日本生気象学会雑誌
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52 巻, 1 号
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総説
  • 竹村 勇司
    2015 年 52 巻 1 号 p. 3-15
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/04/14
    ジャーナル フリー
    20 世紀中期から集約的畜産業が急速に発達すると,農用動物の福祉問題が関心を集め,「5 つの自由」と呼ばれる福祉指針が動物行動学や生理学の研究成果を踏まえて確立された.「5 つの自由」は現在,農用動物に限らず愛玩・伴侶動物,実験動物,さらに動物園等の展示動物といった人の管理下にある飼育動物一般に共通の福祉指針として国際的に普及している.本総説では,初めに「5 つの自由」の成立ならびに普及の経緯を述べ,次いで動物の家畜化に際して行われる繁殖管理ならびに育種に起因する動物の健康問題について述べた.最後に,近年グローバル化が進行する中で牛海綿状脳症,口蹄疫,高病原性鳥インフルエンザなどの悪性伝染病が日本で発生し,動物の健康のみならず,人の健康,畜産食品の安全性,および国民経済にとって大きな脅威となっていることを踏まえ,予防獣医学的観点からいくつかの重要な感染症について述べた.
原著
  • 佐古井 智紀, 持田 徹
    2015 年 52 巻 1 号 p. 17-28
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/04/14
    ジャーナル フリー
    本稿では,中強度の代謝量 174 W/m2 での作業時,かつ,一般的な透湿性の衣服を着用した条件を対象として,日射のある条件に用いられる WBGT 式の意味合いを伝熱工学の視点から検討した.その結果,1)WBGT の湿球温度とグローブ温度,気温の重み係数の比は,皮膚のぬれ率 0.5 を想定した場合の比に応じること,2)WBGT のグローブ温度と気温の重み係数の比は,長波長放射の影響は無視し,日射の影響を評価する比に応じること,3)人体の熱収支式を WBGT とほぼ同一の重みによる湿球温度,グローブ温度,気温の平均値と補正項の和として表せること,4)WBGT は,皮膚温と蓄熱率の加重平均に対応する指標と解釈できること,5)気流,着衣の基礎熱抵抗,着衣の日射吸収率,放射熱源の有無に応じて WBGT に誤差が生じること,の 5 点が明らかになった.これらを踏まえ,WBGT の誤差および補正量を,熱伝達特性に基づき評価する手法を提案した.
  • 豊川 尚, 橋本  剛, 安藤 邦廣
    2015 年 52 巻 1 号 p. 29-43
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/04/14
    ジャーナル フリー
    長野県諏訪地方には倉が主屋に内包されている建てぐるみと呼ばれる伝統民家がある.これらは諏訪地方の厳しい自然環境に適応した気候景観であると考えられているが,これまでに温熱環境の実測調査に基づく研究は行われていない.そこで本研究では,倉が主屋に包まれることが倉の室内温熱環境の形成に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,2008 年及び 2010 年の冬季及び夏季に建てぐるみの室内温熱環境の実測調査を行った.その結果,他の空間に包まれた倉の室温の日較差は約 0.5℃であり,包まれていない倉の室温の日較差よりも小さかった.また,他の空間に包まれた倉の室温の絶対値は包まれてない倉よりも冬季においては約 0.5~3.0℃高温となり,夏季においては約 0.5~2.0℃低温となっていた.これらは,倉が他の空間に包まれると他の空間が熱的な緩衝空間となり,他の空間に包まれている倉の外壁の熱貫流量が低下し,倉の室内温度環境が安定するためと考えられる.一方,他の空間に包まれる倉の壁面の割合の大小と他の空間に包まれている倉の室温の絶対値の高低とは必ずしも対応しない場合がみられた.また,他の空間に包まれている倉の室温の絶対値の高低と倉の隣室の室温の絶対値の高低とは概ね対応していた.このことから,他の空間に包まれている倉の室温の形成には,倉の隣室に形成されている室温が強く影響を及ぼすことが明らかとなった.そして,各倉の室内の相対湿度の日較差は冬季夏季共に約 3% 以下,各倉の室内の絶対湿度の日較差は冬季夏季共に約 1.0 g/kg’ 以下であることから,他の空間に包まれたとしても倉の室内には極めて安定した湿度環境が形成されていることが明らかとなった.以上のことから,建てぐるみは倉を他の空間に内包し倉の室内の温熱環境の安定度を向上させることで,諏訪地方の厳しい気候条件に適応している建築デザインである可能性が示された.
  • 橋本 剛, 樋口 貴彦, 安藤 邦廣
    2015 年 52 巻 1 号 p. 45-58
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/04/14
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,板倉の壁構法の違いが室内温熱環境の形成に及ぼす影響を実証的に明らかにすることである.八ヶ岳山麓に現存する落とし板倉,井籠倉および土塗り板倉を調査対象とし,室内温熱環境の実測調査を 2007 年の夏季と 2008 年の冬季に行った.その結果,土塗り板倉には,夏季・冬季ともに極めて安定した室内温熱環境が形成されることが再確認された.そして,その気温変動緩和効果は冬季の特に寒冷な日に日最低気温の低下を緩和する効果として最も顕著に現れ,その調湿効果は冬季よりも夏季においてより顕著に現れることが明らかとなった.一方,落とし板倉と井籠倉を比較すると井籠倉の方がより安定した室内温熱環境が形成された.夏季において井籠倉の方が落とし板倉よりも 1 階の気温の日較差が明確に小さかった.冬季低温日の日最低気温は,井籠倉の方が落とし板倉よりも明確に高かった.落とし板倉では冬季に最も寒冷な室内温熱環境が形成されていることが明らかとなった.落とし板倉,井籠倉および土塗り板倉には調湿効果が現れた.
  • 鈴木パーカー 明日香, 日下 博幸
    2015 年 52 巻 1 号 p. 59-72
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/04/14
    ジャーナル フリー
    暑熱指標 WBGT(wet-bulb globe temperature)に基づき,将来の日本の暑熱環境予測を行なった.これに先立ち,全国の官署データを基に 1991–2010 年 8 月を対象とした現状把握を行った所,現在の日本はすでに厳しい暑熱環境にあることが示された.特に関東以西の地域では 8 月の日中平均 WBGT 気候値が 26℃以上となっているが,これは日本生気象学会等が定める熱中症指針では「警戒レベル」に相当する.比較的冷涼な札幌や仙台などでも,WBGT 値が「危険レベル」に達することもあるという結果が得られた.将来予測は 21 世紀末の 20 年間をターゲットとし,全球気候モデルによる予測データを領域気候モデルによって高解像度化する力学的ダウンスケール手法を用いて行なった.その結果,将来の暑熱環境は現在よりさらに悪化し,特に中部以西の多くの地点で 8 月中 20 日以上が「危険レベル」(日最高 WBGT≧31℃)になると予測された.予測 WBGT 昇温量は東北地方で大きく,例えば将来の秋田市は現在の大阪市のような気候になる可能性が示唆された.
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