT細胞も有意に減少, したがって, OKT4/OKT8比の軽度の減少傾向がみられた.後者では, 時間湯前, T細胞, ヘルパーT細胞の減少がみられた.これらの諸値は時間湯後, 乾癬症皮膚病変の改善とともに正常レベルに増加した.
3) 前者において検討したPHAやCon Aに対する反応性は, とくに時間湯前後に有意の変化はみられなかった.
健康成人で時間湯後, T細胞とくにそのうちヘルパーT細胞の減少がみられた原因や, その生理的意義はなお明らかではない.一方乾癬症例では, 程度の差はあれ, 皮膚病変の改善が時間湯後観察され, また浴前減少していたヘルパーT細胞の正常化がみられたが, この一種の高温浴療法が皮膚病変の改善をもたらした可能性があり, それとともに局所病変部に偏在していたヘルパーT細胞の血中への復帰が想定される.症例数が少ないので, 今後の検討成績に待つ必要がある.
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