日本生気象学会雑誌
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39 巻, 1,2 号
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原著
  • ―イチョウ,イロハカエデの紅(黄)葉日を例として―
    松本 太, 福岡 義隆
    原稿種別: 原著
    2002 年 39 巻 1,2 号 p. 3-16
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/10/16
    ジャーナル フリー
    近年,地球温暖化あるいは都市の温暖化に呼応するように植物の発芽や開花,紅葉,落葉などの植物季節に変化が見られるようになった.例えば,イチョウ(Ginkgo biloba)やイロハカエデ (Acer palmatum) の紅葉日は年々遅くなってきている.しかし,最近のヒートアイランドに象徴される都市気候と植物季節の関係を調べた研究はいくつかあるが,サクラ(ソメイヨシノ-Prunus yedoensis)の開花に関してのものが多い(小元・青野,1990;増田・吉野・朴,1999).そこで,本研究では,都市の気温分布と秋のイチョウ,イロハカエデの紅葉(黄葉)現象との関係を熊谷市を例に調査した.都市気候が紅葉(黄葉)現象に与える影響を評価すること,さらには,これらの紅葉(黄葉)現象が地球温暖化も含んだ都市の温暖化などの気候環境を表す指標となりうるかどうかを探ることを目的とした.その結果,紅葉現象は都市の郊外部では都市の中心部より,イチョウは約2~3週間,イロハカエデは約1週間~10日早いという傾向が見られた.しかし,イチョウの黄葉日は,全体として,時期的なばらつきが大きく(最大で約3~4週間),同一の観測地域内で個体差がみられる.したがって,その黄葉現象に対しては,気温に加えて,植物学的な要因(発芽時期の違い,雌雄の違い)なども関わっていると考えられる.イロハカエデについては,紅葉日の分布はヒートアイランド現象が顕著であった夜中の気温分布とよい対応を示しており,ヒートアイランド現象が紅葉現象に影響を与えていると結論できる.よってイロハカエデの紅葉現象は都市の温暖化などの気候環境を表す指標として有効である.
  • 金 成禧, 岩崎 房子, 田村 照子
    原稿種別: 原著
    2002 年 39 巻 1,2 号 p. 17-24
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/10/16
    ジャーナル フリー
    日本と韓国における小学生の着衣実態を明らかにする目的で,1997年の春夏秋冬,各国約70名を対象とした着衣調査が行なわれた.調査項目は室内・戸外の気温・湿度,着用被服の素材・形状,着用感で,各着衣状態の写真撮影も実施した.また,市販の単品被服201着を収集・リスト化し,このリストをもとに調査被服の厚さ・重量を推定,単品被服及び着衣全体のclo値をMcCulloughらの式より求めた.結果,日本・韓国共に夏<春・秋<冬(室内)<冬(戸外)と着衣量の明瞭な季節変化を示し,日本の女児を除いて向寒期の秋より向暖期の春で大なる傾向がみられた. 調査日の気温と着衣重量・clo値の関係をみると,夏を除く季節で韓国が日本より有意に大であり,韓国児童の厚着傾向が認められた.しかし,これを調査月の平均気温との関係でみると,両国ほぼ一致した関係曲線上にあり,韓国の児童は調査当日というよりもその前後期間の外気温の平均値に合わせて着衣していることが示され,冬季の外気温が日本よりも約3~5℃低いことが厚着の一要因と考えられた.
  • ―小児の低体温問題―
    石井 好二郎
    原稿種別: 原著
    2002 年 39 巻 1,2 号 p. 25-30
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/10/16
    ジャーナル フリー
    本研究は小児の体温の現状を明らかにするため,小学生(4~6年生)1,090名,中学生(1~3年生)453名,高校生(1~3年生)228名の起床時における口腔温を水銀体温計を用いて測定(5分値)し,以下の結果を得た. 1)小学生は35.30~37.40℃の間に分布し,その平均値は36.36℃(SD:0.33℃)であり,最頻値は36.4℃(14.1%)であった. 2)中学生は35.45~37.14℃の間に分布し,平均値は36.28℃(SD:0.23℃)であり,最頻値は36.2℃であった. 3)高校生は35.40~36.72℃の間に分布し,平均値は36.25℃(SD:0.3℃)であり,最頻値は36.3℃であった. 4)先行研究において低体温児と定義されている 36℃未満を示す者は,小学生145名(13.3%),中学生45名(9.9%),高校生39名(17.1%)であった.本研究はわが国で始めて,比較的大人数かつ正確に小児の口腔温を測定した研究といえる.今後は本研究と同条件で小児の体温を測定することにより,経年的変化を論じることが期待される.
