日本生気象学会雑誌
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47 巻 , 4 号
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原著
  • ―Yaglou らの WBGT 式の温熱生理的意味と特徴―
    持田 徹, 佐古井 智紀
    2010 年 47 巻 4 号 p. 139-148
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/17
    ジャーナル フリー
    Yaglou らが創案した WBGT(Wet Bulb Globe Temperature,湿球グローブ温度)は,米国陸軍の兵士を被験者として得たデータに基づく実験式であり,熱中症の予防に広く使用されている.
    著者らはこれまでに,湿球温度計として熱放射の影響を無視できる断熱飽和温度の使用を前提として,熱平衡式を基に,日射下の戸外で使用する WBGT 式として WBGT=0.84Tw+0.30Tg−0.08Ta,日射を無視できる屋内で使用する式として WBGT=0.85Tw+0.21Tg (=Ta) を導いた.本研究では,断熱飽和温度ではなく,Yaglou らの WBGT と同様に自然湿球温度を利用することを前提として,熱平衡式に基づく WBGT 式として,WBGT=0.94Tw+0.16Tg−0.07Ta(日射下の戸外で使用),WBGT=0.94Tw+0.10Tg (=Ta)(日射を無視できる屋内で使用)の2式を導いた.自然湿球温度計を用いる場合においても,断熱飽和温度を用いた場合と同様に日射下で用いる式の気温の係数が物理的に意味のあるマイナス符号となること,自然湿球温度計を用いる場合の方が断熱飽和温度を用いる場合より,湿球の重み係数が大きくなることを確認した.
  • 伊藤 僚, 山下 直之, 中野 匡隆, 山本 彩未, 松本 孝朗, 北川 薫
    2010 年 47 巻 4 号 p. 149-156
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/17
    ジャーナル フリー
    雨や風に暴露されると体温低下やエネルギー消費量が増加することが考えられる.そこで歩行運動中の雨と風がヒトの体温反応および代謝反応に及ぼす影響について検討した.7名の男性が歩行速度 1 m/s のトレッドミル歩行運動を中性温環境(CON),中性温+降雨環境(RAIN),中性温+風環境(WIND)でそれぞれ30分間実施した.3条件の環境温は24℃に設定した.相対湿度は RAIN(80~90%RH)を除いて 50%RH とした.RAIN の降雨量は 30 mm/h,WIND の風速は 3 m/s に設定した.歩行運動中は歩行速度と等しい向かい風を各条件で送風した.歩行中,直腸温は各条件とも緩やかに上昇した.RAIN と WIND の平均皮膚温は安静時から運動終了時にかけて約4℃低下し,CON と比較して有意に低い値を示した.安静時および運動時の酸素消費量,心拍数,主観的運動強度,血中乳酸濃度は条件間に有意差は認められなかった.これらの結果から,運動による熱産生と末梢血管収縮が熱損失を防いだと考えられ,中性温環境では雨と風が歩行運動中の体温反応・代謝反応に及ぼす影響は小さいことが明らかとなった.
  • 大野 秀夫, 西村 直記, 山田 邦之, 清水 祐樹, 岩瀬 敏, 菅屋 潤壹
    2010 年 47 巻 4 号 p. 157-164
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/17
    ジャーナル フリー
    帯電微細水分粒子発生機から発生する(−)帯電の直径 20~70 nm の微細水分粒子は角質細胞間隙(約 50 nm)に浸透し角質層を潤わせ,皮膚表面においては空気中の水分子を引き寄せて皮脂膜を形成し水分蒸散のバリア効果を高めることにより皮膚の水分保持に貢献するという仮説検証を目的として実験を行った.実験は24℃,相対湿度35%の人工気候室で19名の健常な成人女性を被験者として帯電微細水分粒子発生機から帯電微細水分粒子を発生させる条件(帯電微細水分粒子発生群)と発生させない条件(コントロール群)において皮膚コンダクタンスおよび経皮水分蒸散量(TEWL:Transepidermal water loss)をそれぞれ Skicon-200(アイ・ビイ・エス社製)および VapoMeter(Delfin 社製)を用いて測定した.外眼角における皮膚コンダクタンスはコントロール条件下では時間経過とともに徐々に減少したが,帯電微細水分粒子発生条件下では一定を維持した.頬における TEWL はコントロール条件下では減少したが,帯電微細水分粒子発生条件下では減少しなかった.これらの結果から,1)20~70 nm の帯電微細水分粒子は外眼角のような角質層が薄い部位では容易に角質層に吸収され,浸透することにより皮膚の保水状態が維持される;2)一方,頬のように角質細胞が大きい部位では帯電微細水分粒子が皮膚表面で吸着された後,表皮へ浸透するよりむしろ周囲空気中へ蒸散する量が多いことが推察される.これらの結果は文頭で述べた仮説と矛盾しないものであるが,生理的機序については今後の課題である.
