日本生気象学会雑誌
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52 巻, 4 号
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追悼
総説
  • 谷口 英喜
    2015 年 52 巻 4 号 p. 151-164
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2015/12/17
    ジャーナル フリー
    経口補水療法(ORT: oral rehydration therapy)とは,脱水症の改善および治療を目的として水・電解質を経口的に補給する治療方法である.2003 年に公表された米国疾病管理予防センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)のガイドラインでは,小児の軽度~中等度の脱水状態に対して ORS の使用が推奨されている.わが国では,2000 年代より臨床現場での活用が活発になってきた.高齢者においては,飲水および喫食量の不足によって起きた慢性的な脱水症に対して活用されている.また,暑熱環境下の労働などの産業衛生領域,マラソンや相撲などの暑熱環境下におけるスポーツ領域,手術前後の輸液療法の代用として周術期領域,熱中症の治療として救急領域でも活用されている.特に,2015 年には日本救急医学会から,熱中症診療ガイドライン 2015 が公表され,その中で熱中症患者に生じた脱水症に対して ORT を実施することが推奨された.今後,熱中症対策として ORT を早期に実施することで,熱中症の進行および熱中症による臓器障害の発生を抑止することが期待される.
原著
  • 鈴木 英悟, 樫村 修生
    2015 年 52 巻 4 号 p. 165-174
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2015/12/17
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,気温 15℃,23℃ および 30℃ 環境下運動時において,口渇感の変化に影響を与える可能性が考えられる体温調節反応について明らかにし,口渇感の変化から熱中症予防の評価が可能かどうかについて検討することである.測定項目および結果は以下に示す.被験者は,健康な年齢 20 歳から 22 歳の男子大学生の 8 名を用い,各被験者について異なる環境条件下で 60 分のエアロバイクによる運動を 3 回実施した.測定項目は,環境温度,体重,心拍数,口渇感,総発汗量,脱水率,水分補給量,舌下温,口腔水分率,温冷感であった.運動による口渇感は,15℃ および 23℃ に比較して 30℃ で有意に高値を示した(p<0.05).運動による総発汗量は,15℃ および 23℃ に比較して 30℃ で有意に高値を示した(p<0.05).運動による舌下温上昇量は,15℃ および 23℃ に比較して 30℃ で有意に高値を示した(p<0.05).運動による口腔水分率は,3 条件の間において共に差は認められなかった.運動による 15℃ および 23℃ に比較して 30℃ で有意に高値を示した(p<0.05).運動による心拍出量は,15℃ および 23℃ に比較して 30℃ で有意に高値を示した(p<0.05).また,口渇感の変化に大きな影響を与える因子として最も脱水率が高かった.以上のことから,運動中に主観的評価である口渇感を調査することは,脱水状態を推定できることから,暑熱環境下運動時における熱中症予防対策において有効な方策の1つとなり得ることが確かめられた.
  • 井上 智晴, 永井 信
    2015 年 52 巻 4 号 p. 175-184
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2015/12/17
    ジャーナル フリー
    人々に文化的な生態系サービスを供給する開花や紅葉などの植物の季節変化は,観光資源としての価値を持つ.しかし,気温変化に伴う植物の季節変化の期日の変化は,観光客数に影響を与える可能性がある.そこで,気温変化が開花観光に与える影響の評価を目的とした事例研究として,日本でも有数のヒガンバナの群生地を対象に,ヒガンバナの開花日,気温,観光客の移動の利便性向上を目的とした鉄道の特別運行期間,開花期間中の観光客数の対応関係を調査した.その結果,(1)開花日は 8 月下旬及び 9 月上旬の気温と正の線形的相関を持つこと,(2)8 月中旬以前に発表された特別運行期間の開始日は実際の開花開始日と一致せず,その結果,観光客数減少に寄与する可能性が示された.植物の季節変化の期日の年々変化を介して気温変化が開花観光に与える影響の緩和には,生物季節情報と社会統計情報との統合的な解析・評価と,それに基づいた対応が重要である.
  • 佐藤 布武, 橋本 剛, 豊川 尚, 石井 仁
    2015 年 52 巻 4 号 p. 185-197
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2015/12/17
    ジャーナル フリー
    本研究では,複合扇状地上に位置し,洪水履歴を持つ伝統集落における,気候風土に根ざした集落規模での住環境形成手法の実態を明らかとすることを目的とした.屋敷森が集落内に点在する独特の集落景観を持つ福島県会津若松市二日町集落を対象に,集落全体の構成原理を明らかとする集落構成調査と,冬季における防風効果を検証する小気候調査を実施した.集落構成調査の結果,二日町集落の特徴的な集落空間は,水路や石垣,屋敷森の配置により洪水時の防水・排水に適した配置となっている一方で,各屋敷地では冬季の北・西方向からの季節風を防ぐ屋敷森・付属屋配置となっており,それらが反復されることで集落全体が形成されていることを明らかとした.また,小気候観測の結果,集落規模での冬季における防風効果が確認できた一方で,一定風速以上の条件下では集落内への風の流入を防ぎきれなくなることを明らかとした.
  • 荒川 恭子, 石井 由香, 香川 靖雄
    2015 年 52 巻 4 号 p. 199-211
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2015/12/17
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,健康な若年女性を対象に,冷え症の要因として遺伝子変異が関わっているか否かを明らかにし,冷えの発症機序を自律神経機能から解明することである.女子学生 27 人を冷え症 17 人と非・冷え症 10 人の 2 群に分け,肥満関連遺伝子(UCP-1, β2-AR, β3-AR)と高血圧関連遺伝子(AGT)の変異の出現頻度を検討した.その結果,冷え症体質者では非冷え性体質者に較べ冷水負荷後の皮膚温度回復が遅く(P=0.006),β3-AR 遺伝子変異の出現率が高いことがわかった.次に,β3-AR 遺伝子を wild 群と mutant 群の 2 群に分けて,冷水負荷時の自律神経活動の変化を心電図の R-R 間隔から検討した.冷水負荷により心臓交感神経活動は抑制されその後回復するが,mutant 群では wild 群と比較して回復が遅延し,有意差が認められた.以上から,冷え症は β3-AR 遺伝子変異が引き起こす交感神経の反応性の低下に起因する可能性が示唆された.
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