ヘリシティの生成と輸送のメカニズムを調べるために壁垂直周りに回転する乱流チャネルのLES を用いた.乱流ヘリシティとその3 つの項hxx,hyy,hzz に分け,その寄与を調べた.hxx とhzz はhyy よりも大きく,その符号は互いに逆であった. 圧力項がhyy に寄与し,hzz に再配分されてhzz の絶対値が減少することがわかった.その結果,hxx は3 つの項の中で最大となり,壁の近くでは正のヘリシティを,壁から離れると負のヘリシティを形成した.粘性散逸項は壁から離れたところでhxx の負のヘリシティを減衰させるように作用していた.
非一様乱流をよりよく理解し予測するために,スケール空間のエネルギー密度の新しい定義を提案した.3 種類のフィルター平均速度を用いて得られた新しいエネルギー密度には,フィルター速度の2 乗に比例し非負となる一様項と,フィルター速度の分散の2 階微分からなる非一様項とで構成される.チャネル乱流のDNS データを用い,乱流エネルギーやエネルギー密度の一様項・非一様項の分布を調べた.その結果,壁近くで下に凸となる乱流エネルギーの分布が非一様項の負の値をもたらし,エネルギー密度が負となることがわかった.
プルームをコヒーレントな構造ゆらぎと考え,プルーム運動に沿った非平衡効果を用いて対流乱流の輸送モデルを構成し,恒星内部の対流に適用する.恒星表面での冷却で駆動される対流の顕著な特徴のひとつは,表面層の直下で観測される大きくて局在化した乱流質量輸送である.そのような輸送の特徴は,混合距離理論を用いた通常の渦粘性型モデルでは全く再現できないが,非平衡効果を組み入れた今回のモデルでよく表現することができる.本研究の結果は,非平衡効果を通してプルーム運動を乱流モデルに組み入れることは,通常の混合距離理論を用いた経験的なモデリングを超えて,平均場理論の重要で価値ある拡張となりうることを示している.
海面養殖の持続可能な発展を支えるために,環境解析を行うための数値計算は有力な方法の一つであり,海洋モデルに生簀網の変形による影響を導入することは不可欠である.本研究では生簀網の変形をCFD 手法で再現し,生簀網の形状変化が流れ場に与える影響を調べた.その結果,実験結果を概ね再現できた.生簀網の変形により,後流域に集中した網による流れ場への抗力が増加し,流速が大きく低下する様子が再現された.しかし,生簀網の変形に関するパラメーターなどの検討が不十分であり,さらなる改善の余地があると考えられる.
壁面吹出し・吸込みを用いたチャネル乱流の最適制御において,摩擦抵抗低減効果に対するレイノルズ数の影響を調査した.制御効果はレイノルズ数とともに低下した一方,壁面近傍の乱流構造を抑制する機構はレイノルズ数によらないことが示唆された.壁近傍のみあるいは遠方のみを対象とした最適制御ならびに大スケール構造を人工的に除去した流れ場に対する最適制御を行い,壁遠方や大スケール構造を対象とした制御戦略は有効でない可能性が示された.
近年,非線形システムの制御において,限られた観測情報と制御入力の複雑な関係を深層ネットワークによって記述する強化学習が,新しい制御則開発のための方法論として注目を集めている.これまでに比較的単純な流れ場,かつ自由度の小さい制御入力に対する強化学習の応用例が報告されているものの,多自由度を有する乱流への応用例は報告されていない.本報では,壁乱流制御に強化学習を応用し,そのフレームワークの有効性を検証する.その結果,既存の代表的な制御則である対向制御よりも抵抗低減効果の高い,新たな制御則を発見した.
建物エネルギーシミュレーションと数値流体力学CFD の連成解析では,CFD シミュレーションの実行に高い計算負荷があるため,実応用に制限がある.本研究の最終目標は,連成解析においてCFD の機能を深層学習モデルにより実現し,連成解析の計算を高速化させる.深層学習は,室内気流分布を高速かつ高精度的に予測する.本研究は,先行研究に基づいて,予測対象を二次元から三次元に拡張し,より現実的なシナリオにおいて深層学習による予測のパフォーマンを検討する.CFD と比べ,深層学習の予測誤差は12% 未満であり,計算時間の80% を短縮させる.
都市環境では交通による排気ガス及び粒子状物質が歩行者に被害健康をもたらす.従来の数値流体力学手法 (CFD) は汚染物質を化学反応しないパッシブスカラーと見なすことが多く,二次汚染物質の生成を考慮しないため予測精度に影響を及ぼす.そこで,本研究はガスとエアロゾルの化学反応を解析するボックスモデルSSHAerosol をCFD ソフトウェアOpenFOAM と連成し,ストリートキャニオンにおける汚染物質の拡散解析を行った.予測される濃度を実測値で精度検証した上,二次汚染物質の生成がガス濃度,粒子状物質の粒度分布と化学組成に大きく影響すると判明した.
