日本生気象学会雑誌
Online ISSN : 1347-7617
Print ISSN : 0389-1313
ISSN-L : 0389-1313
29 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 山下 脩二
    1992 年 29 巻 2 号 p. 65-70
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    都市がつくりだした都市に特有の気候を都市気候といい, 都市化の進展に伴い都市の気候も変化する.この変化を明らかにし, 今後の予測をすることが都市気候学の課題である.ここでは都市気候の諸問題を指摘し, 生活環境との係わりについて述べる.都市気候は, 都市周辺のルーラルな地域との差で表現される.我々の生活環境に最も関係が深いのがヒートアイランド現象である.エネルギー使用量の増大, 特に冷房による熱の放出で, 夏の夜ばかりでなく昼間も出現する熱汚染型のヒートアイランドが問題である.ヒートアイランドの特徴は都市の周辺部で等温線が密になり, これをcliff, 都り市内部はなだらかに昇温するので, plateauという.しかし, 大都市では都市内部に2次的なヒートアイランドが形成する.他方, 都市の中には公園や緑地が存在し, クールアイランドを形成する.これをヒートシンクという.全体で一つの巨大なヒートアイランドが形成されている.東京は半径40kmにも達する.キャニオン内の現象からランドサットで把握されるヒートアイランドまで, スケールの違いによる現象や原因の違いだけではなく, スケール間相互の関連を明らかにする必要がある.ヒートアイランドのプラス面として都市に人間活動を集約させて地球全体のエネルギー消費量を節約するという議論があるが, これは甚だ疑問で, 生態系を考慮したアメニティ都市を構想すべきである.
  • ―都市化の健康影響―
    本橋 豊, 高野 健人
    1992 年 29 巻 2 号 p. 71-76
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    都市化・情報化の進んだ現代社会では, 昼夜の絶え間ない社会活動が広く行われており, 24時間都市化現象が進みつつある.このような24時間都市化現象は都市住民の生活習慣の夜型化, 不規則化を促し, 生体リズム特性を変化させることにより, 都市住民の健康に様々な影響を及ぼしているものと推察される.特に, 交代制勤務者や不規則生活者に認められる生体リズムの脱同調は生活リズムの健康影響の生理学的メカニズムとして重要である.24時間都市化の健康影響としてはその他に, アルコール依存などの精神保健上の問題の増加, 長時間労働に伴う作業関連疾患の増加, 生活リズムの乱れによる子供の自律神経失調症状の有訴者の増加などが挙げられる.これらの問題の解決のため, 公衆衛生学の立場からは, 快適環境のみならず, 健康の視点を考慮した都市づくりである健康都市の推進が必要不可欠である.
  • 松原 斎樹, 澤島 智明
    1992 年 29 巻 2 号 p. 77-82
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    生活環境の創造というテーマに関して建築学・住居学をバックグラウンドとする立場から人間の行動性体温調節の一部として環境調節技術を論じた.歴史的にわれわれの生活環境を振り返り, 現在の生活環境を歴史的な流れの中で位置づけて, 初めて将来的な展望が現れてくるといえよう.この中には伝統的民家などパッシブ建築の環境調節性能という側面と, 伝統的・現代的環境調節行動という人間の能動的行為という側面とが含まれている.人類にとっての住宅・建築のもつ生気象学的意義は大きいことを認識し, 住宅の環境調節機能にみられる地域性を論じ, 近代化の過程での没地域性の問題を指摘した.また, 環境調節のソフトウェアとしての居住者の能動的, 目的意識的行動に注目する必要性を述べた.また科学的に解明される問題と社会的に意志決定すべき問題とを区別する必要を指摘した.生気象学が人工環境の形成と利用における意志決定問題に対して, より大きな貢献を行うためには, さらに境界領域を取り込んで発展して行く必要がある.
  • ―環境工学の立場から―
    清水 康宏
    1992 年 29 巻 2 号 p. 83-89
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    快適な生活環境が求められる中で, ビルの空気調和に要するエネルギーが増大している.ここでは, 環境工学的立場からビルの空気調和の将来および自然と共生できる建築づくりの手法について述べた.
  • 小玉 祐一郎
    1992 年 29 巻 2 号 p. 91-95
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    快適で便利な居住環境の形成は建築の基本的な役割であるが, その役割を果たすためにもっぱらエネルギーをもって対処しようとしてきたのが近代以後の建築の特徴である.その結果, エネルギーの多消費による環境へのインパクトの増大のみならず, 人工的な室内環境の無味乾燥さをも招いている.このようなエネルギー志向型の方法に対して, 地域の気候特性に適応した建築デザインによって快適さを得ようとする環境志向型の方法がある.これは古くからの伝統的な建築の方法でもあるが, 改めて科学的な見直しと新たな展開が始まっている.そのようなデザイン手法は, 時にバイオクリマティックデザインと呼ばれる.