  • 渡邊 慎一, 堀越 哲美, 冨田 明美
    2010 年 47 巻 4 号 p. 165-173
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/17
    ジャーナル フリー
    屋外における熱的快適性および熱的危険性を評価する際,人体の日射吸収率は重要な要素である.著者らは前報において,黒色および白色の平面布の日射吸収率を,それぞれ0.67と0.21と報告した.本研究では,複雑な形状を有する人体に衣服を着用させた状態で日射吸収率を測定した.測定には長短波放射計および日射計を用いた.測定に用いた衣服は,黒色および白色の布生地から製作された上衣および下衣である.これらを組み合わせた4条件(B-B, B-W, W-B, W-W)で測定を行った.実験により以下の知見を得た.本研究の測定手法を用いることによって,形状や色彩の異なる多様な衣服を組み合わせた場合でも適切に日射吸収率が測定できる.着衣時人体の日射吸収率は上下黒色衣服が0.76で,上下白色衣服が0.38であった.上下異なる色彩を組み合わせた衣服および被験者の日常着を着用した場合の日射吸収率はこれらの値の範囲内であった.
  • 星 秋夫, 中井 誠一, 金田 英子, 山本 享, 稲葉 裕
    2010 年 47 巻 4 号 p. 175-184
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/12/17
    ジャーナル フリー
    本研究は人口動態統計死亡票を用い,熱中症死亡の地域差について検討した.さらに,ICD-10 適用前・後(以降 ICD-10 前後と略)における熱中症死亡の差異についても検討した.
    1975年~2007年までの33年間における熱中症による死亡数は5,877人であり,年平均の死亡数は178人/年であった.ICD-10 後の死亡率,年齢調整死亡率は ICD-10 前よりも有意に高値を示した.また,いずれの年齢階級においても ICD-10 後の死亡率は ICD-10 前よりも有意に高値を示した.死亡の発生場所において,スポーツ施設,その他明示された場所を除くすべての場所で ICD-10 前よりも ICD-10 後に発生割合が増加した.しかし,スポーツ施設,その他明示された場所においては ICD-10 後,その発生割合は急激に低下した.
    死亡率は秋田県が最も高く,次いで鹿児島県,群馬県となる.これに対して,北海道の死亡率は最も低く,神奈川県,宮城県で低値を示した.各都道府県における人口の年齢構成の影響を除くために,年齢調整死亡率をみると,沖縄県が最も高くなり,ついで鹿児島県,群馬県となり,北海道,神奈川県,長野県が低値を示した.最高気温/年と死亡率,年齢調整死亡率との間には高い有意水準で相関が認められ,年最高気温の差異は各地域の熱中症死亡に影響をもたらす要因の一つであることが認められた.
    以上のことから,熱中症の死亡率や年齢調整死亡率は日本海側で高く,太平洋側で低い傾向を示すとともに,内陸に位置する群馬県,埼玉県,山梨県で高値を示した.また,沖縄県,鹿児島県で高く,北海道で低いことが認められた.このような熱中症の死亡率や年齢調整死亡率の都道府県の差異は夏季の暑熱環境の差,いわゆる熱ストレスの差に起因していると考えられる.
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