本研究は,深層ニューラルネットワーク(DNN)を用いた高速・高精度的な室内気流予測手法の開発を目指す.本論文では,非定常予測を対象として,境界条件の変更を考慮する場合,高効率な訓練データの選択方法を検討した.結果は,ケースあたりに出来る限り多くの時点を訓練データとして選択した方が良い.同時に,条件空間(条件変更実験事例の条件を設定することによって形成される座標空間)の内部の事例を訓練事例としてとらえる方が良い.なお,条件空間の端点と内部にあるケースを訓練ケースにすると,高効率的にDNN を訓練できることも分かった.
本研究では,2 次元の都市キャニオン流における乱流構造を分析するために,2 次元フーリエ変換(2DFT)と固有直交分解(POD)を組み合わせた手法を提案して適用した.この手法では,2DFT で均一なスパン方向と時間の乱流を分解し,POD で不均一な流れ方向と垂直方向の乱流を分解した.大きいスケールと小さいスケールの乱流構造がキャニオン周辺の流れ場に及ぼす影響の形は異なるため,POD モードによってそれらが可視化された.ただし,乱流には自己相似性があるため,スケールの大きさに関わらず,主な乱流構造の時間スケールはスパン方向の長さスケールと比例していることを発見した.さらに,本研究で定義したSPOD cospectrum を用いて乱流構造と屋根レベルの汚染物質の除去の役割を定量的に解明した.屋根レベルのKelvinHelmholtz 不安定性は汚染物質の除去に最も貢献していることがわかった.
本研究は,確率的発生源同定における目標関数と焼きなまし法を組み合わせたセンサー配置の最適化手法を提案した.同手法の目標関数は,随伴濃度のエントロピーに基づき各センサー配置が計測できる情報量を評価するものである.同手法の有用性を検討するため,市街地モデルにおいて最適な配置を求めた.そして,得た最適な配置を用いて25 個の未知発生源を推定し,その結果を均一配置とランダム配置の同定結果と比較した.結果としては,センサー配置の推定性能はその目標関数の値に比例した.最適な配置はより多い情報量を計測できるため,最も高い推定精度を実現した.
本研究は,室内モデル空間を対象として随伴濃度のエントロピーに基づいたセンサー配置の最適化手法の有効性を検討した.同手法を用い,天井面付近における候補位置から有限数のセンサーで構成される最適な配置を求めた.センサー配置の推定性能を検証するため,得た最適な配置を用いて三次元空間に置いた10 個の未知発生源を推定し,その結果を2 つのランダム配置の同定結果と比較した.その結果,最適な配置は最も高い推定精度を示した.また,最適な配置の選定傾向としては,各センサーが室内モデルの給排気口付近と四隅に分布する傾向が見られた.
自動運転に関する研究は,技術開発を行う初期の段階では要素技術の開発と統合から始まり,社会実装を目指す段階になって関連分野に広がっていったと考えられる.広がりを見せるこの研究分野では,近年,連携や協調が重要であると言われている.一方、自動運転研究の動向や今後の方向性について様々な提言がある中で,現状を定量的に可視化する試みは少ない.第2 期SIP では国際的な連携拠点の形成及び国内での連携体制構築を目指しており,自動運転に関する研究を行っている組織・研究者の会議体である,モビリティ・イノベーション連絡会議が発足している.本稿では,この活動の一つとして行っている,自動運転研究に関する状況分析及び,これに関連する取組について紹介する.
自動運転の社会実装には,実際の交通環境下で自動運転車両がどのように走行しているのかを,社会に対して適切に伝えることが望ましい.実交通環境下での自動運転車両の走行データ収集は,そのようなコミュニケーションの際に有用な情報をもたらすだけでなく,より高度な自動運転車両の機能開発や運用上の工夫等の観点からも,有益な情報をもたらすと期待される.柏市柏の葉地区では,2019 年11 月から長期間実証実験として自動運転バスが営業走行している.この取り組みは,長期間にわたり自動運転車両が走行していることから,将来的に自動運転車両が実装された際の状況に比較的近い状態にあると考えられる.この自動運転バスにドライビングレコーダを搭載し,運転手による手動介入時の映像データ取得を行い,介入時の周辺交通や道路環境の要因について分析を行う取り組みを開始している.本稿では,この取り組みの概要を紹介する.
自動運転の技術要素の一つに自己位置推定があり,高精度な位置情報とロバスト性が求められる.路上マーカとして磁石を用いる手法はこれらを兼ね備えており,これまで様々な研究が行われてきた.この手法の課題として,交差点などにおいて磁気マーカ列から外れることで自己位置が推定できなくなるという点があった.そこで,本稿では路上に面的に磁気マーカを設置し,個々の磁気マーカ判別のために最尤推定を行うことで,どのような経路を通っても自己位置推定可能とするコンセプトを提案する.このコンセプトの元,シミュレーションや実車実験を通じて配置間隔や配置パターンの検討と,有効性の確認を行う.
