日本生気象学会雑誌
Online ISSN : 1347-7617
Print ISSN : 0389-1313
ISSN-L : 0389-1313
46 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 森田 えみ, 永野 純, 福田 早苗, 中島 皇, 岩井 吉彌, 山本 博一, 浜島 信之
    2009 年 46 巻 4 号 p. 99-107
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/22
    ジャーナル フリー
    数時間の森林浴は心身に良い影響があることが報告されているため,本研究では横断研究により,森林に行く頻度と健康状態との関連を評価した.アウトカムは,主観的健康状態・主観的ストレス状態・生活習慣病の有無とした.参加者は,東京大学千葉演習林(2001 年 4 月の 2 日間)と京都大学芦生演習林(2001 年 11 月の 2 日間)に訪れた人で,計 279 人を解析対象とした.森林に行く頻度が高いほど,有意に主観的な健康状態が良好である割合が高く,不良である割合は低かった.森林に行く頻度と主観的なストレス状態に関しては,有意ではないものの,よく森林に行く群は良好である割合が高く,不良である割合が低かった.一方,生活習慣病の有無と森林に行く頻度については,関連は認められなかった.森林に行く頻度と健康状態とに関連がある可能性が示唆されたが,本研究の研究デザインでは因果関係が問えない為,今後,更に検討する必要がある.
  • 長野 和雄, 小松 充典
    2009 年 46 巻 4 号 p. 109-119
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/22
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は出雲築地松の西日遮蔽性能を実測により確かめ,幾何学的評価により定量的に捉えることである.45 軒の築地松形態を実測し,代表値や分布範囲を明らかにした.屋敷周りの屋外照度を築地松を有する 15 点,雑木を有する 11 点,いずれも有さない 20 点の別に測定したが,昼光率・昼光遮蔽率に築地松と雑木の間で明確な差は認められなかった.住宅西側に築地松を有する 1 軒,有さない 1 軒について日射量・外気温・外壁内外表面温・室温を測定し,築地松を有する 1 軒では日射量が著しく小さく,外気温・外壁内外表面温・室温とも明らかに低かった.築地松形態から幾何学的に推定した日射量は実測値と良く対応し,45 軒の築地松形態の代表値に基づいて導いた日射遮蔽率は 8 割強であった.
  • 藏澄 美仁, 土川 忠浩, 近藤 恵美, 大和 義昭, 飛田 国人, 深川 健太, 堀越 哲美, 松原 斎樹
    2009 年 46 巻 4 号 p. 121-137
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/22
    ジャーナル フリー
    生活空間では床面と直に多くの体表面が接する平座位や臥位姿勢をとり,人体と接触する空間構成面あるいは物体の表面温が気温と等しくない場合には,その影響を無視し難い.したがって,気温だけではなく熱放射や風速,湿度,熱伝導という環境要素を加えて人間の温度感覚を考える必要がある.これらの環境要因を複合して単一の変数として表現することを目的として温熱環境評価指標が開発されてきた.しかし,人体の熱収支に基づく温熱環境評価指標は熱伝導の要因の組み込みが充分ではない.さらに,複数の環境要因を複合化して単一変数として表現するのみでは,相互の環境要因の影響度を考慮した温熱環境の計画や設計は極めて困難である.そこで,行動性体温調節を考慮した温熱環境の評価を可能とするために,熱伝導を組み込んだ新たな温熱環境評価指標である伝導修正新有効温度 ETF を定義した.そして,この体感温度指標の妥当性を検証するために,被験者を用いた実験をおこない,その特性を明らかにした.伝導修正新有効温度 ETF は,風速と熱放射,湿度,熱伝導の影響をそれぞれ温度換算し,気温に対して独立に加算表現可能な温熱環境指標であることを示した.そして,伝導修正新有効温度 ETF は気温と風速,熱放射,湿度,熱伝導の影響を総合的に表現する温熱環境指標であることを実証した.この指標を用いることにより,体感への総合的な影響と個別の気象要素の影響を,同一評価軸上で数量化して表現可能である.伝導修正新有効温度 ETF は,平均皮膚温と強い相関が認められ,温熱環境評価指標として有効であることを明らかにした.また,姿勢条件というパラメータを用いることで全身温冷感申告値と全身快適感申告値との間にもよい対応関係が認められ,温熱環境評価指標として有効であることを明らかにした.伝導修正新有効温度 ETF を用いることで環境要因の個別の制御目標値が立案できる.加えて,環境調節行為を体感温度で表現することが可能であることを示した.
  • ―Yaglou 式との違いが人体に及ぼす影響
    佐古井 智紀, 持田 徹
    2009 年 46 巻 4 号 p. 139-148
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/22
    ジャーナル フリー
    著者らは既往研究において,熱平衡式に基づいて湿球温 Tw,グローブ温 Tg,気温 Ta で人体の熱平衡式を得,それを皮膚温で基準化し,Yaglou らの2つの WBGT 実験式と同形で表わされる理論式(以降 WBGT* 式と記述)を導いた.Tw,Tg,Ta の変数係数を風速・代謝量・着衣量などの実数値を代入して試算し,日射の影響を無視できる室内のような環境で用いる指標として WBGT*=0.85Tw+0.20Tg を,日射の影響を無視できない屋外環境で用いる指標として,気温 Ta の係数がマイナスとなる WBGT*=0.84Tw+0.30Tg−0.08Ta を得た.