  • 池畑 孝次郎, 石部 裕一, 広沢 寿一, 西村 友紀子
    原稿種別: 原著
    2002 年 39 巻 1,2 号 p. 31-35
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/10/16
    ジャーナル フリー
    気象変化に伴う天気痛は広く知られた事実であるが,気象因子の何を身体のどの部位で捉えているかについては不明な点が多い.下肢伸展挙上試験に示される筋緊張が気圧に同期して変化する傾向について我々は既に報告した.この現象を更に検証する目的で人工的に気圧を調節して下肢伸展挙上試験の角度(SLR)を計測した.対象は健康成人8名(女性2名,男性6名,平均年令26.3才)である.SLRは1)大気圧,2)20hPa加圧,3)60hPa減圧,4)40hPa加圧で計測した.その結果,SLRは気圧に同期して有意に変化し,気圧が上昇するとSLRは増加し,気圧が低下すると減少した.日常体験する範囲の気圧変化でSLRに示される筋緊張が有意に変化することが明らかになり,関節が気圧の検出器で関節受容器反射を生じている可能性が高いと考えられる.天気痛の一機序を説明し得る可能性を指摘した.
  • 星 秋夫, 稲葉 裕
    原稿種別: 原著
    2002 年 39 巻 1,2 号 p. 37-46
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/10/16
    ジャーナル フリー
    わが国の過去41年間(1959~1999年)における暑熱障害による死亡がどのような場所で発生したかを検討するとともに,暑熱障害死亡率と東京,名古屋,大阪での最高気温や真夏日の日数の気象条件との関連性について検討した.暑熱障害の死亡数は人口動態統計の「過度の高温への曝露」より求めた.1959~1999年までの41年間における暑熱障害の死亡件数は4,053件であり,年平均で約98.9件,死亡率(人口10万対)では0.0875人の割合で発生した.発生場所において,家庭での死亡は586件,居住施設13件,学校・サービス施設等61件,スポーツ施設66件,街路・ハイウエイ141件,工業地域111件,農場329件,その他明示された場所1,171件,詳細不明1,575件であった.65歳以上での死亡率が最も高く,次に0~4歳で高値を示した.また,0~4歳,65歳以上,家庭と農場では男女間の死亡率に大きな差異を認めないが,その他の年齢階級,発生場所では男性に比べて女性の死亡率が著しく低値を示した.1990-1999年の死亡率は1959-1968年よりも高値を示すが,1959-1968年と1990-1999年の年齢調整死亡率は同水準にあった.死亡率と東京,大阪,名古屋で観察された最高気温,真夏日の日数との間には有意な正の相関関係が認められた.近年10年間における高い暑熱障害の死亡率の要因として,人口の高齢化,暑熱環境の悪化が考えられる.
短報
  • ペトロフ ラウラ・オアナ, 中越 信和
    原稿種別: 短報
    2002 年 39 巻 1,2 号 p. 47-55
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/10/16
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,大気の質が人々の健康に重大な影響を及ぼしているルーマニア,イアシ市の都市環境の公害のレベルを調査することである.SO 2,NO2,NH3,および粉塵公害物質を12カ所の採取地点においてそれぞれ6年間にわたって測定した.統計解析の結果,大気汚染物質の濃度は低いものの,パクラリ地点においては,ソコラ地点や「鉄道駅」地点よりも高い値が観測された.さらに,NO 2に限っては,パクラリ地点とソコラ地点で,次にパクラリ地点と「鉄道駅」地点において有為な差が観られた.これらの観測地点のNO 2の濃度の変化に及ぼす交通量,風速,風向による影響は,14.2%以下にとどまった.汚染による影響が少なかった調査地点は,いずれも植生の豊富な場所であったことから,植生は公害のレベルを抑えるのに貢献していることもうかがえる.大気汚染に耐性のある樹種を植樹することをにより,公害ゾーンの植生面積を増大することが望ましい.さらに,大気汚染物質の濃度が予想外に高いゾーンにおいては,より多くの調査地点を設ける必用がある.
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