階層的な街路が交通機能に応じて交差平面で交差し,交通流の外から動的に通行権を付与する交通信号制御の導入条件を整理する.その場で動的通行権付与状態を多様な利用者に公知する機能としての交通信号機について考察し,その基本原理に忠実な自律分散型信号制御の意義を論じる.ここでは主に,灯器位置.交通流の制御上の制約.運転者挙動特性.法令上のルールと実際の交通流現象との関係に焦点を当てて論ずる.また,自動運転などの技術進歩を勘案し,街路ネットワークの高度な交通流管理施策実現に向けて目指すべき方向性を示す.
道路ネットワークにおける効率的な交通管理と運用をサポートするためのツールとして交通シミュレータが注目されているが,その推定精度向上には,交通需要の入力値であるOD 交通量を適切に設定することが重要である.本稿では,2019 年の7 か月間のETC データに基づいて,首都高速道路ネットワークのOD 交通量の時間変動について分析した結果を報告する.具体的には、状態空間モデルを適用することにより,各OD ペアの時間帯変動と曜日変動を抽出し,これら変動のパターンを,クラスター分析により明らかにした.さらに,これらの変動に基づいたOD 交通量の予測モデルを構築した.
高速道路に協調型自動運転車(CAV)専用車線を設ける場合,専用車線の出口では,CAV が一般車線上の手動運転車に合流する必要性が生じる.本研究では,このような合流を想定した専用車線出口の設置位置の検討を行うことを目的として,手動運転車が形成するギャップ分布の分析を行った.阪神高速道路および中央自動車道により取得されたデータを対象に,異なる位置および交通条件下でのギャップ分布を合成ガンマ分布によりモデル化し,この分布に基づいて,CAV が手動運転車に合流するのにかかる余剰時間を算出した.その結果,上り坂が続くほど余剰時間は長くなる傾向があり,そのような地点へのCAV 専用車線出口の設置は望ましくないことが示唆された.
交通管制システムの主要機能の一つである信号制御では,道路上に設置された車両感知器の計測情報に基づいて,適切な信号制御パラメータを算出している.しかし,車両感知器の設置やメンテナンスに多大なコストを要するため,制御レベルを維持しつつ,使用する車両感知器を削減できる信号制御方式の実現が求められている.そこで,本論文では,プローブカーデータから得られる交通情報を用いて,車両感知器の計測情報を使わずに,信号制御パラメータを算出する方法を提案する.
自動運転・運転支援において視界の悪い無信号交差点でも安全に走行にするため,車載カメラ映像からカーブミラーの先の死角における交通状況を把握し,危険を予知する.深層学習によりカーブミラーの位置およびミラー内に映った車両等の路上物体を検出・追従し,その物体の接近を判別することで,死角が危険な状況にあるかどうかを判断する.ミラーの検出には高解像度画像に適した分割学習・検出を行った.また,ミラー中の路上物体の接近判別においては,自車が走行中に取得した2 枚の画像フレームに関して,路上物体の周辺領域に着目することにより,両者の視点を近似的に揃えたうえで位置を比較し,接近を判別できる手法を提案した.実環境における実証実験の結果,視点変換が安定に動作する環境下においては,接近判別の正確度が75 ~ 92% に達し,従来手法に対して17 ~40 ポイント改善することが確認された.
交通事故回避のためには,急ブレーキなどの異常運転行動の検出・予測が重要である.本研究では,急ブレーキの検出・予測の前段階として,ドライブレコーダより得られる車間距離および各種のプローブデータ(位置,日時,速度など)に基づいて,データマイニングの手法により急ブレーキの発生要因を分析する.車間距離情報の取得には,従来,LiDAR のような高性能センサーが使われているが,一般に高価であり普及が進んでいないことから,本研究では,単眼カメラのドライブレコーダで撮影した動画を直接に用いて,ビジュアルオドメトリにより車間距離を推定する.これらの情報と,勾配ブースティング決定木(GBDT) を利用し,急ブレーキ識別モデルの構築を行った.実験の結果,車間距離を用いたモデルが,用いないモデルに比べて識別性能を向上させることを確認した.
1 つの建物において,テナント毎に要因が異なる環境価値低下に対し,Building Element(以下,B.E.)の関係性を形式化して意味構造を把握し,その上で状況をモニタリングして改善活動に展開することが有用と考える.本稿では,将来の統合・拡張に耐えうる情報基盤となる必要性からセマンティックデータモデルを用いた意味構造記述を提案した.そして,大学の一室のCO2 濃度モニタリングシステムに関わるB.E. の意味構造をモデルで記述した上,周辺システムのモデルと統合する検証をし,部屋などの共通ノードを結節点にグラフ構造が統合されることを把握した.
コモングラウンドと呼ぶ汎用空間記述形式の必要性とそのありうべき形式,連携や拡張に関する方向性および産業実装の可能性を概観する.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら