日本生態学会誌
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57 巻, 3 号
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宮地賞受賞者総説
  • 佐竹 暁子
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 289-298
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    近年、人間社会と生態系の間でのフィードバックループの重要性が指摘され、社会科学と生態学が急速に接近してきた。本稿は、現在躍進中のこの分野横断的な新しい動向を、理論的視点から紹介することを目的とする。特に、Forest Transition仮説に焦点をあてる。森林伐採により世界の森林は減少しているが、一人あたりGDP 4,600ドルを越える国では、森林は減少から増加に転じているという報告がある。森林の減少から増加傾向への遷移は「Forest Transition」と名付けられ、西ヨーロッパ、アメリカ、東アジアなど数多くの社会で見いだされてきた。私たちは、生態学と経済学の理論を組み合わせた土地利用モデルを開発し、Forest Transitionの機構を理論的に導いた。特に以下の二つの仮説に焦点を絞った。[森林希少価値仮説]森林枯渇に伴い森林の価値が上昇する。これは閉じた市場経済において、森林産物の価格が資源量の減少に応じて上昇する状況に対応する。[生態系サービス仮説]森林枯渇に伴い森林の価値が下がる。それは森林被覆面積の減少によって、土壌、栄養塩や水循環の劣化、火災頻度の上昇が生じることによる。これら二つの仮説を土台として、人間を含んだ生態系が収束する平衡状態、およびその安定性を調べた。両者の仮説において、土地所有者が森林伐採から得られる目前の利益を優先する場合には、Forest Transitionは生じず、大規模な森林伐採後には農地あるいは放棄地が優占する。土地所有者の時間割引率が低く将来の森林価値を見通す場合には、Forest Transitionが生じ、それに緩やかな森林再生が合わさると、再生した森林は安定して維持されることが予測された。森林再生速度が速いと、森林が再生した後再び大規模な森林伐採が生じる可能性がある。生態系サービス仮説では、ある面積以上の森林が伐採されると、森林から荒廃型社会への不可逆な推移が生じうる。そうした推移は森林再生速度が速いほど生じやすい。得られた結果を世界各地の事例と照らし合わせ、森林推移後の将来像を描くとともに、数理生態学の視点が環境科学に貢献する可能性を整理する。
  • 巌佐 庸
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 299-301
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
  • 山村 則男
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 301-303
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
  • 大園 享司
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 304-318
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    冷温帯産樹木の落葉を材料として、その分解過程と分解に関わる菌類群集の役割を実証的に明らかにした。調査地は京都府の北東部に位置する冷温帯ブナ天然林である。35ヶ月間にわたる落葉分解実験の結果、14樹種の落葉のリグニン濃度と落葉分解の速度および落葉重量の減少の限界値との間に負の相関関係が認められた。また窒素・リンの不動化-無機化の動態がそれぞれリグニン-窒素(L/N)比、リグニン-リン(L/P)比の変化によく対応していた。実験に用いた落葉樹種のいずれにおいても、リグニン分解はホロセルロース分解より遅く、落葉中のリグニン濃度は分解にともなって相対的に増加する傾向が認められた。落葉に生息する微小菌類と大型菌類について調査を行い、29樹種の落葉から49属の微小菌類を、また林床において一生育期間を通して35種の落葉分解性の担子菌類を記録した。ブナとミズキの落葉において分解にともなう菌類遷移を比較調査した。リグニン濃度が低く分解の速いミズキ落葉では、リグニン濃度が高く分解の遅いブナ落葉に比べて、菌類種の回転率が高く、菌類遷移が速やかに進行した。担子菌類の菌糸量はミズキよりもブナで多く、またブナでは分解にともなって担子菌類の菌糸量の増加傾向が認められた。分離菌株を用いた培養系における落葉分解試験では、担子菌類とクロサイワイタケ科の子嚢菌類がリグニン分解活性を示し、落葉重量の大幅な減少を引き起こした。落葉のリグニン濃度が高いほど、菌類による落葉の分解速度が低下する傾向が培養系でも示された。同様に、先行定着者による選択的なセルロース分解によりリグニン濃度が相対的に増加した落葉においても、菌類による落葉の分解力の低下が認められたが、選択的なリグニン分解の活性を有する担子菌類の中には、そのような落葉を効率的に分解できる種が含まれた。これら選択的なリグニン分解菌類は野外においても強力なリグニン分解活性を示し、落葉の漂白を引き起こしていたが、林床におけるその定着密度は低かった。
  • 徳増 征二
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 319-320
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
  • 塚本 次郎
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 321-323
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
総説
  • 片山 昇
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 324-333
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    相利共生とは、相互に関係する生物種が互いに相手から利益を受ける関係であり、あらゆる生態系にみられる。しかし、相利共生は状況に応じて変化し、時として解消される。相利共生は多様な生物種を生み出してきた大きな要因であるため、相利共生の動態を解明することは生態学や進化学の重要な課題となってきた。アリとアブラムシの関係は、アブラムシが甘露を提供するかわりに、アリがアブラムシの天敵を排除するという、良く知られた相利共生の一つである。しかし、アリ-アブラムシの関係は生態的あるいは進化的に変化しやすく、相利から片利、さらには敵対にいたるまで多様な形態が存在する。このようなアリ-アブラムシ系における関係の変異の創出や相利共生の維持機構について、これまでの研究ではアブラムシがアリに随伴されることに対するコストと利益を考慮した最適化理論が用いられてきたが、その範疇に収まらない例が多い。一方で、(1)アブラムシの内部共生細菌は宿主の形質を変化させる、(2)アリは局所的な昆虫の群集構造を決める、ということが明らかにされてきた。そこで本稿では、アリ-アブラムシ系を複数の生物が関わる相互作用として捉え直し、相利共生の動態について議論する。特に、(1)アリ-アブラムシ-内部共生細菌による複合共生系の存在と、(2)アリ-アブラムシの相利共生とアブラムシ天敵の群集動態とのフィードバックについて仮説を提唱する。
特集1 分子レベルから生態現象へ:生理生態学の展開
  • 彦坂 幸毅, 綿貫 豊
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 334-
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
  • 関島 恒夫, 原 範和, 大津 敬, 近藤 宣昭
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 335-344
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    「冬眠」現象を研究する魅力は、5℃以下まで体温を低下させることができる低体温耐性と、そのような極限の体温低下にも関わらず、細胞や組織レベルで異常をきたさず、生体が正常に機能を果たしている点にある。チョウセンシマリスから発見された新規の冬眠特異的タンパク質(Hibernation-specific proteins: HP)に関する研究は、現象の把握に終始してきた冬眠研究を、統合的な生理的調節システムとして理解する道筋を提供した。その結果、チョウセンシマリスでは冬眠を制御する年周リズムが体内で自律的に働き、それが血中のHP量を調節することで、冬眠可能な生理状態を自ら作り出していることが明らかとなった。また、HPの生体内調節の知見に基づき、冬眠期における脳内HPの機能をHP抗体の脳室内投与により阻害したところ、冬眠状態から覚醒状態への速やかな移行が見られ、冬眠の人工的制御が可能であることを証明した。本総説では、これまでに明らかとなっている冬眠調節に関わる生理機構の全貌に加え、冬眠調節の一端を担うことが明らかとなったHPを分子指標として用い、冬眠の進化あるいは地球規模の環境変化による冬眠動物への影響評価といった生態学的・進化学的視点に立った課題の解決に向けた最近の取り組みを紹介する。
  • 村岡 裕由, 野田 響, 廣田 湖美, 小泉 博
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 345-355
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    植物の生理生態学が取り組んできた主要な課題の一つは、光合成に必要な資源の獲得と利用を司る形態的機能、および生理的機能と生育環境との関係を明らかにすることである。様々な種について、与えられた生育環境におけるこれらの機能の効率性や変動環境に対する可塑性に着目して研究することにより、個体の成長と物理的環境との関係を作るメカニズム、個体群や群落の中での個体の振る舞いとその適応的意義、さらに群落の維持・更新過程のメカニズムなど、個体から群落、生態系に至るまで、様々なスケールでの生態現象の解明が進められてきた。植物生理生態学の視点は、大気中の二酸化炭素(CO_2)濃度の上昇や温暖化などの環境変動が生態系に及ぼす影響、または生態系の反応の理解においても重要な役割を果たす。生態系の炭素シーケストレーション機能は、その生態系を特徴付ける植物の生理生態的特性に依存するため、CO_2フラックス観測結果の解析や炭素収支のモデルシミュレーション解析における植物生理生態学的視点と知見の貢献は大きい。また、数十m四方から流域、地域、地球スケールでの生態系観測に有効なツールであるリモートセンシングの解析精度の向上には、葉群をなす個葉の生理的特性に加えて樹形や葉群構造への着目が大きく寄与することが新たにわかってきた。本稿では、筆者らが取り組んできた研究を紹介しながら、植物の光合成生産に関わる生理生態学的特性が個体から生態系スケールでの生態現象に果たす役割について考えてみる。
  • 椿 宜高
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 356-360
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    生態学と生理学の乖離は、それぞれの問題設定の違いから生じたのだとする見方もあるが、生態学と生理学の両方の手法を使って同じ問題にアプローチすることで、新しい展開が生まれる局面は多いと思われる。昆虫の生理学と生態学の境界に生じる課題には、栄養生理、呼吸(エネルギー収支)、水収支、体温調節、免疫、感覚など様々なものがあるが、ここではおもに体温調節についての話題を提供する。また、個体レベルの生理学とフィールド生態学の境界領域の開拓には、古いテーマに新しい手法を導入することが良策であることを述べる。
  • 半場 祐子
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 361-368
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    植物の生理機能がどのように環境応答をするかを知るためには、分子生物学的アプローチから生態学的なアプローチまでさまざまなスケールの研究が行われている。植物生理生態学は生理的手法を用いる学問分野であり、研究スケールから言えば分子生物学と生態学の中間に位置し、よりマクロなスケールの生態的現象を解析するために「スケールアップ」することも、よりミクロなスケールの現象と関連させる「スケールダウン」も可能である。本稿では、植物生理生態学の範疇に入る、植物の炭素安定同位体比を用いた研究について、「スケールアップ」と「スケールダウン」の事例を紹介する。「スケールアップ」の例として、葉の炭素安定同位体比から樹木の水利用効率を推定する研究をとりあげる。また、「スケールダウン」の例として、炭素安定同位体比の精密な測定により、葉の内部でのCO_2拡散を解析した研究を紹介する。
  • 綿貫 豊, 彦坂 幸毅
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 369-372
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    生理生態学の学問分野としての定義にはいくつかの異なる見解があるが、生態学への貢献でみれば、「解析対象とする生態学的現象の至近要因の解明」である。至近要因に関するブラックボックスを小さくすることで、より一般的な理解をもたらすので、普遍的な予測が可能になる。同時に、生物個体のふるまいの長所と短所、あるいは利益とコストの定量化を行うことで、究極要因の解明にも貢献する。分子生物学的手法は生理生態学にも有効である。生理生態学者は、ミクロ系の研究の動向にも目を向け、必要となったときにイニシアチブをもって研究グループを組織できる行動力が必要である。
特集2 ミクロな世界からの新展開
  • 三木 健
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 373-374
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
  • 小林 由紀
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 375-382
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    河川水中では、細菌は浮遊した単独状態より、何かに付着した状態で存在することが多い(大森2003)。この付着細菌は、自らが分泌した細胞外多糖類(extracellular polysaccharide)に包まれてコロニーを形成した状態で、その他の藻類や原生動物などと共に生息し、一つの群集を形成している。これをバイオフィルムという。河床の礫上にはバイオフィルムが発達し、その中の細菌群集は、河川生態系の食物連鎖や物質循環に関して重要な役割を持っている。河川は、上流から下流にかけて、生物にとっての生息地が劇的に変化するという複雑な構造を持っている。