  • 小川 徳雄
    1992 年 29 巻 2 号 p. 97-100
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    至適温度の定義ははっきりせず, 主観的至適温 (快適温) , 生理的至適温 (中性温域) , 生産的至適温 (経済温度) などの意味に使われる.ヒトは優れた体温調節機能, 温度適応能をもつが, さらに, 優れた文化的適応能により快適環境を創造してきた.しかし過度に温熱快感を求めるあまり, 種々の障害を生じ, とくに温熱ストレスの不足により生来の温度適応能を失うおそれがある.健康維持のために至適な温度環境は主観的至適温や生理的至適温とは一致しない.またこれは一定不変のものではなく, 年齢や生理機能, 時間生物学的な要因などによって変動しうるものと考えられる.
  • 福岡 義隆, 高橋 日出男, 開発 一郎
    1992 年 29 巻 2 号 p. 101-106
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    都市気候研究の重点課題の一つである「都市気候のコントロール」に関し, 都市河川と都市緑地の都市大気環境に及ぼす影響について, 筆者らの最近の研究の概要を紹介する.広島市, 三次市, 東広島市での実態調査の結果, 川と緑地は都市気温緩和の働きはあるが, 沿岸都市では潮の干満の影響, 内陸の盆地都市では霧の影響なども無視できない.また, 都市キャノピー面 (屋上) での気温分布には水や緑地の効果は出ていないが, 鉛直観測結果では海風の侵入の仕方とヒートドームの形成に川の存在が影響していることがわかった.都市内水面や緑地など蒸発面の面積率の大きいところほど都市気温が緩和されることが, LANDSATなどの画像解析によっても明らかになった.
  • 丹羽 健市
    1992 年 29 巻 2 号 p. 107-112
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    浸水時体温調節反応に及ぼす体脂肪厚の影響を検討するために, 15名の被験者は体脂肪率に応じて3群に分類された (A群: 11.6±0.6%, B群: 9.3±0.7%, C群: 8.4±0.6%) .被験者は体温上昇期 (9: 00~12: 00) に21度の静水に30分間浸水した.浸水時, 種々の時刻に直腸温, 皮膚温, ふるえ持続時間そして酸素摂取量が測定された.又, 熱産生量, 呼吸性蒸発熱放散量, dryの熱放散量, 貯熱量そして体組織熱コンダクタンスを算出した.熱産生量はC群で最も大, A群で最も小であり, 両者間に有意差が認められた.対流・伝導熱放散量はA群に比してB, C群の方が19~51%大であり, 貯熱量はA群に比してB, C群の方が20~52%大きい負の値を示した.ふるえは平均体温の低下に伴い増大し, 体組織コンダクタンスはC群で最も大, C群で最も小であった.これらの所見は体脂肪率の小さい被験者ほどmetabolicであるのに対し, 体脂肪率の大である被験者ほどinsulativeである可能性を示唆している.
  • 山下 均, 佐藤 昇, 斉藤 大蔵, 若林 和夫, 上野 伸正, 大野 秀樹
    1992 年 29 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    寒冷馴化による褐色脂肪組織 (BAT) の増大を細胞増殖の面から検討した.常温 (WA, 25℃) と低温 (CA, 5℃) 環境下において4週間飼育したラットより, 血漿および肩甲骨間から採取したBATの抽出液を調製し, in vitroでラット褐色脂肪細胞の増殖と血管新生に対する効果を検索した.寒冷馴化によりBATは著明に増大したが, WA, CAラットいずれの抽出液も, in vitro褐色脂肪細胞とウシ血管内皮細胞の増殖を促進し, 両群間に差はみられなかった.一方, CAラット血漿はWAラット血漿に比べてin vitroで各細胞の増殖を強く促進したばかりでなく, 血管新生に対しても高い効果を示した.以上の結果より, 寒冷馴化によるBATの増大は血漿中の液性因子により強く影響を受けると共に, 血管新生と密接な関係があることが示唆された.
  • 松本 孝朗, 小坂 光男, 山内 正毅, 大渡 伸, 土屋 勝彦, 李 嘉明, 楊 果杰, 鶴田 雅子, 横山 直方, 和泉 元衛, 長瀧 ...
    1992 年 29 巻 2 号 p. 119-125
    発行日: 1992/08/01
    公開日: 2010/10/13
    ジャーナル フリー
    脳温の指標となると考えられる鼓膜温の測定に, 放射赤外線温度計の原理を応用した放射鼓膜温計の基礎的・臨床的有用性を検討した.基準黒体を用いた精度の検討では, 32℃から42℃の範囲で測定誤差は0.1℃以下と高い精度を示した.入院患者を中心に35名を対象に臨床的精度を検討した.放射鼓膜温計で測定した鼓膜温は, 水銀体温計で測定した舌下温, 腋窩温よりも約0.5℃, 0.9℃高温であったが, 両者との間に高い正の相関を認めた.また, 接触型サーミスタで測定した鼓膜温との比較でも, 高い正の相関を示したが, その測定値は約0.78℃高値であった.放射鼓膜温計での正常値を認識した上で使用すれば正しい測定は可能であり, 簡易な操作でわずか3秒で測定できる点, 臨床的有用性は高いと思われる.
feedback
Top