地理的に隔離されている和歌山県内の近接する3つの地域, すなわち朝来, 生馬, 合川, および朝来地域内に棲息するミナミアオカメムシ個体群の生理・生態学的特性を比較検討した.3地域の気象条件はことなり, 朝来地域は海岸部に位置し温暖であるのにたいし, 合川地域は山間部で冷凉, 生馬地域はその中間であった.ミナミアオカメムシの寄主植物は朝来地域では好適な水稲が広く栽培されているのにはんし, 生馬, 合川両地域では水稲の栽培面積も少なく, またその期間も限られていた.これらのことがミナミアオカメムシとその近縁種であるアオクサカメムシの出現比率のちがい, さらには卵寄生蜂相のちがいにつながっていると考えられた.個体数変動様式, 色彩多型の頻度も3地域間で明瞭なちがいがみられた.また, 第3・4世代成虫を解剖し各地域個体群の性成熟度を調査したところ, 合川地域のものはその多くが成熟していたのにたいし, 朝来, 生馬両地域のものは未成熟個体がほとんどであった.さらに第3・4世代成虫の前胸幅, 体重, 体長についてはすべて合川地域のものが最高値, 朝来地域のものが最低値を示し, その差はしばしば統計的に有意であった.これらの事実よりそれぞれの地域に棲息するミナミアオカメムシ個体群は互いに独立で, ちがった"Life system"を作っていると考えられた.一方朝来地域を3つの小地域に分け, それぞれの小地域内に棲息するミナミアオカメムシ個体群の変動様式, 色彩多型の頻度, 前胸幅を調査したが, 明瞭な差は認められなかった.また朝来, 合川両地域内で記号放逐法によりミナミアオカメムシ成虫の飛翔能力を調らべたところ, 1日のうちに1,000m以上飛ぶ個体の存在が認められた.これらの事実より朝来地域内に棲息するミナミアオカメムシは互いに密接な関係にあると考えられた. これらのことからミナミアオカメムシの個体群動態の単位としての自然個体群の実体について論じた.
抄録全体を表示