その環境の変化に沿って、細菌の利用可能な有機物も、粒状有機物(CPOM)から細粒有機物(FPOM)へと移り変わっていく。従って、利用する有機物と、各生息地の環境因子が共に変化すれば、細菌群集組成にも影響を与えることが予測されるが、その詳細についてはまだ明らかにされていない。本稿では、河川バイオフィルム内の付着細菌の群集組成とその機能に注目し、それらが流下方向で示す空間的な変化に関する仮説を、河川連続体仮説に沿って提唱する。次に、琵琶湖流入2河川において付着細菌群集について解析した研究例を報告し、この仮説を支持するかどうかを議論する。研究の結果、上流から下流にかけて基質環境は、ある一定の連続的変化を示した。しかし、それを利用する細菌群集の組成では、上流域と下流域との間に大きな違いがあるものの、上流から下流までの連続的変化は認められなかった。今回の測定方法では河川連続体仮説は支持されなかったが、残されたいくつかの可能性について議論し、今後の展望について述べる。
  • 横川 太一
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 383-389
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    海洋における細菌群集の動態にかかわる知見は、微生物生態学と生物地球化学のそれぞれの分野において、1980年代頃から断片的に蓄積されてきた。これらの知見により、細菌群集が有機物の同化と無機化の過程を通じて海洋生態系内部の物質循環に影響を与えているだけでなく、地表と大気を含めた地球表層全体の物質循環を駆動する生物ポンプに深く関わっていることが明らかになってきた。近年、分子生物学的手法の急速な進歩により、細菌群集の組成や有機物代謝を分子レベルで計測することが可能となってきた。これらの手法を適用した研究は、海洋細菌群集の系統分類群や有機物分解酵素をコードする遺伝子が非常に多様であることを明らかにしてきた。さらに、系統分類群あるいは遺伝子組成の時空間分布にパターンがあるという知見も報告され始めている。この時空間分布パターンは、細菌群集が異なる環境条件やその変動に応答した結果、形成されたものだと考えられる。特に、有機物分解酵素をコードする遺伝子の時空間分布は、有機物の代謝活性の定性的な分布を示唆している可能性がある。一方で、有機物の代謝に関与する細菌群集の生物量、活性といった定量的なパラメーターの時空間分布に関する知見は少ない。そのため、細菌群集による有機物代謝の量、速度の変動と、その支配要因に関しては、依然として不明な点が多い。細菌群集の動態と、物質循環過程における細菌群集による有機物代謝の機構の解明には、分子生物学的な手法をもちいた細菌群集構造の解析と、細菌群集の物質代謝量の測定を組み合わせた相補的な観測が必要であると考えられる。
  • 松井 一彰, 成田 勝, 遠藤 銀朗
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 390-397
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    水銀は生物に対して高い毒性作用を示す有害重金属である。しかし水銀耐性遺伝子を持つ細菌は、水銀を様々な形態に変換させる事によってその毒性作用を回避する事ができる。このような細菌による水銀の形態変換は、水銀の地球規模での循環にも深く関与していると考えられているが、地球上における水銀耐性細菌および水銀耐性遺伝子の分布・分散様式についてはほとんどわかっていない。近年、砂塵に付着し左細菌は、数千キロメートルという距離を超えて移動・拡散している事が明らかになってきた。また原核生物である細菌は、個体間で遺伝子を授受する「遺伝子の水平伝播」によって同種内における遺伝子の多様さを産み出していると考えられている。本稿では、地球規模で細菌細胞および遺伝子が移動・拡散している事を追跡するための指標として、Bacillus属細菌がもつ水銀耐性遺伝子を指標にした研究例を紹介する。これまでに発見されているBacillus属細菌がもつ水銀耐性遺伝子の多くは、TnMERI1型の水銀耐性トランスポゾンの構造を取っている物が多い。そこでこのTnMERI1型トランスポゾンとその外側にみられるDR (Direct repeat)配列を基に、細菌細胞と水銀耐性遺伝子の分散について検証したところ、(1)水銀耐性遺伝子が細菌種間で水平伝播されており、遺伝子の分散が起こっている事、(2)同一の遺伝子を持つ同属同種の細菌細胞が地球規模で分布している事がわかってきた。今後は目に見える生物を対象に研究されてきた生態学分野の知見も取り入れ、微生物世界の分布・分散についての理解を深めていく必要があると思われる。
  • 三木 健
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 398-406
