UTCI(Universal Thermal Climate Index)は,全ての気候,季節,時間的・空間的スケールに適用可能な屋外の熱ストレスや熱環境を評価する指標として開発された.国際生気象学会が構想して開発からおよそ10年が経過しているが日本において普及している指標とはいえない.そこでUTCI開発の経緯,UTCIの定義,人体熱モデルとUTCIの導出,UTCIの算出方法について概説する.
暑熱環境で,WBGTの示す数値は気温より低く,これは生活実感に合致しない.そこで,人間の感覚に合う新しいWBGT指標の作成を目的とした.Gagge(1976)によれば,湿り空気線図上において等しいWBGTを与える直線が引ける.線図上でWBGTの値は,相対湿度100%の時の温度である.そこで,基準とする湿度を変更し,相対湿度50%の場合の温度を新しい指標WBGT50と定義した.WBGTとWBGT50との関係を計算した結果,WBGTが31℃の時,WBGT50は36℃となった.熱中症の危険を表すには妥当な数値を示しており,この指標の有用性が確認できた.
脳梗塞の発症メカニズムは明らかでなく予防法も確立されていない.今回,rt-PA療法が施行された比較的重症な脳梗塞初発例を対象に脳塞栓(A群)と脳血栓(B群)に分類し,発症時刻と月,当日の気圧配置パターンを調査し,両群の発症の違いを統計学的に分析した.平均気温が最も高かった7~9月は,B群が有意に多かった(p=0.0248,フィッシャーの直接確率法.以下同じ).時間帯は,午前6~7時はB群が有意に多く(p=0.0357),午後2~7時と午後11~午前5時はA群が有意に多かった(p=0.007,p=0.0467).気圧配置パターンは,その他高気圧型(移動性高気圧型,帯状高気圧型のどちらにも分類できない高気圧型)がB群に有意に多かった(p=0.0166).脳梗塞の主な原因は動脈硬化と不整脈であるが,気象変化や生活リズムなどの体外環境の影響で脱水状態等となり突然血栓・塞栓が形成されてしまう可能性がある.脱水予防のため適時適度な飲水補給等の指導が必要だろう.予防法の確立に向け,さらなる調査に期待される.
ツマグロヒョウモンの著しい生息域の拡大は,地球温暖化の影響として広く一般に知られている.一方,近年,本種の食草であるスミレ類(パンジー等)の増加も一要因ではないかと言われているが,実際に双方の関係性に関する研究論文は少ない.本研究では,ツマグロヒョウモンの北上を,冬季の最低気温の上昇とパンジーの栽培地域の拡大という観点から複合的に考察した.その結果,1990年代初頭のガーデニングブームを契機に,パンジーの栽培地域は顕著に拡大した事が分かり,全国的な冬季の最低気温の上昇と共に,ツマグロヒョウモンの北上を助長した可能性が示唆された.