樹木の場合, 年々の肥大生長量は年輪幅として記録される.本研究では, 津山・浜田・呉の3地点で採取した樹木サンプルの1960年―1993年の年輪クロノロジーを気象データ・大気汚染濃度データと対比し, 環境ストレスの影響を評価した.同一地点内において生長パターンの類似する個体を抽出し, その時系列を3地点間で比較すると, 生育トレンドの共通する特異年が確認され, その年の気象データにも平年と異なる傾向が検出された.1980年と93年は日本全国で記録的な日照不足と多雨に見舞われ, 両年の年輪幅が一様に抑制されていることから, 気候ストレスが樹木の肥大生長を抑制したと推定された.同様の傾向は1978年夏の乾燥年にも現われ, 長期間の水ストレスも維管束形成層の活動を阻害すると推察された.さらにこれらの気候ストレスは伸長生長を加味した幹材積の推定値にも現われ, 夏の気候が地上部の増加量も規定していることが判明した.また, 呉のサンプルの長期トレンドには大気汚染濃度との問に逆相関がみられ, 1970年代までの生長パターンと80年代以後のパターンの変化にSO
2, NO
2濃度の長期変化が関与していることが示唆された.これらの事象は林分そのものの持つ要因以外の環境によるものであり, 極端な環境ストレスが樹木の生育をコントロールすることを実証する根拠となる.
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