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    最近の技術発展により、細菌群集の組成を高い解像度で検出することが可能になってきた。その結果、湖や海洋において、細菌群集の組成に空間的な不均一性と時間的な変動性が普遍的に見られることが明らかになりつつあり、現在、細菌群集組成の時空間動態の機構を理解することが求められている。そこで本論ではまず、細菌群集組成の時空間動態に関して、微生物生態学において広く受け入れられているeverything is everywhere仮説について解説する。次にこの仮説について、群集生態学の理論の一つであるメタ群集理論の視点から修正を加え、細菌群集組成の時空間動態と細菌群集が担う物質循環過程の関係に関して議論したい。ここで提案する新たな仮説は、「局所環境における細菌群集組成の素早い変化による群集レベルでの環境応答は、周囲の環境からの細菌個体の移動分散によって支えられ、その結果、細菌の担う物質循環過程の環境応答の規則性が生み出される」というものである。この仮説を、生態系の環境応答の予測という視点から捉えると、細菌個体の移動分散過程を考慮したメタ群集モデルを使えば、細菌の担う物質循環過程の環境応答をよりよく予測できると考えられる。そこで最後に、この仮説に基づく研究の一例として、海洋における有機炭素の鉛直輸送過程(生物ポンプ)の環境応答を、メタ群集モデルを用いて予測した研究を紹介する。
  • 内井 喜美子
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 407-411
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    近年の研究の発展により、動物の消化管共生微生物のさまざまな働きが明らかになってきている。本稿では、腸内微生物を中心に、これまでに明らかにされた消化管微生物の機能について紹介し、消化管微生物が宿主の生理・生態に果たす機能の重要性を示した。さらに、その重要性をふまえ、宿主の環境への適応に対して消化管微生物がどのような役割を果たしうるか考察した。
  • 西田 貴明
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 412-420
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    土壌中に普遍的に存在しているアーバスキュラー菌根菌(AM菌)は、植物の根に共生することで植物の栄養塩類の供給を促進し、植物の発育や定着を助ける。AM菌は、植物の形質を介して植食性昆虫の発育や生存に正から負まで様々な影響を及ぼす。このAM菌の影響の違いは、植食性昆虫の摂食特性ごとにAM菌による植物の形質変化に対する感受性が異なることで現れる。さらに、AM菌は、この感受性の違いによって植物上に植食性昆虫群集の構成を変える可能性がある。また、土壌中には多くのAM菌が同所的に生息し、植物は複数の種類のAM菌と同時に共生関係を結んでいる。AM菌の種や種構成の違いは、植物の成長や質に差を生み出し、その結果、植食性昆虫の発育や生存の違いをもたらす。このため、AM菌が植食者に与える影響は、植食者の違いだけでなく、AM菌の違いによっても変化する可能性がある。本稿では、AM菌が植食性昆虫に及ぼす様々な影響を紹介し、この影響の違いをもたらすメカニズムについて考察する。さらに、この分野の研究が植物と植食性昆虫の相互作用研究に果たす役割について、「群集の形成過程」と「植物の誘導防衛」に注目して論じる。
  • 齋藤 保久
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 421-
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
  • 加藤 憲二
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 422-423
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
  • 三木 健, 松井 一彰, 横川 太一, 西田 貴明, 小林 由紀, 内井 喜美子
    原稿種別: 本文
    2007 年 57 巻 3 号 p. 424-431
    発行日: 2007/11/30
    公開日: 2016/09/16
    ジャーナル フリー
    本特集では、微生物群集の構造やその群集が持つ機能の、時空間的不均一性に注目した話題を提供してきた。さまざまな空間スケールでの微生物群集の空間分布と物質循環の関係についての4つの話題と、共生微生物と宿主間の柔軟で可塑的な相互作用に関する2つの話題について、それぞれ整理する。それを受けて、自由生活微生物と環境の関係と、共生微生物と宿主の関係という一見関連性の低い事象を統一的に理解するために「マイクロビアル・プール」という概念を提案する。地球上のすべての微生物およびその遺伝子の集合体として定義されるマイクロビアル・プールが、生態系の中でどのような役割を担っているのかを、注目する時間および空間スケールに応じて分類する。最後に、マイクロビアル・プールがいかに地球上の生物多様性に影響を与えうるかを論じたい。
連載1 えころじすと@世界(8)
連載2 野外研究サイトから(8)
連載3 博物館と生態学(6)
連載4 学校便り(4)
連載5 北極紀行(4)
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