日本生気象学会雑誌
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53 巻, 4 号
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総説
  • 大野 秀夫
    2016 年 53 巻 4 号 p. 113-121
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2016/12/31
    ジャーナル フリー

    近年,噴霧技術の目覚ましい進歩によって実用化に至った帯電微細水分粒子,いわゆるミストは,皮膚表面の細胞間隙へ浸透できるのではないかという期待感をもって美容と健康を謳い文句に,皮膚へ直接吹き付ける小型で個人用のものが家電商品や美容機器として発売されている.さらに皮膚を乾燥から守りながら快適な温湿度環境を提供するというミスト発生機能付き空気清浄機やエアコンも家庭向けに積極的に発売され始めている.しかるに,ミスト効果に関しては個人の感想に依存している部分が多く,生理データにまで言及したものはきわめて少数であり,客観性と科学性に乏しい.本稿では,ミストを用いた皮膚乾燥対策用機器の開発コンセプトと実用例を紹介するとともに,筆者らが行ったミストによる皮膚の潤い効果と柔軟化に貢献する一連の研究をもとに,ミスト活用の今後の方向性を展望する.

原著
  • 大橋 唯太, 鎌倉 正希
    2016 年 53 巻 4 号 p. 123-138
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2016/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,瀬戸内海東部地域を対象に,地理・地形的環境の違いが夏季暑熱ストレスの分布にどのような影響を及ぼすか,気温と 2 つの暑熱ストレス・インデックス(MDI と ESI)から調べた.2014 年の夏季に,内陸部,平野部,沿岸部,島嶼部にある 7 地域で気象観測を実施した.気温だけから暑熱ストレスを評価した場合,高温の出現頻度は内陸部,平野部,沿岸部,島嶼部の順に多かった.一方,湿度も考慮される MDI で評価した場合には,厳重警戒レベル以上の熱中症ハザードが平野部と沿岸部でも内陸部に匹敵する出現頻度となった.この原因には,海風のような湿潤空気の曝露が考えられた.MDI からさらに日射も考慮した ESI では,周囲の海域が広く雲の発生も少ない島嶼部や沿岸部の地域で,厳重警戒レベル以上のハザード出現頻度が顕著に増加し,熱中症リスクが高くなった.反対に内陸部では日射量の減少が影響し,MDI のときよりも厳重警戒レベル以上の出現頻度は減少した.

短報
  • 樫村 修生, 南 和広, 星 秋夫
    2016 年 53 巻 4 号 p. 139-144
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2016/12/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,2020 年東京オリンピック開催期間と同期間の 2015 年において,暑熱曝露がもっと過酷であると想定されるマラソン選手の立場から,走行中に曝露される WBGT の計測を試みた.期間中にロードバイクに環境温度計を設置し,スタート地点からゴールまでをマラソン競技の走行スピードに相当する時速 20 km 時の WBGT を計測し,熱中症の危険性を評価した.平均 WBGT は 7 月 26 日が 30.4℃で 30℃を超え,次いで 8 月 4 日が 29.6℃,8 月 9 日が 27.0℃であった.また,平均乾球温度は,7 月 26 日が 36.9℃,8 月 4 日が 34.5℃,8 月 9 日が 32.4℃であった.平均 WBGT は,各地点においてロードバイク走行時の方が定点観測より平均 0.2±0.1℃(0.1 から 0.3℃)とわずかに低値であった.その結果,走行時に選手が曝露される WBGT は予想以上に高く,これにマラソン運動による 2 時間以上の体温上昇の負担も加わることから,熱中症を防ぎ良い成績を残すためには暑熱下トレーニングを実施し,十分な暑熱順化が必要になると思われる.この研究において,我々は 8:30 にスタート時間を設定したが,そのスタート時間をさらに早朝にシフトすることを検討する必要がある.さらに,我々はマラソンコースに多くのミストシャワーを設置し,ランナーの身体冷却を補助することが必要であると考える.

資料
  • 三上 功生, 蜂巣 浩生
    2016 年 53 巻 4 号 p. 145-164
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2016/12/31
    ジャーナル フリー

    脊髄損傷者は身体の広範囲に及ぶ発汗障害や血管運動障害などの体温調節障害を有しているが,継続的な運動が脊髄損傷者の暑熱・寒冷ストレスに対する生体負担の軽減や,冷暖房機器への依存度の低下に繋がる手段の一つとして期待できるのではないかと考え,3 名の脊髄損傷者(頸髄損傷者,胸髄損傷者,腰髄損傷者各 1 名)を対象として,継続的な運動と温熱環境適応能力の変化との関係を把握することを目的とした縦断的調査を 24 ヶ月または 42 ヶ月間かけて行った.起床時腋窩温の測定結果より,頸髄損傷者には腋窩温のレベルの上昇傾向が,腰髄損傷者には腋窩温が狭い温度範囲に収束する傾向がみられるようになった.また人工気候室実験の結果より,頸髄及び腰髄損傷者の麻痺部皮膚温に室温へ順応しようとする反応が現れるようになった.本調査より,継続的な運動が脊髄損傷者の温熱環境適応能力を向上させる可能性があることが示唆された.

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