大面積で起こる生態学的現象を長期的に評価・定量化する場合、衛星リモートセンシングは有効なツールである。衛星リモートセンシングの主な利点に、大面積を面データとして定量化する広域性と、過去のデータにさかのぼって年次変動をモニタリングする長期的観測が可能な点があげられる。また、衛星情報のみでは判読困難な開墾や都市化といった人間活動情報による周りの環境への影響を定量的に予測する際に、地理情報システム(GIS)および全地球測位システム(GPS)を組み合わせて利用することで、より実利用性の高い予測モデルの構築が可能になると考えられる。本報告では、大面積かつ持続的な研究の例として、衛星モニタリングとGPS/GISを利用した中国内蒙古草原の砂漠化防止研究を紹介する。中国内蒙古草原では、1950年代以降、過放牧の影響による草原の衰退および砂漠化の問題が深刻化している。まず内蒙古草原における砂漠化の背景と既存の研究例を紹介する。その後、衛星リモートセンシングを用いた大面積における草量と草質の推定を試みた研究を紹介する。ここで革質とは、家畜生産を決める草の栄養価の指標となる粗タンパク(CP、crude protein)含有率を指す。調査地は、近年特に土地の荒廃化が著しいシリン川流域草原(約13,000km
2)に設定した。空間分解能は250-1,000mと粗いが、データを毎日取得可能なTerra衛星(1999年打ち上げ)搭載のMODIS (Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer)センサーから得られる植生指数EVI(enhanced vegetation index)を用いて、草量および草質の推定を行った。その結果、緑色草量(R
2=0.79, p<0.01)とCP含量(R
2=0.74, p<0.01)が高い精度で推定が可能であることがわかった。EVIとCP含有率との間には、有意な相関は認められなかったが(R
2=0.108, p=0.058)、草量が増加するに従ってCP含有率が減少する傾向が見られた。最後にGPS/GISを用いて、羊群の放牧強度が草量に与える影響を定量化する手法の構築を試みた。2002年夏に、3羊群(合計1,751頭、ヤギを含む)が利用する放牧実験エリア(約30km
2)を設定し、携帯型GPS(HGR3、Sony製)を3羊群×4個体(計12個体)に取り付け、8月4-8日の5日間連続で羊群の空間分布を調査した。GPSから得られた羊群の行動軌跡を用いることで、GIS上で作成したグリッドセルから放牧強度の空間的分布を定量化した。その結果、放牧強度が高くなると草量が低くなる傾向が認められた。今後は、気象や地形などの空間的な影響に加えて、羊の行動パターン(採食、反芻、休息など)の違いによる影響を考慮する必要性が示唆された。
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