    上述の結果を受け,本研究は,著者らが示した WBGT* と Yaglou らの式の係数値の違いが人体に及ぼす影響を検討すること,および日射の影響を無視し得ない環境で使用する導出式の,Ta に掛かる係数がマイナス値をとる物理的な意味を考えることの2点に目的を置いた.結果は以下にまとめられる.
    (1)Yaglou らの式から得られる WBGT の導出式の WBGT* に対する 1.5℃のずれは,気温換算で 4~5℃のずれに当たる可能性がある.Yaglou らの WBGT は導出式と比べて高湿条件で低くなる.
    (2)気温 Ta の係数が負号を示すのは,グローブ温 Tg と人の作用温度 Top とのずれを補正する為,および,水蒸気圧を湿球温 Tw で表現したことにより,Ta の上昇が水蒸気圧の低下を意味する為と解釈できる.
  • ―定点観測結果を用いて―
    丸田 直美, 田村 照子
    2009 年 46 巻 4 号 p. 149-158
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/22
    ジャーナル フリー
    本研究は,既発表の調査結果をもとに,定点観測写真上の被験者の全着衣量(clo 値)を外観から推定することを試み,既報データや温熱指標と比較することによって,外観から人々の着衣量を推定する方法の可能性を探ることを目的とした.着衣量の推定に当たっては,ある季節の外衣に対して,その内衣及び下衣として普段着用している衣服の種類をアンケート調査し,これを基に,対象となる外観に対応する着用衣服の種類と着衣枚数を推定した.推定された各単品衣服に clo の文献値を当てはめ,和をもって着用衣服全体の clo 値とした.算出された clo 値にはかなりのバラツキがみられたものの,男性の clo 値が女性より大きい傾向を示し,男女とも平均 clo 値は調査日の日内平均気温と有意な相関を示した.気温と clo 値の関係は既報着衣量調査結果の範囲内に位置した.温熱指標 SET* の快適域との比較では,27℃以下の環境においては快適域の範囲内にあり,27℃以上の環境においては男性の推定着衣量が快適域より高くなり,現代人の現実の着衣量の実態が示された.これより,外観から着衣量を推定するという本研究の調査方法の妥当性が示唆された.
  • 久米 雅, 芳田 哲也, 常岡 秀行, 木村 直人, 伊藤 孝
    2009 年 46 巻 4 号 p. 159-168
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/22
    ジャーナル フリー
    本研究は水循環スーツ(WPS)着用時の熱抽出量(HE)や皮膚温,皮膚血流(SkBF)と運動時の深部体温変動との関係について解析するため,健康な成人男性7名を対象とし,30℃に設定した部屋にて 250 W/m2 の軽度負荷で自転車漕ぎ運動を40分間行った.実験条件は (1) 18℃(以下,W18),(2) 24℃(以下,W24),(3) 30℃(以下,W30),(4) 32.5℃(以下,W32.5),(5) 35℃(以下,W35)の水を WPS に循環させる5条件に,競泳用パンツのみを着用した裸体(NU)を加えた計6条件にて,運動時の中枢温(Tes),活動部位深部温(大腿部深部温,T-d.thigh),平均皮膚温(Tsk),心拍数(HR),SkBF と総発汗量(TSL)を測定した.また HE は WPS の入口と出口の水温差から算出した.その結果,NU と W24 の Tes,T-d.thigh,HR,TSL は類似していたが,W32.5 と W35 のそれらは NU よりも高値を示した.W30,W32.5,W35 条件による SkBF の上昇は Tes の上昇(⊿Tes)が0.3℃を超えると抑制された.しかし,NU, W18, W24 条件では SkBF の上昇に伴って ⊿Tes は0.3℃程度に維持された.また運動終了時の ⊿Tes は Tsk が35.5℃を超え,HE が 125 W よりも小さいと顕著に上昇した.さらに WPS 着用条件について,HE は T-d.thigh(⊿T-d.thigh,r=−0.807,p<0.001)や Tsk(⊿Tsk,r=−0.856,p<0.001)の安静時からの変化量,および末梢の血流量とその温度の指標と考えられる ⊿Tsk×SkBF(r=−0.857,p<0.001)とも有意な負の相関関係を示した.運動終了時の ⊿Tsk×SkBF が負である場合は ⊿Tes は一定の値を維持したが,⊿Tsk×SkBF が正である場合は ⊿Tes は顕著に上昇した.これらの結果から,WPS 着用時の異なった循環水温条件において,軽運動時の ⊿Tes を抑制できる HE,⊿Tsk や ⊿Tsk×SkBF の閾値が存在し,それらは末梢の血流量とその温度に関係することが示唆された.
書評
feedback
Top